パーソナルコーディネート (お買い物同行)/magenta-hikariさん編
今回のクライアントは3回目のリピート、magenta-hikariさんです。
当日、昨年の8月にコーディネートさせていただいた服を着てきてくださり、その時に購入された服たちが向こうで非常に評判が良く、職場や周りの人たちからとても褒められたということでした。一緒にお買い物をした時のことをよく覚えてくださっていて、「あの体験は私にとって洋服に対する概念が全く変わった」と仰って頂けました。このご報告は私にとってはとても嬉しくて、私が目指しているのはまさにこれなんだな、と改めてこの仕事を始めてよかったと思いました。
hikariさんは海外在住ですが、今回も前回同様、夏の終わりのこの時期に一時帰国されるということで、お買い物同行のオファーをいただきました。
ここ数年、特にコロナ禍に入ってからのアパレル業界は、服の作り方も売り方も少しずつ変化してきました。
外出が制限された3年前のロックダウンの時、まさか百貨店が営業停止になるなど前代未聞のことでした。大型ショッピングモールも同様です。閉まっているから買えない。そして出掛けないから洋服はいらない。必要なものは簡単にネットや通販で買うことが主流になり、店舗販売の売り上げは激減。売れないとメーカー側は次のシーズンの生産に大きく支障をきたします。作れないから売り上げの数字が上がらないという悪循環が起こりました。
現在、コロナのピークは過ぎたといっても半年先の生産がいきなり以前と同じに戻るかといったらそうではありません。売上は低迷のままですから(夏は特にそうです。単価も低く、この酷暑で買い物に出かけること自体が億劫になる。汗をかいているときに試着はしたくないというのはよく分かります)そう簡単にはお客様は戻っては来てくれません。
その流れは作り方、売り方の変化にも表れています。この時期、本来は夏物のセールはまだまだ好調で、ファッションに敏感な人はすでに秋物の立ち上がりをチェックする時期なのですが、ここ数年の傾向として温暖化による長い夏の終盤戦に“今着る服“つまりは盛夏ものをプロパーで上げて(生産して)くるメーカーが増えてきました。売る“モノ”がなければ商売にならないのに、もともとシーズン全体の生産量が少ないから当初のままでは夏の最後まで売り場がもたないのです。かといって次シーズンの秋物入荷はまだもう少し先。今作って今売るものが必要、ということになります。企画生産の細やかな計画がこの厳しい時期の明暗を分けるのです。
反対に消費者側の目線から言うと、新鮮なものはたとえセールになっていなくても欲しくなるものです。見るからに“夏の残り物”といったヨレヨレの在庫品では安くても買う気になりません。売れ残りは誰も欲しくないのです。この時期、価格を抑え、今シーズン好調だったデザインや色柄物をこの時期プロパーで上手く展開できているショップは外から見てもよく分かります。夏本番の時期に今着る新鮮なものを買いたい、できれば秋の初め頃まで着回しがしたい、というニーズに合わせた商品展開が可能なメーカーは客足が戻っている印象です。昔とは業界の流れ全体が明らかに違ってきています。
さて、前置きが長くなりました。今回のクライアントのご希望は前回同様「心浮き立つもの」「仕事にもプライベートにも使えるもの」「自分では選ばないような新鮮な出会い」ということで、つまりは全面的にコーディネーターである私に丸投げ状態という嬉しいご注文でした。腕が鳴ります。
今回選んだ場所は、ルミネ有楽町です。昨年買い物同行をした丸井のお隣、もう少しハイグレードなショップが多く入っています。気分を上げていざ、参りましょう。
たくさんのショップが入っていますが、hikariさんに合いそうなお店は既に数件目星をつけていました。そことは別に、今回は服に対する解像度が上がっているhikariさんの感覚を確かめたくて、「好みのものや着てみたいものがあったら手に取ってみてくださいね」と伝えていました。これまでのように全て私の提案を受け入れる、というところからのステップアップを目指します。
最初に入ったお店でパッと目についたのが綺麗なメロングリーンのロングスカートでした。抑えた光沢のある生地で、軽やかな夏の装いにぴったりです。その隣には色違いのグレイもありました。無難なものを探す人なら迷わずグレイを選ぶでしょうが、ここは迷わずグリーンを推します。hikariさんの反応もいい感じです。こんな色は自分では絶対に手に取らないと言いながら、心は浮き立つご様子が感じ取れます。
