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【他専修から】作品比較3


こんにちは

ある日の月。今週は月がきれいな日が多かった印象。

今週木曜日(1月20日)、いよいよ二十四節気のうち「大寒」になりました。
皆さまいかがお過ごしですか。

「大寒」のうち、七十二候における初候は款冬華ふきのはなさく」(ふきのとうがつぼみを出す)、

二十四節気で「大寒」の次に来るのは「立春」です。

「大寒」は字面だけだととても寒そうですが、暦の上では着々と春が近づいていますね。
最近では日が長くなってきたなあと感じるようにもなってきました。

まだまだ寒いので体調に注意しつつ、春の訪れを待ちたいところですね。


今回の話題

春の訪れは冬の終わり…ということで、後期の授業も最終回となってきました。

前回・前々回とお伝えした作品比較の授業ですが、
今回(最終回)は東洋・日本美術史研究室ではなく、
他の研究室から授業に参加してくれた学生たちが作品を選び、発表しました。
(今までは、前回の最後の作品以外、東日美の学生によるものでした)

東北大学は、研究室が違えば主に受講する講義も違うのが履修モデルとなっていますし(基本は何でも受講・聴講しても大丈夫ではありますが)、
本研究室に所属していないとなれば、本来の興味は別にある…ということです。

そうした学生が、後期の「作品比較」の講義を受け、どのような作品を選んだのか、
それに対してどんな指摘が挙がったのか、
そしてそこからどんな学びを得られたのか、
ご紹介していきたいと思います。


作品比較1

今回の1作品目はこちら。

情報量がかなり多く、授業時間内に観察しきれないため、

⑴右隻(=屏風左右のうち右側)端と中央の鶴2羽
⑵その他の景物…ハスの葉、松葉

こうした部分に絞って見ていきました。


ⅰ右隻右端の鶴
ⅱ右隻中央の鶴

まず⑴。
着目したのは「脚の描き方」です。

ⅰ-①
ⅰ-②

①の方は点描を真っ直ぐに下ろし、その点描の太さの違いで立体感を表しているようです。
また、節の部分も筆の太細を変え、凹凸を表現しています。

②の方はどうでしょうか。
こちらも節以外の部分は点描で表しますが、ランダムに打たれているのがわかります。さらに、色の濃淡で影をつけることで、脚の丸みが出ています。
節も①と同様、筆の変化で立体感を表しているように見えますが、①よりは太細の差が小さく、やや平面的に見えます。


また、こうして見てみると、脚の付け根、つまりモモの部分の羽の描き方にも違いが見受けられますね。

①は墨色が薄く、筆数は少なく、やや長めに描き、ふわふわとしている様子が伝わります。

対して②は濃く、筆数は多く、細かく短く直線的に描き、柔らかさは感じられません。


また、この写真から、黒い尾羽にも着目してみましょう。

①は軸の白い部分を濃いめの輪郭線で囲い、まわりをうっすらとグラデーションをつけた黒い羽でおおいます。

対して②は、軸の輪郭は薄く、グラデーションは軸の中央部から羽の先にかけてはっきりと濃くなる様子で表されています。

また、①と②、どちらも羽一本あたりの毛が束となって分かれています。

ここで気になるのが、ⅰとⅱの②の鶴の違い

記号が多くてわかりにくいかもしれませんが、
ⅰ-②も、ⅱ-②も、どちらも②の屏風の鶴です。そのため、描き方は同じである、と考えるのが自然ですよね。

しかし、比べてみるとこんな感じです。

ⅰ-②
ⅱ-②

尾羽の束感、グラデーション、さらにはその前で触れた脚やモモの描き方にまで、
かなり違いが見受けられることがおわかりいただけるかと思います。

①と②の屏風を比較するのが元々この授業の目的ですが、
②の屏風の中だけでも比較ができ、違いが見出せる(ものがある)ことがわかりました。

他にも②の中央の鶴(ⅱ)は頭のサイズが小さめだということも気になりますね。


また、①と②には他にも違いがわかりました。
⑵景物です。

全体の画像をみたとき、
①はやや離れた位置にうっすらと葦を描く
②はより遠くに山間を描く
と、違った方法で奥行き感を表現しています。

植物の葉も見てみましょう。

例えば、屏風中央のハスの葉です。

①は②に比べ、葉脈が薄く、さらに墨の濃度に変化があることで葉の裏表の違いまで表現しています。
また、細かな葉脈まで描きこまれ、かなり手が込んでいる印象を受けます。

その他、飛んでいる鳥などにも比較と考察が加えられました。


それでは、この作品の正体を明かしましょう。

①は雪舟の「四季花鳥図屏風」(室町時代、京都国立博物館蔵)
②もほぼ同じく、伝雪舟「四季花鳥図屏風」(室町時代、東京国立博物館蔵)

とされています。

私自身、一見すると②の方が古いかな?と思ったのですが、よく見ると①の方が手が込んでいる描写もあります。
さらに、②は鶴2羽の表現が違うことも気になります。

しかし、必ずしもそれが①は雪舟であることを示すわけではありません。

「雪舟って実際はどんな筆遣い・墨遣いだったのだろうか?」という疑問に対し、

現在作品が冠している名前や形態を過信せず、
作品を丁寧に比較してみていくことの必要性が感じられるのではないでしょうか。


作品比較2

続いてはこの作品。能面です。

パッと見て、①は少しだけ悲しそう、②は嬉しそう…というのがわかりますよね。
この表情の違いは何によるものなのでしょうか?

