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移民・難民をめぐる感情:ベネズエラ国民の意識とラ・グアヒラ県の人びとの葛藤

※本稿は、2019年1月に作成したものです。

はじめに

本稿は、政情不安と経済危機に端を発するベネズエラからの移民・難民の流出と、それをめぐる諸問題について、人びとの「感情」の側面から考察する。より具体的には、ベネズエラ国民に対して実施されたアンケート調査に表出する意識の変遷と、ベネズエラから大量に人が流入するコロンビアのラ・グアヒラ(La Guajira)県の住民が移民に対して抱く感情と、その一方で生まれる連帯の動き、そうした葛藤する感情である。

本稿の構成は、次の通りである。第I章では、坂口(2018a; 2018b)の論考を参照しながら、ベネズエラが移民・難民を排出する要因としての政情不安と経済危機について述べる。第II章では、宮本(2018)、各種ニュース記事や公的機関の報告書を参考とし、ベネズエラの政情不安と移民・難民増加に対する、国際社会・ラテンアメリカ地域・コロンビアの反応について説明する。第III章では、まず、ベネズエラ国民に対して実施された意識調査の結果から、国民意識の推移と政治的経済的事象との符合を確認する。次に、筆者がフィールドワークで得た情報や現地のニュース記事をもとに、ベネズエラと国境を接するコロンビアのラ・グアヒラ県の人びとが持つ葛藤する感情について述べる。

I. ベネズエラ国内政情不安・経済危機

I-1. 政情不安

2013年3月5日、ベネズエラで約14年もの長期政権を築いた、チャベス(Hugo Chávez 任期:1999-2013)元大統領が死去した(ロイター 2013)。その政治体制を引き継ぐ形で大統領に就任したのが、マドゥロ(Nicolás Maduro 任期:2013-)である。

坂口は、マドゥロ政権がチャベス政権期よりも権威主義色を強めているとし、その重要な契機として、2015年12月の国会議員選挙を挙げる。その選挙では、反政府派が3分の2議席を獲得した。これに対抗する手段としてマドゥロ政権は、最高裁判所を使って国会の立法権限を制限した。国会で成立した法律を最高裁で違憲判断とすることで、国会の権限を無効化したのである(坂口2018a: 48)。

さらに最高裁は、2017年3月、国会の立法権を剥奪し、最高裁憲法法廷が引き継ぐと決議した。これに対しては、国内外の批判が集中し、マドゥロ大統領は決議を取り下げた。しかし、4月以降、権威主義色を強めるマドゥロ政権に対する、反政府派によるデモが激化した。こうした政治的混乱を収めるため、マドゥロ政権は7月30日に、新憲法を策定するための制憲議会選挙を強行的に実施した(坂口 2018a: 49)。

反政府派は、選挙に参加すれば選挙の実施を正当化してしまうことにもなるため、選挙をボイコットした。結果として、制憲議会の全議員が政府派となった。そして、8月4日に、制憲議会が発足した(坂口 2018a: 53-55)。

そして2018年5月に実施した大統領選挙でマドゥロが再選され、現在に至る。坂口が指摘するように、マドゥロ政権は権威主義色を強めてきており、ベネズエラでは、民主主義がまともに機能していないといえる。こうした政情不安は、ベネズエラ人、特に反政府派の人びとが国外に流出する要因の一つとなっている。

I-2. 経済危機

ベネズエラは、2014年第1四半期から4年連続でマイナス成長となっている(坂口 2018b: 37)。こうしたベネズエラの経済縮小について説明がなされる際、国際的な石油価格の下落が主要因とされるが、それだけでは十分な説明とはならない、と坂口は指摘する。坂口は、経済縮小の重要な要因は、「チャベス期以来の国家介入型経済政策が生んだマクロ経済の歪みや生産部門へのダメージの蓄積」であると主張する(坂口 2018b: 46)。