hikariさんの体型は一般的に言えば9号、Mサイズなのですが、上半身が華奢で肩が小さく、トップスは7号でも十分です。しかし下半身はご自身でも悩みの種のようで、少々腿が張っておられます。ボトムのデザイン次第でスタイルアップの明暗が分かれる体型です。デザイン的には前回も選んだプリーツのロングスカートやヒップから腿にかけてゆとりのあるテーパードパンツがお似合いです。前回のスカートは大胆な柄物を選びましたので、今回は無地の色物を探そうと思っていたので、このメロングリーンのスカートは一番に候補に挙げておきましょう。
同じお店でトップスも見ておきます。白のカットソー(布帛ではなくTシャツなどに使われるニット)生地のフレンチスリーブ(肩が隠れるぐらいの短い袖丈)のプルオーバーです。ネックラインはデコルテ(首の下、胸にかけての鎖骨のあたり)を美しくエレガントに見せるよう広すぎないV開きになっています。こういったプルオーバーは、ブラウス同様の着映え効果を狙えるので暑い夏にはとても重宝するのです。一枚で素敵に決まって洗濯などの扱いも簡単。ネックラインの美しいトップスはオンラインのお仕事などにも重宝します。しかも白は“レフ板効果”でお顔が明るく肌が綺麗に見えるので、女性には嬉しい効果もあります。この2枚を頭に入れておいて、次の店に移動しましょう。
目星をつけていたセレクトショップに移動し、ずらりと並んだこの夏の流行を紹介します。実際に選ぶものではなくても、今シーズンの流れを見ておく、というのはとても大事なことです。選ぶ基準が変わるというか、今注目の色やデサインを自然と受け入れられる目を養うことができるのです。
流行の最先端のものを無理に取り入れる必要なないけれど、今どんなものが新鮮なのか、そして世の中に受け入れられているのかというのを知っているか否かで、自分の選択する基準や審美眼を養うことに繋がります。また、新しいものに対する価値観をアップデートすることで、自分の固定観念を崩すことにも役立ちます。マンネリ打開、新境地を開く、といった役割も果たしてくれます。
「このデザインが今、巷では流行っていますよ」「この柄の感じはhikariさんに似合うと思います」「この素材は晩夏から初秋にかけて役立ちますよ」など、アドバイスをしながら巡っていきます。hikariさんはその都度目をキラキラと輝かせながら頷いたり感嘆したりと忙しいです。
複数のブランドが入ったそのセレクトショップでは、白地にカラフルなプリントのフレンチスリーブのブラウスと、シルバーグレイの透け感のあるプリーツスカート、そしてマゼンタピンクのリネンのカーディガンに目星をつけて次のショップへと移動します。
hikariさんは「黒は着ない」と仰っていましたが、ここでは敢えて黒のカットソーに目をつけました。これは使える、とピンときました。理由はそれまでに選んでいたものたちとのバランスです。目星をつけていた2枚のスカートはどちらも柔らかな中間色でボリュームのあるシルエットで光沢のある素材です。そして2枚のトップスは白のカットソーとプリントのブラウス。どちらも甘いテイストでエレガント。ここに黒のトップスを投入することでコーディネートのバリエーションがグンと広がるのです。
デザインは小さなラウンドのネックラインで地厚なカットソー生地、丈は短めでフレンチスリーブ、カジュアルでコンパクトな印象です。これに柔らかいスカートとスニーカーを合わせるとこなれた雰囲気が漂い、ワンマイルのお出掛けや気軽なランチなどにぴったりのコーディネートがイメージできます。
hikariさんも合わせやすいデザインとカジュアルなネックラインが気に入られ、「これなら逆に黒がいいかも」と意見が一致。今回初の試着室へ。
フッティングルームに入られて着替えている間にパンツを探します。
これまで目をつけているトップス2枚と、今試している黒のカットソーに合う、キャメルベージュのサテン地のパンツを見つけました。ウエストゴムでドローストリング(紐で絞る)カジュアルな中にも品のあるデザインです。色違いはダークグレイです。
hikariさんのイメージでダークグレイのパンツに黒のトップスでは印象が重くなってしまうな、と思い、キャメルベージュを持ってフッティングルームに突っ込みます。「これも合わせて履いてみてください!」
フィティングは意外に体力がいるものです。何度も脱いだり着たりしているうちに、段々疲れてきて思考が鈍くなってくるのです。一度の試着で済むよう、なるべく合理的に試着時間を短縮するのも服選びの大事なポイントです。
試着室から出てこられたhikariさん、とてもいい感じです。気に入っているのがお顔の表情で良くわかります。「いいですね!」思わず声のトーンが上がります。
黒のコンパクトなトップスにソフトな素材のキャメルベージュのワイドパンツでシンプルな大人のカジュアルスタイルができました。
ひとつ、問題はパンツ丈のみです。ヘムひと折り分の4センチ。内側に折り返してバランスを見ます。余計なクッションなくストンとした落ち感でスッキリした印象になりました。私にとっては当たり前のことですが、「お直しして洋服を買ったことがない」というhikariさんの言葉に新たな気づきを得ました。これが洋服に対する概念の違いなんだなと。きっとお一人で買い物していたらこのパンツは「なんだかもっさりしている。私には合わない」という印象で却下されていたと思います。
