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脱北外交官は語る (中)

北朝鮮から韓国に亡命した外交官、太永浩(テ・ヨンホ)さんについて、前回の記事はソウル駐在時の個人的な関り(国家情報院と連携しての記者会見計画)を振り返るだけで終わってしまいました。
このほど都内で開かれた懇談会の、肝心の内容を、2回に分けて紹介したいと思います。
(冒頭の写真はスウェーデンの首都ストックホルム)


北朝鮮人権問題の「普遍性」と「特殊性」

長く所属したNHKはじめ、日本のメディアは北朝鮮について報じる時は核・ミサイル開発と日本人拉致事件、この2つが柱となります。

とくに拉致事件は、日本社会の近現代史に対する見方を変えたといっても過言ではないと思います。2002年、小泉首相が訪朝して金正日総書記と会談して、金正日氏がついに拉致を認めたことも大ニュースでした。しかし、それよりはるかに衝撃的であったのは、「横田めぐみさんを含む被害者8人は死亡した」との説明でした。当時、日本社会が体験した驚きと悲しみを、今の若い人たちにうまく伝える言葉を選ぶのは難しいです。

この日朝首脳会談が多くの日本人の「近現代史に対する見方を変えた」と考える理由。それは、先の戦争に対する反省のもとアジアに対する「加害者」という認識から歴史をとらえる傾向が強かった日本社会が、初めて、そして極めて明確に、「被害者」になった瞬間であったように思えるためです。

「平和ボケ」といういささか品のない言葉がありますが、北朝鮮の拉致事件によって日本の周辺には現実的な脅威があるのだと人々は理解し、「平和ボケ」は吹き飛んだ感がありました。それは、おそらく必要かつ大事な理解でした。一方で、日本が「被害者」となったことは、ネット上などで朝鮮半島や中国の人たちに対する憎悪の言葉が溢れる下地にもなったように思えます。

さて、太永浩さんは、北朝鮮の人権問題には「普遍性」と「特殊性」があり、日本は「特殊性」に偏重していると指摘しました。拉致事件の解決に日本政府が重きを置くのは自然ではあるものの、より普遍的な人権侵害にも目を向ける必要があるという意味です。
確かに、国連の会合などでも日本政府は拉致のことに絞って北朝鮮を非難することが多く、北朝鮮の一般人民が厳しい抑圧化で生きていることへの言及は目立ちません。

2014年ストックホルム 拉致再調査に北朝鮮が応じた真相

しかし、北朝鮮の人々があの体制下で直面してる様々な人権侵害、つまり歴史上ほかの独裁体制でもみられたような「普遍的な」人権問題にも強い姿勢を示すことが、拉致事件をめぐる進展にもつながると太永浩さんは述べました。

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