ベネズエラでは、加速するインフレが深刻な問題となっている。国際通貨基金(International Monetary Fund: IMF)によるベネズエラの消費者物価上昇率の年平均値は、2015年は111.8%、2016年は254.4%であった。以降、2017年に1087.5%、2018年には13864.6%と1桁ずつ増加していくハイパーインフレ状態である。坂口は、財政赤字の拡大と、それを補うための貨幣の増発による通貨価値の下落を、インフレの主要因として挙げる。そして、外貨不足とベネズエラ経済への不信感も加わり、さらにインフレを加速させている(坂口 2018b: 41-42)。

マドゥロ政権は経済危機を打開し、デフォルトを回避するため、輸入量を制限し、外貨を債務支払いにあてる政策をとった。しかし、このことにより、国内の食料品や医薬品が不足する事態をもたらした(坂口 2018b: 44)。

経済や財政の失策によって経済危機を招き、国内で財が不足し、移民・難民を発生させる要因となっている。政治的要因で国外に出るエリート層だけでなく、経済危機と食料・医薬品不足によって、より一般の人びとにまで国外への移動が広がっていると考えられる。

次章では、ベネズエラのマドゥロ政権と、流出する移民・難民に対する、国際社会・ラテンアメリカ、そして隣国コロンビアの反応について述べる。

II. 国際社会・ラテンアメリカ、隣国コロンビアの対応

II-1. 国際社会・ラテンアメリカの対応

2017年7月の制憲議会選挙と2018年5月マドゥロの大統領再選は、民主主義に基づく正当な選挙ではなかった。これらの選挙に対しては、国際社会からの厳しい批判があった。例えば、G7(仏・米・英・独・日・伊・加)は、ベネズエラ大統領選挙の直後に、選挙結果を拒絶する共同声明を出した。米国、カナダ、欧州連合(European Union: EU)は、マドゥロ大統領やベネズエラ政府要人に対する渡航禁止と自国内の資産凍結措置を取り、経済制裁をおこなっている。ラテンアメリカ地域においては、リマグループ14ヶ国 が、在ベネズエラ大使を召還した(坂口 2018b: 36)。

ベネズエラからの移民・難民の増加については、ベネズエラ政府は、難民が大量発生している報道はフェイクニュースとする立場である(宮本 2018: 14)。

そうした状況の中、2018年3月、国連難民高等弁務官事務所(Office of the United Nations High Commissioner for Refugees: UNHCR)は、ベネズエラから流入する人々を「難民」として取り扱うよう求めた(Kitidi 2018)。

これを受けて各国による支援の動きが広がった。米国は、同年3月と8月、コロンビアに入るベネズエラ人に対する食糧支援や難民対策のための費用を拠出すると発表した。EUは同年6月、ベネズエラ周辺国に対する人道支援の実施を公表した。日本政府も支援として、コロンビアのラ・グアヒラ県のリオアチャ(Riohacha)市とマイカオ(Maicao)市、ノルテ・デ・サンタンデール(Norte de Santander)県のククタ(Cúcuta)市の移民支援施設や病院に、機材や物品を提供した(宮本 2018: 14)。

移民・難民対策をめぐるラテンアメリカ地域の動きとしては、2018年9月、エクアドルのキトで地域13ヶ国がおこなった会合がある。採択された「キト宣言」では、各国によるベネズエラ人の受け入れが明記されるも、具体的な内容に言及するには至っていない(宮本 2018: 13-14)。

II-2. 隣国コロンビアの対応

ベネズエラ移民・難民の流入が一番多いのは、コロンビアである(宮本 2018: 12)。2010年からベネズエラ移民の大量流入が始まり、2015年には深刻な状況となった(El Universal 2018)。2015年以降、在コロンビア外国人の中でベネズエラ人が大部分を占めており、2017~2018年の間には、コロンビア在住の全外国人のうち87%をベネズエラ人が占めるようになった(Proyecto Migración Venezuela 2018d)。このようにコロンビア国内ではベネズエラからの人の流入は大きな問題となっている。

UNHCRと国際移住機関(International Organization for Migration: IOM)の支援により、コロンビア国内のベネズエラ移民に対する行政登録調査(Registro Administrativo de Migrantes Venezolanos en Colombia: RAMV)が、2018年4月6日~6月8日の期間に実施された。RAMVは、コロンビア国内のベネズエラ人の実数を把握することで、具体的な施策に反映させることを目的としたものである(ACNUR 2018)。

