
【プロとは】40 杉本通信~悟りと研究~
こんにちは

こんにちは。よろずです。例年夏は比較的過ごしやすい仙台ですが、ここ最近かなり蒸し暑い日が続いています(泣)

ところで、先日の博物館実習では刀剣を扱いました。刃物を扱うということでかなりの緊張感…。こちらの授業の様子は来週の担当・ナカモリさんに紹介していただきます。
今回の話題
さて、先月6月15日から宮城県松島町の瑞巌寺宝物館で、杉本監修の展覧会「東北の画人たちⅠ~秋田・山形・福島編~」が開催中です。
東北大学へ赴任する以前、杉本は学芸員として様々な展覧会を手掛けてきました。
今回は例として一つの展覧会をご紹介し、話題「悟りと研究」について見ていきたいと思います。
「慈雲尊者と高貴寺ーいつくしみの書とその教えー」

「慈雲尊者と高貴寺ーいつくしみの書とその教えー」展は平成29年度に大阪府立近つ飛鳥博物館で開催された展覧会です。
慈雲尊者(慈雲飲光)は江戸中期の真言宗の僧です。当時堕落していた仏教世界に異を唱え、戒律(僧侶が守るべき規律・規則)の復興を目指した人物です。また、慈雲は書に優れた人物でもあり、展覧会では慈雲自筆の書が多く展示されました。
悟りと研究
展覧会を通して見た仏教の世界を踏まえて、杉本は次のように述べています。
つまり、このように生きるのが当たり前…という世の中に対し、別の価値観をぶつけることでその根幹を揺さぶる…そういう常識を相対化するのが仕事ではないのか。まさに「色即是空」だ。
「当たり前」を相対化、あるいは「引いて見る」という言葉でもかまわない。結局は僧侶の「悟り」も、研究者の「悟り」も、野球選手の「悟り」も目指すところは同じだろう。
俗世間というのは、いわば「前提や先入観で塗り固められた世界」なのである。まさに「とらわれた世界」である。「一流」とか「プロ」という人たちはそこから抜きん出た解脱者だ。
色即是空:(※)
この世にある一切の物質的存在はそのまま、その当体において空しい存在であり、執着される何ものもないということ。
悟り:(※)
迷いを去って永遠普遍の真理を知ること。生死の世界を超越すること。
このように杉本は、僧侶の悟りも、研究者の悟りも、野球選手の悟りも、「俗世間」すなわち「前提や先入観で塗り固められた世界」からの脱却であると考えます。
一般的に、仏教において僧侶が最終的に目指すところは「迷いを去って永遠普遍の真理を知ること」です。
一方で、研究者が目指すところは「真理・真実を明らかにすること」であると言えるでしょう。そして、これまで当たり前だと考えられてきた事柄に疑問をもち、先例に挑戦していくことで、より真理(事実)に近づくことができるのだと思います。
(※『例文 仏教語大辞典』Japan Knowledge版から引用)
「悟り」に至るには
研究者が「悟り」(=真理・真実を明らかにすること)に至るには実際どのように取り組んでいけばよいのでしょうか?
それに関して杉本は次のように述べます。
世間的なものの見方をしているうちはダメなのである。昨年(2016年)、日米通算4257安打を記録したイチローはこのように語っている。
僕には子どもの頃から、他人に笑われていたことを常に達成してきた自負がある。小学生のころ毎日野球を練習していたら、近所の人から『あいつ、プロ野球選手にでもなるつもりか?』といつも笑われていた。悔しい思いもしましたけど、最終的にはプロ野球選手になった。
その後、日本で首位打者を獲って、いざアメリカに行く時も『(アメリカで)首位打者になってみたい』と言うと笑われた。でも、それも2回達成した。常に人に笑われてきた悔しい歴史が僕の中にはあるので、これからもそれをクリアしていきたいと思います。
つまり「そんな簡単にプロなんかになれない」、「日本の野球ごときではアメリカに通用しない」といったいわば「常識」にとらわれていたのでは、当然ながらそんなものにはなれない。これはやはり2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅良典氏がいう「先生はえらい」と思い込むのも同じだ。
要はそんなことは気にせず、自分が考える真理に向かってもくもくと歩み続け、基本をこつこつこなし続けるしかないのである。いっぱしの何者かになれるかどうかは、あとは運次第だ。ただし、何が真理で、何が基本か、ということは正確にとらえる必要はある。
美術史の分野でいえば、少しでも多くの文献資料に触れること、そしてその時代の作品に触れることである。そうしてそこからこつこつ情報を引き出し、自分のなかに蓄えていくわけである。時間はかかるが、その基本を地道にこなしていくしかない。それは言わば修行なのだ…。
かのイチローさんは、他人から言われること、つまり「常識」にとらわれずコツコツと努力した結果、メジャーリーグの中でも一流のプレイヤーとして活躍しました。
イチローさんから学べるのは「自分が考える真理に向かってもくもくと歩み続け、基本をこつこつこなし続ける」という姿勢です。
そして、美術史の分野で真理へ近づく・プロになるための「基本」は何なのかというと、
「少しでも多くの文献資料に触れること、そしてその時代の作品に触れることである。そうしてそこからこつこつ情報を引き出し、自分のなかに蓄えていくわけである。」
と杉本は考えます。
ありがとうございました
今回は、
悟りと研究
研究者が悟りに至るには
の2点を中心にお送りいたしました。
来週は、ナカモリさんの担当です。
暑い日が続きますが、皆さまお体に気を付けてお過ごしください~!
【参考】
展覧会特設サイト:杉本監修の展覧会「東北の画人たちⅠ~秋田・山形・福島編~」についてはこちらからどうぞ!
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