見出し画像

【授業体験】作品比較1


こんにちは

実は私タタミは年女です


あけましておめでとうございます!

昨年はnoteをよろずさんから引き継いだ年で、
どうなるかと不安もありましたが
引き続きご愛読ありがとうございました。

いつも皆さまからのご反応が励みになっております。
今年もどうぞよろしくお願いいたします!


また、一昨日1月7日は卒業論文・修士論文の提出日でした。
本研究室では大体みんな無事提出できたようでよかったです…!
執筆者の方々、本当におつかれさまでした😌

私タタミですが、年末年始かなり忙しくしていたためか、体調崩しておりました。(更新が遅れてすみません)
この時期、やはり疲れがくる頃と思いますので、みなさまもどうぞご自愛ください!!


今回の話題

さて、新年一発目の今回は。
少しだけ趣向を変えて、今週の「比較」の授業についてご紹介します!

先日6日に行われた作品比較の授業ですが、
この回から、受講している学生が、構図などが似ている江戸時代以前の作品2つを見つけて挙げ、

各自の観る「表現や意識の違い」を3点発表した上で、杉本や他の学生も考えられる違いを指摘していく、というものでした。


また、作者や所蔵など、現在それがどんな作品として扱われているのか?という情報は、
例によってそうした指摘が終わった後で明かされます。

(※今までは、杉本の提示する作品2つを比較し、その違いを指摘していくという授業です。詳しくは以下の記事をご参照ください。)


杉本のこれまでの授業を踏まえ、学生はどんな作品を提示し、どんな指摘をしたのでしょうか?

実は私は今回のこの授業に出られなかったのですが、
実際に発表してくれた三年生が、どんな感じだったのか教えてくれました!


作品比較⑴

比較した作品⑴
(一)右隻第一扇〜第三扇の拡大図
(二)右隻第四扇〜第六扇の拡大図
(三)左隻第一扇〜第三扇の拡大図
(四)左隻第四扇〜第六扇の拡大図

皆さまはどんな風にご覧になるでしょうか。

比較点ですが、授業内ではこんな感じの指摘が挙がったそうです。


①: かすみに金箔を隙間なく貼り付けている。
②: かすみの金箔に隙間が見受けられる。


①: 波のへりの輪郭線に太細の変化が付けられている。波の内に引かれる細線の間隔が変化している。
②: へりの輪郭線と細線の間隔が均一。
※(以下タタミ註)特に(四)参照


①: 水車の両輪の間にかけられている板について、近いものはへりが見えなくなり、見える角度によってへりの太さに変化が付けられている。
②: 板の位置的にへりが見えるべきもののはずなのに、へりが見えていないものがある。へりの太さが均一。
※特に(四)参照


①: 橋にかかる板の境界線に白線が入っている。(杉本は金箔の上に金泥が施されているのではないかと指摘したそう。)
②: ①のような意匠は見受けられない。


①左隻に配される柳のしなりが大きい。
②: ①に比して、しなりが小さい。

私自身は、(授業内で挙がったものもあるかもしれませんが)簡単に言えば

・金箔の剥落具合
…①の方がより剥がれており、金箔の背景が格子状に見えるほどになっている

・柳の葉の描き込み加減・描き方
…①は緻密に、②は葉数が少なく描かれる。
 また、葉の向く方向は、①は様々な方向に向いており、立体感が表現されている一方、②は基本的に左右の2方向で平面的。
(葉の向きは枝の先を見るとよくわかります)

などの点が気になりました。

作品は共に「柳橋水車図屏風」
①が長谷川等伯の落款のつく香雪美術館本、②が湯木美術館本だそうです。柳橋水車図屏風はこの他、東博本や京博本などを含む二十点以上の現存作例が確認されています。


作品比較⑵

比較した作品⑵-①
比較した作品⑵-②
右図(寒山)の比較
左図(拾得)の比較

次の作品はこちらです。
発表者の三年生は、構図のやや異なる作品について、A対称的な描き方の工夫B背景C持物と持ち方の3つに分類して指摘したそう。

その様相から、画題は唐の高僧で、脱俗していたために奇行が多かったと伝わる寒山・拾得を描いたとわかります。
そのため、右図を寒山、左図を拾得と置いて指摘が進んでいきます。

A  対称的な描き方の工夫

ここでは衣服に着目し、どのようなかき分けが行われているのかを見たそうです。

①の寒山の衣服
輪郭の線で衣の形態を表わす。一本の線の中に太い細いがあり、肘や膝の関節部分は他部分よりも細い線で皺が表現されている。
②の寒山の衣服
こちらも輪郭の線で衣を表現するが、一本の線の中に筆の太さの変化はない。また筆をとめて墨を溜まらせる部分は、その場所に布が溜まるからという意味よりも均一的な場所という意味で止めているようにみえる。(※墨溜まりが表現的な意味を為していない。) 

