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金正恩体制で「エリート脱北」急増

8月20日、北朝鮮軍の兵士1人が軍事境界線を越えて韓国に亡命したことが伝えられました。いわゆる脱北ですね。

この兵士が亡命した経路は、日本海に近い東部でした。
その前、8月8日には、北朝鮮の一般住民1人が西部で漢江(ハンガン)が黄海に注ぐ河口のあたりを泳いで南に渡り、やはり亡命しています。

北朝鮮→中国→東南アジアを経ての脱北ではなく、ダイレクトに北朝鮮から韓国への亡命が一か月に2件起きるのは珍しいです。ただ、「たまにはそういうこともあるだろう」くらいに受け止めました。

ところが、北朝鮮住民の脱北に関して、韓国の大手紙・朝鮮日報が興味深い報道をしていることに気づきました。

それは、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の統治下では、彼の父・金正日(キム・ジョンイル)の時代より「エリート層」の脱北が急増しているというのです


「金正恩時代で2.5倍に」

8月22日付けの朝鮮日報によれば、「エリート層」の脱北は、集計を始めた1997年7月から金正日が死去した2011年12月までは合計54人。
一方、金正恩氏の統治下になってから今年6月までは合計134人。
つまり、2代目より3代目のほうが約2.5倍も多いというわけです。

とはいえ、これだけでは疑問がいろいろ浮かびますよね。そもそも「エリート層」って、何?など。

当該記事の日本語版が出れば追加で貼りつけようと思いますが、韓国語が読める方のために、まずは韓国語版を。

まず、「エリート層」というのは、韓国の情報機関・国家情報院が「北韓離脱住民関連法」に基づいて「単独保護」の対象と定めた北朝鮮住民を指すそうです。そういう人物は、一般的な脱北者よりも韓国の「安全保障に顕著な影響を与える恐れがある人」とのこと。

なんだか危険人物のような表現ですが、そうではなく、朝鮮労働党や朝鮮人民軍などで高い地位にいた人物たちです。韓国政府としてしっかり保護し、北朝鮮指導部がどうなっているのか、各種の最新情報を入念に聞き出す対象ということのようです。具体的には、外交官、軍人、情報機関員など。

「未来がない」と脱北を決意

外交官や軍の高官は、一般的な北朝鮮住民に比べればかなり恵まれた生活をしています。確かに「エリート層」と呼んでも差し支えないでしょう。
そういう人たちは、生活するだけなら北朝鮮国内で安泰だったはずです(もちろん、権力闘争に巻き込まれての粛清リスクなどはありますが)。
「飢え死にしそうだから亡命した」というわけではありません。

では、なぜ危険を冒してまで亡命をするのか。ひとえに、北朝鮮の閉鎖的・抑圧的な体制に嫌気がさしたためです。「未来がない」と。

こうした考え方は外交官の亡命で顕著です。外交官たちは在外公館で外国暮らしが長くなるので、否が応でも赴任国と祖国との違いに愕然とする場面が増えます。
そして、多くの人はこう悩むようになります。

「自分は耐えることができる。でも、子どもたちに北朝鮮の体制内で生きることを強いていいのか?」

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