まず顔の下半分を見てみましょう。

口の形について、
①は口紅を口端まで塗り、歯は真っ直ぐに生えていますが、
②は口紅は口端まで塗らず、歯並びの輪郭はややアーチを描いています。

そのため、こうしたことからも
①は口角が下がり、
②は口角が上がる
と見えやすい工夫がなされています。

これは鼻周辺にも言えるでしょう。

鼻の穴と小鼻の形を見てみると、
①は半円、下にややふっくら
②はアーモンドのような形、上に持ち上がる

こうした表現から、
①に比べて②の方が、口角〜頬が上がっているように見えます。


続いて、顔の上半分に視線を移してみます。

①は②よりもかなり彫が深く、瞼が腫れぼったい様子。

もっとを拡大して見てみると、

①穴の開いた黒目部分について、上の輪郭線がカーブを描き、黒目上部が下部より多く見えている表現になっています。つまり、やや下を向く表現であることがわかります。

②こちらから見ると黒目は真四角であり、真正面を向く表現であることがわかります。

さらに、上まつ毛の部分にも違いがあります。
①は②よりも大きめにアーチを形成することに加え、
アイラインが下まつげ部分よりも太く描かれ、
ここからも①は「下を向く」表現であるとわかります。

他、
②の方が頬がふっくらしている
①の方が顎の彫りだしが深い
といった顔のつくりに関する表現や、

後毛の表現
①は根本でなく途中から分かれ、頬骨の位置よりも内側にきている髪の毛もある
②は根本から分かれて描かれており、頬骨の位置でも整っている
となっていることから、
①は②よりも乱れた様子が表現されているのでは?
といった意見が挙げられました。


この作品は、
①「曲見しゃくみ(17~18世紀)…中年の女性の面
②是閑「孫次郎」(桃山~江戸時代、16~17世紀)…若い女性の面
どちらも東京国立博物館の所蔵です。

ちなみに、杉本が現代人的な眉毛を合成してみたところ、
かなり現代にいてもおかしくないような顔立ちになりました。

ということは、現実に近い表現がなされていると考えられるでしょう。

「能面のよう」という表現は、現代では「人工的で表情に動きがない」という意味で捉えられていますが、
実際に見てみると、表情を表すために様々な表現がなされており、実際の顔にもかなり近いものであることがわかりました。


作品比較3

最後の作品はこちら。

細かいため少し見にくいですが、雲の上を昇っていく龍と、その下で荒れる波を描いたものです。

発表の担当者の方は別の作品を選択していたのですが、詳細な画像を上げる都合上難しかったとのことで、この作品になりました。
そのため、今回の他の作品選択のように他研究室の学生の意識や興味が完全に反映されているわけではありません。ただ、本作品も中々見ごたえがありましたので、ご紹介したいと思います。

ちなみに、こちらは先に種明かしをしますと、①は仙台市博物館所蔵の菅井梅関「昇竜図」(天保六年(1835))、②はそれとよく似た作品です。

それでは、まず龍周辺を見てみましょう。

①の龍の尾先やヒゲは、細く、比較的真っ直ぐに描かれており、硬さが感じられる表現です。
②は比較的太いですが、曲線を用いており、しなやかさがあるように見えます。

また、まわりの雲に用いられるグラデーションについても、
①は雲の上部分・下部分
②は下部分のみ
と、違う意識で描かれていることがわかります。


波もまた、
①はグラデーションが濃く、泡が大きい
②は薄く、泡がきめ細かい
などの表現の違いが見られます。

他に、雲の下の雨や、雲と空の境界線についても意識の違いが挙げられました。

どちらもかなり似ていますが、よく見ると違いが発見できることがこの作品からもおわかりいただけるかと思います。



ありがとうございました

いかがでしたでしょうか。
これまでと同様、作品を比較すると得られる情報量が増えることそれらを整理しながら余さず引き出すことの重要性を感じていただけたのではないでしょうか。

杉本は、こうした行為が役に立つのは、何も美術史の研究だけではないとします。
というのも、今後社会に出たとき、必要な情報を見分ける際などに必ず役に立つはずだからです。

「何となく違うな」と感じたときに、よく見ると違いが明確になっていくこと
「こっちの方がいいのでは?」と思ったときでも、よく見ると覆される場合があることなど、
普通なら「まあいいか」で済ませてしまうところでも比較を根気強く行うことで、見えている世界が全く違う風になることを、
私たちは半年かけてこの授業で学んできました。


今回の作品を提示してくれた他の研究室の学生はもちろん、本研究室にも就職後に美術史研究から離れていく人はいます。
その上、まだまだ「美術史学んで何になるの?」と考える人は世の中にはたくさんいますが、
美術史から離れても無駄にならない学びがあるということ、そして本研究室ではそれを武器にできる環境があるということをお伝えできればと思っています。


それでは、今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました!
また次回もよろしくお願いいたします。


(補足)
アップする時間がまた遅くなってしまいました。申し訳ないです…!!!
来週は授業が減りますので、そうした時間を使って土曜日の昼ごろ変わらずアップします。改めて、ぜひよろしくお願いいたします。


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