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李在明氏 逮捕されず

韓国の最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表に関する検察の逮捕状請求を裁判所は棄却しました。国会で逮捕同意案が可決されたのも予想外でしたが、裁判所が逮捕の必要性を認めなかったのも大方の予想に反するものでした。これによって李在明氏の政治的影響力はどうなりそうか、サクッと分析します。

9時間にも及んだ攻防

ハンストで体調が悪化して入院していた李在明氏。体はまだかなり弱っていました。ですが、逮捕状の審査で自らの主張をすべくソウル中央地裁に赴きました。そのときの様子をテレビで見た韓国の知人は「李在明氏の独特な覇気が消えましたね」と感想。ハンストに加えて、「不逮捕特権は放棄する」と宣言していたのを土壇場で撤回して未練がましさを見せてしまったこと、それによって党内で造反して逮捕に賛成する議員が続出したことのショックも重なったのかもしれません。

地裁での令状審査は、実に9時間20分にも及びました。韓国メディアによれば、政治家に対する逮捕状請求の審査としては、かなり上位に入る長さだったとのこと。李在明氏は自分にかけられている複数の疑惑について無実を主張しました。加えて、逮捕の可否をめぐる重要なポイントは、証拠隠滅の恐れがあるかどうかでした。検察は当然ながら証拠を隠滅されるかもしれないと考えて逮捕に踏み切ろうとしたわけです。

結局、地裁の判事は、▼検察が示している逮捕事実に「争いの余地」があること、▼既に李在明氏は今年3月に別の事件(背任や収賄の容疑)で在宅起訴されて公判が続いているので証拠隠滅の恐れがあるとみるのは難しい、として逮捕状請求を棄却しました。判断が出たのは日付が変わって27日午前2時23分。韓国では、検察や裁判所の判断が出るのが未明や明け方になることは、ザラです。私もソウルに駐在していたころ、何度も寝不足になりました。

政治生命の窮地だったが…

李在明氏は、逮捕状審査の結果が出るのをソウル拘置所で待っていました。つまり、逮捕が認められたらそのまま拘置所に収監されていたわけです。拘置所から出てきたのは、午前3時50分。拘置所前で待ち続けていた「共に民主党」の議員や支持者たち約150人を前に、李在明氏は「司法府は、自らが人権の最後の砦だと明白に証明した。深く感謝する。政治とは、国民の暮らしを守り、国家の未来を切り拓くことだと与野党と政府は忘れず、今は(反対陣営との)戦争ではなく、国民と国家のために誰がより多くの役割を果たせるかを競う、真の意味での政治に戻ることを願う」と話したとのことです。

さて、政治家・李在明氏はどうなるのでしょうか。とりあえず逮捕は免れたことで大きな窮地は脱したといえます。ただ、検察は地裁判事の判断に強く反発していると伝えられていて、在宅起訴を目指すものとみられます。北朝鮮への不正送金に関与した疑いが完全に晴れたわけではありません。

また、今回、「共に民主党」内で30人前後の議員が造反したために逮捕寸前までいったのは、当然ながら党内にしこりを残します。来年4月には政治の一大決戦である総選挙が控えています。党内で李在明氏が代表のまま総選挙を戦えるのかという疑問が声高に唱えられるようであれば、政治的求心力しぼむでしょう。

そうした事態を防ぐ最大の手段、それは尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領を今まで以上に叩くことです。李在明氏がハンストを行った(表向きの)理由の一つは、福島からの処理水放出に尹政権が一定の理解を示したことへの批判でした。今後も、日本との関係安定に重きを置く尹政権に対して「親日的、屈辱的」と叫ぶのは目に見えています。有権者の間でそうした主張への支持が広がれば、尹政権の対日外交へのプレッシャーとなります。韓国政界の攻防は、日本にとってもしっかりウォッチすべきバトルなのです。

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