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日大ローR5年度第一期刑法答案

1,甲がVを殴った行為に、傷害致死罪(刑法(以下略)205条)が成立しないか。
(1)「傷害し」とは、人の生理的機能障害を生じさせることをいうところ、甲の本件行為によりVは意識を消失するという生理的機能障害を生じている。
 よって甲はVの「身体を傷害し」たといえる。
(2)Vは死亡している。
(3)もっとも、上述の甲の傷害以後、V死亡の前に第三者によるVへの暴行があった旨判明している。
 そこで、甲の上述の行為とVの死亡との間の因果関係の存否、すなわち「よって人を死亡させた」といえるかが問題となる。
ア、そもそも刑法上の因果関係は、結果に対する責任の所在を明確化し、もって処罰の適正さを図るために要求される構成要件である。
 したがって当該行為が当該結果を生じさせる現実的危険性を有しており、それが結果に対して現実化したといえる場合に因果関係を認めるべきである。
 かかる判断にあたっては、当該行為の有する危険性、介在事情の異常性、介在事情による結果への影響等を考慮する。
イ、これを本件についてみるに、たしかに甲の本件行為の後、Vの死までの間に第三者がVに暴行を加えていたという介在事情が存在した。そしてこの介在事情は、夜間港に放置された意識不明の者の頭頂部を角材により殴るというもので、夜間港で倒れている人に角材で殴りかかるというのは通常考えにくいため、異常性が極めて高い。
 よって、甲の行為とVの死亡との間の因果関係は否定されるようにも思える。
ウ、しかし、そもそも甲の本件行為は、A組飯場でVを殴るといったもので、その過程で甲の行為を回避しようとしたりする等してVが転倒し、コンクリート床に頭を打ち付けて意識を消失する現実的危険性を有していたところ、ひいては外傷性くも膜下出血等により死亡させる現実的危険性も有していたといえる。また、上述の第三者の暴行という介在事情は、Vの直接の死因とは考えられておらず、Vの死亡を幾分か早めるものにとどまっていた。そのため本件介在事情が死亡結果に寄与した程度は極めて小さい。
 このように考えると、甲の上述の行為の有する危険性がV死亡という結果に対して現実化したものといえる。
エ、すなわち甲の本件行為とV死亡結果の間には因果関係が認められ、「よって人を死亡させた」といえる。
(4)ア、故意(38条1項本文)とは、客観的構成要件該当事実の認識認容をいう。
 また、いわゆる結果的加重犯については、基本犯が加重結果についての危険性を包摂しているので、基本犯の故意が認められれば加重結果についての責任も負うと考える。
イ、本罪は傷害罪(204条)、ひいては暴行罪(208条)の結果的加重犯であるため、傷害罪又は暴行罪の故意が認められれば本罪の故意も認められる。
 本件行為ついて甲は、上述の、Vに生理的機能障害を生じさせる行為について認識認容があったと考えられる。または、仮にその認識認容が無くても、少なくともVに立腹してなされたものであるから、不法な有形力の人体への行使という「暴行」についての認識認容はあったものといえる。
ウ、よって甲の上述の行為につき傷害又は暴行の故意が認められるので、本罪の故意もある。
エ、なお、いわゆる因果経過の錯誤は、故意責任の本質が反規範的態度に対する道義的非難にあることからして、同一の構成要件内において行為者の予見と現実の経過が異なっても故意は阻却しない。
 本件で甲は、たしかにVへの第三者による暴行を予期していなかったと考えられるが、第三者による本件のような暴行の存否は傷害致死罪の構成要件内で符合しているから、甲の故意は阻却されない。
2,以上より甲のかかる行為に傷害致死罪が成立する。
3,なお、Vの生命身体への危険についての責任は上述の傷害致死罪で評価されており、甲がVをB港に放置したという行為については、不可罰的事後行為と扱うべきである。

以上

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