近頃よく思うのですが、ショップの店員さんがフィッティングにあまり関わらない印象があります。これは私が受ける感覚だけなのかもしれませんが、試着して出てきた時に服をお客様の体型に合わせることをあまりしないような気がするのです。着てみて気に入ったらどうぞ、というスタンスというか、あっさりした対応が今時なのかな?と時々思います。ちょっとウエストを摘んだり、裾丈を調整するだけで印象は全く違ってくるのですが、あえてそれをやらない。またはできないのかもしれません。それで販売が成り立っているというのが不思議でなりませんが……。余計な一言ですね。
閑話休題。
まずは黒のトップスとキャメルベージュのパンツの購入が決まりました。
パンツのお直しが帰国の日に間に合うことを確認して依頼します。
ここからは逆回りで巡ってきたショップへと引き返して、目星をつけていた子たちをお迎えにいきましょう。
二番目に入ったショップでプリントのブラウスとシルバーグレイのプリーツスカートとマゼンタピンクのカーディガンを試着します。
それぞれコーディネートのアドバイスをしながら、サイズを確かめます。
最近はウエストゴムが主流なので、シルバーグレイのスカートは少し緩いようで、Sサイズに変更します。マゼンタピンクのカーディガンはなるべくコンパクトにキュッと着るのが若々しくて可愛いので、たまたまセールで残っていたSサイズでぴったりでした。ラッキーですね。
プリントのリボンタイ付きブラウスはワンサイズのお作りでしたのでこれでよし。3着がスムーズに決定しました。
最初のショップに戻ります。メロングリーンのフレアスカートと白のプルオーバーを試着します。ここでもう一本、白のテーパードパンツを投入しましょう。地厚なコットン素材でhikariさんの体型に似合うテーパードパンツ、しかも白は必ずヘビロテ間違いなしのアイテムです。先ほどの黒のトップスとも、プリントのブラウスとも、そして秋から冬にかけてダークカラーのセーターやコートが多くなってきた時に真っ白のパンツというのはとても効果的なのです。しっかりとしたコットン素材は季節関係なく使えるため、敢えてお薦めしました。
試着室から出てこたれたhikariさんはご機嫌です。「このカラーは気に入りました」とメロングリーンの“今まで着たことがないもの”をすんなりと受け入れておられました。第一印象で目をつけただけあって、めちゃくちゃ似合っています。
白のトップスもよく映えます。軽やかで動きのある綺麗な色のスカートにテンションが上がっているご様子にこちらまで嬉しさが伝わってきます。
白のテーパードパンツはサイズで悩みましたが、動きやすさとヒップの当たりを検討して、少しゆとりのあるMサイズにしました。(これだけ写真を撮り忘れた!)
ボトム選びの時に特に注意するべきはヒップです。ウエストがピッタリでもヒップがピチピチだと下着のラインや弛んだボディーラインがひびいてしまうことがあります。白は特に注意が必要です。これは見た目にも美しくありません。パンツはヒップで選んでください。ゆるいウエストは直せばいいのです。
今回は3店舗で、スカート2着、トップス3着、カーディガン1着、パンツ2着をお選びし、ご購入に至りました。前回までのコーディネートでお選びした手持ちのものとも全てコーディネートできるように選びました。
帰国される度に少しずつコーディネートのバリエーションが増えていくhikariさん。ご自分でもファッションへの想いが変化されていくようで、見ていてワクワクしてしまいます。どうかこれからもファッションを楽しんでいってくださいね。
今回も大満足の仕事ができました。ありがとうございました。
後日、hikariさんから嬉しいDMが届きました。
新しい服を着て、真夏の東京を満喫なさっているご様子が伝わってきます。
〈今回のお仕事内容と料金〉
*内容 パーソナルコーディネート お買い物同行
*場所 ルミネ有楽町
*ショップ リヴドロア / アーバンリサーチ / トゥモローランド
*時間 2時間
*料金 15,000円 (2時間を目安にしています。延長料金はかかりません)
*パーソナルコーディネートのご依頼はツイッター(X)のDMまで。
お買い物同行の他、オンラインでのセッションやテキストでのアドバイスも行なっています。ご質問、お問合せなどお気軽にどうぞ。
以前のお仕事は下のマガジンでお読みいただけます。ご参考まで。
*この記事の内容及び画像はクライアントの許可を得ています。
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