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【鑑賞メモ】映画「彷徨える河(El abrazo de la serpiente)」

今回は「読書メモ」ではなく、映画の「鑑賞メモ」です。

南米コロンビアのシーロ・ゲーラ(Ciro Guerra)監督の映画「彷徨える河(El abrazo de la serpiente)」は、2015年5月にコロンビアで劇場公開されました。2015年の第68回カンヌ国際映画祭で監督週間芸術映画賞を受賞し、2016年には第88回アカデミー賞の外国語映画賞に。コロンビア映画として初めてノミネートされました。

記事を書く順番は前後しましたが、この次の作品として、2018年公開の「夏の鳥(Pájaros de verano)」があります。

この映画は、アマゾンを舞台とした2つの時代のエピソードが交錯するのですが、その2つの時をつなぐ中心人物は先住民シャーマンのカラカマテ(Karamakate)です。

1909年、ドイツの民族学者テオドール・コッホ・グリューンベルク(Theodor Koch-Grünberg)がアマゾンを訪れ、カラマカテという青年に出会います。テオドールは自らの病を治すために、カラマカテと共に幻の薬草ヤクルナ(yakruna)を探す旅に出ます。

一方、1940年、米国の植物学者リチャード・エヴァンズ・シュルテス(Richard Evans Schultes)はヤクルナを探しにアマゾンに向かい、そこで約30年後のカラマカテ老人に出会います。老いたカラカマテはヤクルナの在処を覚えておらず、それでもリチャードと共に旅を始めます。

1909年と1940年のふたつの時間が交錯し、時代とともに大きく変化していくアマゾンの様子も描かれます。アマゾンの天然ゴムブームに沸く一方で搾取される先住民、ジャングルの中の教会で先住民の子どもたちを教化という名目で虐待する修道士…。テオドールもリチャードも実在の人物で、この映画はふたりの手記を基にした物語です。

日本では「彷徨える河」という邦題で、2016年5月に公開されました。

つい最近、ゲーラ監督は女性8人から性的暴行で訴えられており(それについては「夏の鳥」の記事で書きましたが)、作品の紹介への躊躇いもありました。ただ、映画の主人公カラマカテの老年期を演じたアントニオ・ボリバル(Antonio Bolívar)氏に訃報があったので、この記事を書きました。

2020年4月30日、アントニオ・ボリバル(以下、敬称略)が新型コロナウイルスで亡くなりました。75歳でした。この報道を知った時、僕は非常に驚きましたし、悲しかったです。

エル・ティエンポ(El Tiempo)紙が、その時の様子を時系列で詳しく伝えています。

アマソナス(Amazonas)県のレティシア(Leticia)に暮らしていたアントニオは、4月24日から症状が出始め、一度は40度以上の発熱があったものの、先住民の民間療法で熱が下がりました。が、4月26日に再び高熱となり、アントニオの息子クリスティアン(Cristian)は救急車を呼びました。救急車の到着が3時間も遅れたり、病院の空きがないなどの問題があり、すぐに処置はできなかったそうです。入院後、アントニオは隔離され、クリスティアンは会うことができませんでした。父の死を知ったのも、医師からの電話でした。

息子クリスティアンは、「父アントニオは、生前、映画『彷徨える河』に出演したことをいつも誇りにしていた」と語っています。

ご冥福をお祈りいたします。

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