幻[インスタントフィクションその21]

何かを見つけたのだろう、ゆうたは突然大声で叫んだ。
「みろよあれ!水たまりだぜ」
ここ数日は一滴の雨も降っていないというのに水溜まりがあると主張するゆうたを横目で一瞥すると、たつきはゆうたが指さす方に目を向けた。
「遠くてよく見えねぇよ。ほんとに水たまりなんか?」
当然であろう、立っているだけで汗が滴るたつきの顔には訝しむ表情がありありと浮かんでいた。
「どっちが先に入れるか競争しようぜ!」
汗が飛び散ると錯覚するほどの勢いで、それも満面の笑みを浮かべて振り返ったゆうたの提案は、たつきにすればひどく受け入れ難いものであり、だからこそそのくちはこのうえない程に歪められていた。そんなたつきの心情を無視するかのようにゆうたは掛け声をかけたのだった。
田んぼの間を山に向かって伸びる長い長いアスファルトの道に2人の少年が駆ける。彼らが目指すゴールは彼らの到来を許さない。

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