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韓国 政府vs医師たちの攻防②

前回からの続きです。
医学部の定員拡大に反対する医師たちの論理と、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の思惑や強硬姿勢の源泉について考えてみます。


「反対するのは『収入が減るから』ではない」とはいうものの

今回、医学部の定員拡大に強硬に反対して職場を放棄する医師や教授たちが続出していることに、韓国世論があまり共感を覚えない理由。それは、「医師が増える→競争が激しくなる→収入が減る」という展開を避けたいだけではないかと冷ややかに見られているためです。

実際、各種の調査によって、医師の収入水準が韓国では最も高いという結果が出ています。
こちら↓の記事をみても、開業医の収入は労働者の平均の6.8倍でOECD加盟国の中で最大の格差、病院の勤務医でも平均の4.4倍とのこと。

開業医がとりわけ高収入なのは、前回の記事でも紹介した皮膚科・眼科・整形外科の「ピ・アン・ソン」で開業医が多いためでしょうね。

というわけで、一般の国民からすれば「既得権益を守りたいだけでしょ?」となるわけです。

これに対して、医師の側は「そうではない」と声高に反論しています。地方医療機関や緊急性の高い科で医師が不足しているのは、現行の国民健康保険での診療では小児科医などの報酬が少ないという制度面の問題があるために「ピ・アン・ソン」に医師が偏ってしまった結果だと主張。
医療行政を見直すべきだというわけです。

また、急に2000人も医学部生が増えても教える側の教授らがすぐに増えるわけではないので、指導の質が落ちるとも話しています。日本の学校でもクラスの人数が多いと教師の目が行き届かなくなるという懸念がありますが、同じことです。
確かに、定員を拡大した結果として腕の悪い医師が増えてしまうようでは困ったものです。

そして、ここが実は医師たちにとっては最も憤慨しているようなのですが、尹錫悦政権がこのタイミングで医学部の定員拡大を掲げたのは総選挙の人気取りのためであり、自分たち医師が政治に利用されるのは許せない、と反発しています。

政権には政治的な計算も

尹政権は、そうした政治的な計算を否定していますが、そこは額面通りに受け止めるのは難しいところ。選挙が近づいてきたら国民にウケのいい政策を打ち出すのは、どこの国でもあります。
そうした動きが「国民のため」なのか「票欲しさのポピュリズム」なのかは、有権者が判断すべきことです。医師の側は後者のポピュリズムだと声を荒げているわけですが、あまり響いていません。

医師側の「選挙目当て」という主張が(事実だとしても)説得力に欠けるのは、前の文在寅(ムン・ジェイン)政権も医学部の定員を拡大しようとしたものの、医師たちがやはりストを構えて断念させたという経緯があるためでもあります。しかも、文政権とのときの攻防はコロナ禍の最中でした。パンデミックにも関わらず職場を放棄するとぶち上げたのです。
それだけに、「選挙が近いからダメだ」というけど、本当はいつでも反対するんでしょ?と多くの国民は見ています。

保守派の「反労組」「厳罰主義」

一方、尹政権は強気の構えを崩していません。
職場放棄の先陣を切った研修医たちに対しては、「病院に戻らなければ医師免許を停止する」と警告しています。
当初は3月26日から停止に踏み切るか前でしたが、聯合ニュースによれば、土壇場で見合せました。ただ、「猶予期間はそう長くはない」という構えです。

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