①の拾得の衣服
衣の輪郭線は細く、ボロボロの布感を表わすために衣の表面に濃墨で多数の線を用いている。その線には複数の太さの筆を用いている。衣服の丈は足上まで。
②の拾得の衣服
グラデーションと丸みを意識している。実際の服とはかけ離れており、ダボダボな印象を受ける。衣服の丈は膝丈で足を出す。
 

B  背景

①の寒山
岩のくぼみに腰をかける。くぼみの描き方は、へこみの部分を濃墨の太い線で、ガッガッと力強く描く。
②の寒山
筆の力強さよりも線の細かさを意識している。洞窟の中に寒山を描いており、岩の表面には複数の線や草を描く。

①の拾得
寒山と比べて筆の力強さは減り、薄い墨で背景の岩(もしくは拾得が歩いてきた道?)が描かれる。濃墨で描かれる拾得と相対して背景が薄いため、遠近感が生まれている。
②の拾得
山?を背景に瀧も描かれている。拾得と同じように沢山の線を用いて木や草が表わされる。
 

C  持物と持ち方

①の寒山
右手で経巻を持つ。
②の寒山
目線の先の岩の上に経巻が置かれる。

①の拾得
左手に箒を持ち、手首に竹筒をさげている。
②の拾得
両手で箒を持ち、笠、籠、竹筒などを背負っている。

それらを踏まえた上で、杉本や他の学生から出た指摘はこんな感じ。 

竹筒の立体感。②の拾得の竹筒は節がまがっていて不自然。

等身の違い。①の寒山拾得はおよそ5頭身であるのに対し、②の寒山拾得は7頭身である。

顔つき。①の寒山は垂れ目であるのに対し、②の寒山はつり目である。①の寒山の横顔は②の寒山ほど凹凸がないのではないか。

箒。①の拾得が持つ箒は全体的に立体的だが、②の箒は平面的で、江戸時代にこのような箒が存在したかは疑問である。

・①の形式は古画、室町か。元や明の絵画も参考にしているかもしれない。


これらの作品は、どちらも曾我蕭白の「寒山拾得図」とされています。
①は興聖寺で重要文化財に登録されているもの、②は個人蔵で屏風形式のものです。

ただ、表現がここまで違うとなると、果たして同一人物の作としてよいのだろうか…?
その点には疑問が残ると言えるのではないでしょうか。


作品比較⑶

他には、孔雀と花の描かれた作品の比較が行われました。(諸事情で、どの作品なのかは伏せます…☺️)

・孔雀の羽を構成する線
・体のポーズ
・葉の描き方
について三年生から比較の指摘があり、それを踏まえて

・孔雀の羽の塗り方
・孔雀の首の模様の描き方
・場面設定の違い
が挙げられたのですが、

杉本からは
・普通であれば孔雀は番で描かれるが、どちらの作品も雄同士を描いている
・立っている岩の種類に整合性がない
…などほか数点が挙げられ、

比較した作品はどちらも江戸時代の画家の作品と言われていますが、どちらも明治期の作では?という見解が示されました。

私としては、岩の描き方自体も…例えば窪んだように輪郭線が描かれているのに、色の塗り方で平面にしか見えず(陰影なども適切でない)、整合性が取れていない印象を受けました。

構図などが似た作品を比較をしていると、
「どちらかがどちらかを写したのでは?」
「こっちの方が時代が古い/上手いのでは?」
という見方をしてしまいがちですが、

そうした比較をした上で、「ではその制作当時の同時代的な観点から見るとどうか?」と、一旦離れて見てみることも重要です。

そんな意味でも、この作品が発表で取り上げられたことによって得られた発見は、受講している学生に取っても大きな意味を持つものになったのではないでしょうか。


追記:
その他、実際の授業ではもう一点扱いました。

作品は「鉄拐図」で、魂を吐き出して抜け殻となった李鉄拐を描いた様子の比較を行いました。

こちらも紙面の都合で掲示できませんでしたが、授業内ではこの作品を合わせて計四点、それぞれ20分を目安に展開していきました。


ありがとうございました

研究室のある四階から、図書館の方面を見た景色。16時ごろ。中々雪が解けません


比較の授業を追体験していただきましたが、いかがでしたか?

私たちはこうした授業を踏まえ、制作年代や作者を検討していきます。

美術館や博物館で、
「著名なところが所蔵しています!」
「国の指定を受けています!」

と言われると、なんだかとてもすごいものなような気がしてしまいますが、

名前を伏せた上で、さらにこうした比較をよくよく行っていくと、新たな見方が生まれることもある、ということを私たちは学んでいますし、
この機会に皆さまにも知っていただければいいなと思います😌

今回ご協力いただいた三年生、本当にありがとうございました!!!

それでは、今回もここまでお読みいただきありがとうございました!
また次回もよろしくお願いいたします。


【参考】

Twitter:noteの更新をお知らせしています!

YouTube:講義を期間限定で配信中!杉本の特別企画もあり、美術史についてより深く学ぶことができます。そして何より、ここで取り上げた講義を実際に聞くことができ、気軽に体験授業を受けることができます!

ホームページ:杉本についてもっと知りたい方はこちら。随時更新していきます!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?