RAMVによると、国内で登録されたベネズエラ人は442,462人であった。そのうち約84%の369,594人が、1年以上の長期間コロンビアに滞在する意思を示した。38,214人がいずれベネズエラに帰還し、8,654人が第三国へ移動する意思を示した(RAMV 2018)。

コロンビア移民局(Migración Colombia)の報告による、2018年8月30日時点でのベネズエラからの正規の移民は468,428人で、正規に登録中の移民は361.399人で、非正規は105,766人であった(Becerra Elejalde 2018)。

コロンビア政府は、ベネズエラから流入する人びとを「難民」ではなく「移民」としている。サントス(Juan Manuel Santos 任期:2010-2018)前大統領は、ベネズエラから流入する人びとに難民の地位を付与するつもりはないことを明らかにし、後任のドゥケ(Iván Duque Márquez 任期:2018-)大統領も同様の立場をとる。実際、コロンビアで難民登録されたベネズエラ人は少ない。2018年8月31日までに、コロンビア政府が難民認定したベネズエラ人は2057人で、これは全世界が難民認定したベネズエラ人365,565人の0.6%にすぎない。一方、ペルーでは、150,274人のベネズエラ人が難民認定されている(Peña 2018)。

コロンビア国内にいるベネズエラ人の23.50%は首都ボゴタにいる。ロサリオ大学(Universidad del Rosario)のベネズエラ研究所(Observatorio de Venezuela)のロドリゲス(Ronal Rodríguez)研究員は、ボゴタがペルーやチリなど第三国への移動手段を確保するための場所となっている、と説明する(Becerra Elejalde 2018)。

ベネズエラ人が入国するための方法には、国境移動カード(Tarjeta de Movilidad Fronteriza: TMF)とビザがある。TMFは、国境地域の居住者が無料で交付を受けることが出来るカードで、所持することで自由に出入国と最長7日間の滞在ができる。ベネズエラ人が利用できるビザについては3種類ある。一つめは、90日間滞在できる観光ビザで、正規に入国すれば自動的に付与される。二つめは、5年更新の居住者ビザで、過去にコロンビア国籍を持っていた人、コロンビア国籍を所持している両親や子どもがいる人などの条件がある。三つめは、3年更新の移住者ビザで、居住者ビザの条件を満たさない人で、長期的に滞在する目的を持つ人が対象となる(Proyecto Migración Venezuela 2018b; 2018c)。

コロンビア国籍や居住者ビザを持つ人の子どもに対しては、国籍が自動的に付与される。しかし、コロンビア国内で生まれた子どもでも、両親が不法移民のベネズエラ人である場合は、無国籍となるリスクがある(Proyecto Migración Venezuela 2018a)。

III. ベネズエラ国民の意識とラ・グアヒラ県の人びとの感情

III-1. 意識調査の結果にみるベネズエラ国民の意識

本節では、ベネズエラ国民に対して実施された意識調査の結果をもとに、ベネズエラ国民の意識とこれまで述べてきた事象との符合を示す。

ラティノ・バロメトロ(Latinobarómetro)は、ラテンアメリカ各国でおこなった意識調査の結果を公表している。ベネズエラでおこなった意識調査を見ると、マドゥロ政権が誕生した2013年を境に、国民の意識にも変化があったことが読み取れる。

グラフ1は、「ベネズエラが抱える問題で、最も重大なものは?」という質問に対する回答数を、2010年~2017年の期間で抜き出してまとめたものである。特に回答数が多かった、「犯罪・公共の安全」「失業」「経済・経済問題・財政」「供給不足・食糧不足・商品の買い占め」「インフレーション・価格の上昇」「国内情勢・政治問題」の6つをグラフ化した。

【グラフ1】ベネズエラが抱える問題で、最も重大なものは?

