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夫の手にドギマギしてしまったこと

夜、息子がすっくと目を覚ました。

よくあることだ。

2、3語、なにかむにゃむにゃ言って、というと可愛らしいが実際は不快そうに少し声を上げて、しばらくぼんやりと佇み、パタンと横になって眠りに落ちる。

我が息子は、私の腕枕で眠るという贅沢な睡眠スタイル。なので、こういう時は寝たフリをしながらそっと腕をさしだすと、そうそうこれだよ、何勝手に動いているのさ、とでもいうかのような傲慢さで私の腕の中に滑り込んでくる。

その日もまた息子は私の胸元ですやすやと寝息を立て始めたのだが、いつもと違ったのは。

息子が起きた気配を感じたのか、夫が息子の背中をさすろうと手を伸ばしてきたのだ。

しかし夫が握ったのは、かわいい、丸くてあたたかい息子の背中ではなく、私の、手。

しばらくトントンしたあと、これは手だなと気づいたのか、そっと優しく握ってくれた。

しかし、これは息子ではなく私の手なのだ。

手のひらに感じる、ひんやりとした、夫の手。

先ほどのやさしい手の動き。

男性でありながら、すらりと長く、女性的なたたずまいをしている夫の指を暗闇の中思い浮かべる。

夫の顔は、息子の体の向こうにあるので見やることができない。

みえないけれど、掌に感じる夫のぬくもり。
無防備なその手を受け止めているうちに、なんだか妙にこそばゆく、ドキドキしてきてしまった。

ああ、そういえば、久しく夫と手を繋いでいない。
もっぱら息子とばかりだから。

夜といえども気温は高く、次第に互いの手が汗ばんでくる。暑いから振り払えばいいのに、貴重な久しぶりの夫の手の感覚を、なかなか手離すことができない。

力なく、無防備に重ねられた夫の手。細いけれど、節々はやはり太く、指先にかけてすぼまる女性とは違う形をしているので、どこかカエルの指に似ている。

色白で、体温は低めで、ぺたりとした印象の夫の指先。

偶然だから尚更なのか。十代でもあるまいし、日々仲良く過ごしているし、なんなら子供までつくっているのに、手が触れているごときで、夜中ひとりドキドキしてしまって恥ずかしい。

ああ、もう。
なんだか顔までほてってきた。
いい歳したおばさんが……恥ずかしくて恥ずかしい。

夫はこちらの気も知らずすやすや寝ている。
腕に息子の頭の重み、その先の掌に夫のぬくもり。

日々悩みも喪失感もあるけれど、それなりに幸せなんだなぁと思う。

しばらくはまた息子と手を繋ぐ日々だろう。けれどそれもあと何年かで、あっという間に手が離れてしまうのだ。

その後はまた、夫と手を繋いで歩きたい。

実は、仲良く手を繋いで歩く老夫婦になるのが夢なのだ。

かなり難易度の高い夢だとおもうけれど、叶ったらいいなぁ。

夫が寝返りをうち、その手はあっさりと離れていった。
翌朝話してみると、夫はなんにも覚えていなかった。

#エッセイ #夫婦 #のろけ #家族

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