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(出所)Latinobarómetro <http://www.latinobarometro.org/lat.jsp>より筆者作成。調査対象は各年1200人。数字は%。2012年と2014年のデータは無し。2010年と2011年は「供給不足・食糧不足・商品の買い占め」の項目は無し。

2013年を基点に見てみると、「供給不足・食糧不足・商品の買い占め」の回答数の増加が顕著である。もちろん、それ以前にはその回答項目自体が存在しなかったことを勘案する必要がある。しかし、2013年からその回答項目が追加されたこと、そのこと自体に意味が見出せないだろうか。

2016年以降、「国内情勢・政治問題」の回答数が上昇していることは、坂口がマドゥロ政権権威主義化を強めた契機として指摘した、2015年12月の国会議員選挙の時期と一致する。また、同様に「経済・経済問題・財政」「インフレーション・価格の上昇」については、2016年以降、消費者物価上昇率の年平均値が1桁ずつ増加した事実と符合する。

グラフ2は、「あなたやあなたの家族は、国外移住を真剣に検討したことがありますか?」という質問に対する回答数を、グラフ1と同様の期間でまとめたものである。

【グラフ2】あなたやあなたの家族は、国外移住を真剣に検討したことがありますか?

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(出所)Latinobarómetro <http://www.latinobarometro.org/lat.jsp>より筆者作成。調査対象は各年1200人。数字は%。2012年と2014年のデータは無し。

この質問項目において、2015年を境に、「国外移住を検討したことがある」と回答した人が急激に増えている。このことは、第2章第2節で述べたように、2015年以降、コロンビアに入国するベネズエラ人が増加していることと符合する。

一方、コロンビア国民に対する意識調査で、「世界中の国々で、異なる社会集団間に対立やさらには紛争すら存在します。あなたは、国民と外国人の間にはどれだけ強い対立があると思いますか?」という質問項目がある。これは、コロンビア国民が移民・難民に対して抱いている感情を知るものとして有用である。しかし、この調査は2007年~2010年までと2017年に実施されたのみである。そのため、ベネズエラ移民が大量に入国し始めた2015年を挟んだ時期における、国民の意識の変遷を分析するのには適さない。また、調査された全体の人数の中で、ベネズエラとの国境地域であるラ・グアヒラ県やノルテ・デ・サンタンデール県の割合は非常に少なく、年度によっては、これらの地域で調査が実施されないこともあった。

これらの理由から、この意識調査によってコロンビア側の国民の意識の変化を分析することはできなかった。そこで次節からは、コロンビアの国境地域、特にラ・グアヒラ県に絞って、現地のニュース記事や、筆者がフィールドワークで得た情報をもとに、国境地域の人びとが移民・難民に対して抱く感情について記述する。

III-2. ベネズエラ移民をめぐるラ・グアヒラ県の諸問題

本節では、ベネズエラ人の流入をめぐる、ラ・グアヒラ県が抱える諸問題について説明する。

RAMVで登録されたベネズエラ人の数について、ラ・グアヒラ県は、ノルテ・デ・サンタンデール県の82,286人(18.60%)に次いで、国内で2番目に多い74,874人(16.92%)であった。ラ・グアヒラ県は、首都のボゴタ市43,483人(9.83%)を上回っている(RAMV 2018)。

ラ・グアヒラ県の国境ゲートは、パラグアチョン(Paraguachón)にあり、正規に入国する際はここを通ることになる。しかし、パスポートなどの身分証明書を持たず、他に入国する手段がないベネズエラ人は、110以上存在するといわれる「わき道」から不法入国する。わき道を通ることは大きなリスクを伴い、殺人、強盗、誘拐などの事件が発生している(Guerrero 2018b)。

大量に入ってくるベネズエラ人への対応能力は、ラ・グアヒラ県のキャパシティーをはるかに超えている。ブイトラゴ・ゴンサレス(Tania María Buitrago González)県知事は、県に視察に来たオルメス・トルヒージョ(Carlos Holmes Trujillo)外相に、ベネズエラからの移民により生じている県内の諸問題に対し、政府が財政的支援を拡大するよう要請した。すでに県と政府は130億ペソ(約4.5億円)の支援協定を結んでいるが、実際に拠出されたのは約10億ペソ(約3500万円)にすぎない(Guerrero 2018b)。

さらに、ラ・グアヒラ県がもともと抱えていた問題として水不足がある。水不足に伴う食糧不足、そして保健衛生環境も悪化している。そうした諸問題は、ベネズエラ移民の流入により、さらに深刻となった(OCHA 2018: 3)。
また、ベネズエラ移民は、地域経済への悪影響も引き起こしている。移民の増加により、労働力の供給超過が起き、地域経済に不安定さをもたらした。移民が低賃金で長時間労働に従事することにより、地域住民と移民の間の対立を深める結果となった(OCHA 2018: 3)。

III-3. ラ・グアヒラ県の人びとの葛藤

本節では、筆者がフィールドワークで聴いた地域住民の言説と現地のニュース記事から、ベネズエラ移民に対する反感と連帯、人びとの葛藤する感情について記述する。

筆者は、2018年9月1日~21日の期間、ラ・グアヒラ県リオアチャ市に滞在した。その際に聴いた、市内在住のコロンビア人の話から垣間見えるベネズエラ移民に対する反感として、「移民が入るようになってから、町が汚くなった」というものがあった。観光スポットであるビーチで、「住居を持たない移民たちが用を足すし、移民はごみを漁るので、ふたが開けっぱなしのごみ箱から異臭が漂う」という意見もあった。

現地ニュースにおいても、市内の衛生環境の悪化が取り上げられている。例えば、バロス・ブリト(Isseth Tatiana Barros Brito)市長が、ベネズエラ人に対して、公共スペースを清潔に保つよう訴えかけたことが報じられた(La Guajira Hoy 2017)。

また、市民の中には、「ベネズエラ移民によって地域の治安が悪化した」という感情を抱く人がいる。「以前は、高校生の娘をすぐ近くにある学校に通わせるのに、一人で行かせていたが、治安の悪化を心配して、登下校に付き添うようになった」と語る母親もいた。

悪化する治安については、国境に近いマイカオ市が深刻である。2018年8月26日の報道によると、マイカオ市は最も殺人発生率の高い市となり、1000人当たり19人が殺害されている。2017年に起きた県内の殺人事件221件のうち、半数近くの102件がマイカオ市で起こった(Guerrero 2018a)。

ラ・グアヒラ県の人びとが、ベネズエラ移民に対して抱くのは、排他的な感情ばかりではない。移民に対して支援する連帯の動きもある。

例えば、マイカオ市にある市民団体セニョ・グラシエラ(Seño Graciela)は簡易的な学校を設置し、コロンビア人とベネズエラ人の子どもたちに対して教育支援をおこなっている。授業を受けに来る子どもたちの多くは先住民族ワユー(Wayúu)であり、学校では食事も提供している。それが一日で唯一の食事となる子どもも多い(Banco Mundial 2018: 67)。

「コロンビア先住民の首都」と呼ばれるウリビア(Uribia)市は、住民の9割がワユーである。このウリビア市でも、ベネズエラ移民への支援の動きがある。先住民リーダーの一人であるロペス・バルリサ(Rosa Matilde López Barliza)は、移民たちが休んだり煮炊きしたりできるよう、小屋を建設して受け入れている(La Liga Contra el Silencio 2018)。

筆者がフィールドワークをおこなったリオアチャ市では、リオアチャ第一福音派教会(Primero Iglesia Bautista De Riohacha)が、ベネズエラ移民の受け入れをおこなっている。筆者が初めて訪れた2018年9月3日には、市内にある移民局の担当者が教会を訪問し、コロンビアに滞在するために必要なビザの種類や取得方法、親類にコロンビア国籍の人がいるかどうかによって状況も異なることなど、移民に対する説明会をおこなった。また、子どもたちに対しては食事を提供した。9月20日の二度目の訪問時には、子どもたちに対する教育支援活動をおこなっていた。

おわりに

本稿では、ベネズエラからの移民・難民をめぐる諸問題について、まずはベネズエラ国内の要因と国際社会や隣国コロンビアの対応について説明し、次に、そこからは見えてこないベネズエラ国民の意識や、国境地域の人びとが持つ葛藤する感情に焦点を絞って記述した。

多くの国において、国境地域は中央政府から、距離的にも精神的にも遠い存在である。それはラ・グアヒラ県も同様である。その物理的精神的な距離の遠さから、もともと水・食料不足や保健衛生インフラの不足が問題となっていたところへ、ベネズエラからの移民が大量に押し寄せたことで、さらに問題が深刻化した。地域に住む人びとには、移民に対する反感と、それでも支援が必要だとする連帯の感情、その両方が存在する。草の根の連帯の動きが生まれていることは一つの希望ではあるが、ベネズエラ移民が増加するスピードには到底追いつくものではない。周縁的な国境地域に問題を押し付けるのではなく、中央政府や国際社会によるさらなる支援と対応が必要であることは明らかである。

筆者の研究テーマと関連することとして、ベネズエラ移民としての先住民族ワユーがある。筆者が調査対象としているワユーは、コロンビアとベネズエラの国境をまたいで居住する民族である。そのため、先祖の墓があるのはコロンビア側だが、コロンビアの国内情勢が悪化した時期にベネズエラへと移り、現在もベネズエラ側に住んでいるワユーもいる。そのためワユーは、「移住」ではなく「帰還」という言葉を好んで用いる(La Liga Contra el Silencio 2018)。

ベネズエラ移民・難民問題と一括りに表現されるが、その移民・難民の中にも当然のことながら多様性がある。ベネズエラ移民の中に含まれていても、ワユー自身にとっては移民ではなく帰還者なのである。ワユーにとって国境線は後から引かれたものである。TMFを持っていれば自由に国境を行き来できるとはいえ、そこに検問所を設けられることは、ワユーにとっては移動の制限となる。ワユーの中には、先住民言語のワユーナイキ(wayuunaiki)のモノリンガルの人や、公用語のスペイン語に不得手な人もいる。そうした人びとが出入国のための行政手続きをする際、支障が生じるのは容易に想像ができる。

ラ・グアヒラ県の社会的状況を理解し、ワユーの研究を進めていく上では、ベネズエラ移民の問題は避けては通れない。今後も、ベネズエラの動向と、移民がもたらすラ・グアヒラ地域への影響を注視していきたい。

参照文献

<和文>

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坂口安紀(2018b)「混乱をきわめるベネズエラ経済:とまらない経済縮小とハイパーインフレ」、『ラテンアメリカレポート』35(1)、35-48ページ。

宮本英威(2018)「南米に広がるベネズエラ難民、生活苦で160万人脱出 ―周辺国が対応に苦慮、住民との摩擦も―」、『ラテンアメリカ時報』61(4)、12-15ページ。

「ベネズエラのチャベス大統領がんで死去、後任は副大統領が有力」、『ロイター』2013年3月6日、<https://jp.reuters.com/article/t9n0bd07v-venezuela-chavez-dead-idJPTYE92407D20130306>(2019年1月19日閲覧)。

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Kitidi, Aikaterini (2018) “ACNUR presenta nuevas directrices de protección, ante la huida de venezolanos por América Latina”, ACNUR, 13 de marzo, <https://www.acnur.org/noticias/briefing/2018/3/5af2e9345/mientras-los-venezolanos-huyen-por-america-latina-acnur-emite-nueva-guia-de-proteccion.html> (Fecha de consulta: 14 de enero de 2019).

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<欧文> ニュース記事

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“Migración venezolana: más de un millón de ciudadanos han llegado a Colombia”, El Universal, 5 de septiembre de 2018, <http://www.eluniversal.com.co/colombia/migracion-venezolana-mas-de-un-millon-de-ciudadanos-han-llegado-colombia-291329-OUEU409236> (Fecha de consulta: 14 de enero de 2019).

<欧文> ホームページ、データベース

Latinobarómetro. <http://www.latinobarometro.org/lat.jsp> (Fecha de consulta: 14 de enero de 2019).

Registro Administrativo de Migrantes Venezolanos (RAMV) <http://portal.gestiondelriesgo.gov.co/Paginas/Slide_home/Registro-Administrativo-de-Migrantes-Venezolanos-RAMV.aspx> (Fecha de consulta: 14 de enero de 2019).

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