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地域のつむぎ手の家づくり|空き家を地域再生の原動力に 生まれ育ったまちを住宅・建築のプロとして元気にしたい  <vol.23/山口建築:滋賀県長浜市>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・

山口建築
滋賀県長浜市
代表取締役 山口淳さん

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〈プロフィール〉
山口建築 代表取締役 山口淳さん
1983年5月20日、滋賀県長浜市生まれ。高校卒業後、一時は大阪に出るも地元に戻り、市内の工務店に就職して大工として働く。26歳で独立し山口建築を創業。3児の父。

滋賀県長浜市で、地元工務店・山口建築の社長として、そして大工として、空き家を利活用した地域活性化にチャレンジしているのは38歳の山口淳さんです。自分が生まれ育ったまちを、そして子どもたちが成長していく舞台でもあるわがまちを少しでも元気にしたいとの想いを原動力に、工務店・大工が持つ建築の力や知縁・人脈を生かし、既存の枠組みにとらわれない考え方で民泊施設の運営などに乗り出そうとしています。

築50年の空き家を買い取りリノベして民泊に

山口さんは、長浜市北部の木之本町内を流れる高時川のほとりにある築50年の1軒の空き家を民泊施設として運用する計画を進めています。高時川ではアユが捕れることから施設の名前は「鮎はうす」と命名しました。

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私費を投じて行うフルリノベーションには1100万円ほどかかることから、山口さんは資金調達のためにクラウドファンディングも行い、志に共感する人たちからの応援を受け、目標金額を10万円上回る110万円を達成しました。

コロナ禍で注目を集めている地方移住を検討する人たちを呼び込むきっかけになるような施設運営をしていきたい考えです。そこから、「まちに少しでも定住者が増え、地域活性化や、空き家問題の解消につながっていってくれれば」と山口さんは話します。

鮎はうすの2階の窓、1階に新設したテラスからは、高時川とその周りの自然がいっぱいに広がります。山口さんは「都会からやってきた人にも、きっとまちの良さをわかってもらえる」と確信しています。

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山口さんは12年間、地元でこつこつと大工・工務店としての仕事を続けてきました。少子高齢化によって大きく変わっていくまちの姿を目の当たりにし、住宅・建築のプロの立場として何かをしようと、空き家を買い取って再生し、販売する事業に取り組むことを決めました。鮎はうすは、そのモデル的な事例に位置付ける、第一歩となるチャレンジなのです。

大人の責任を本業で果たす

高校卒業後、音楽をやるために1度大阪に出た山口さんですが、紆余曲折の末、地元に戻り工務店の求人を見つけて大工として働き始めました。大工を選んだのは「作曲(音楽)も建築も、イメージを形にするものづくり。好きなものづくりがしたかったから」。

7年間その工務店に勤務し、結婚を機に26歳で独立しました。同世代の友人や親戚など知縁を中心に仕事を得ながら、地道に実績を積み上げていきました。
 
仕事を続ける中で、山口さんが地元の変化を痛感したのは、“父親”としてでした。「子どもの同級生がたった15人しかいない」ことにあらためてショックを受けたそうです。「運動会を見に行っても、少人数で競技をしている……」。少子高齢化やまちの衰退は「大人の責任」です。わが子のために、そしてわがまちのために、「子どもを増やすことが重要だ」と山口さんは考えています。

「住まう」は空き家問題のキーワード

放置され、状態が悪化する空き家は増える一方です。山口さんは、空き家問題の根本に「所有者に空き家という意識がないこと」と指摘します。普段、離れて暮らしている空き家の所有者の中には「半年に1度は帰っているから、ここは空き家ではない」と考える人が少なくないそうです。

一方で、地域の人々からすれば、それは空き家以外の何物でもなく、両者の意識には大きなギャップが横たわっています。また、空き家ではないと所有者が考えていたとしても、劣化が進み結局は解体する羽目になってしまうケースがほとんどだそうです。

「古くても、価値のある住宅は残したい」。民家や住宅ストックに関心を持つ多くの人がそう思のはもちろんですが、山口さんは一歩進んで「できれば住んでほしい」と考えます。「住まい手(地域住民)を増やすことは、絶対に外せない要素」と訴えます。

空き家買い取りでウィンウィンの関係づくり

山口建築では、空き家関連事業を近江MACHIYAのブランド名で展開します。地域の空き家を1度買い取って、リフォームプラン付きで販売する、買取再販に近いビジネスモデルです。

一般的には、空き家を買い取るには資金が必要ですが、山口さんの場合は“仕入れ”にはほとんどお金はかからないそうです。もちろん、知縁・人脈があることや地元の人たちからの信頼があることが前提条件となりますが、実は、空き家を生かしたいと考える所有者を探し、相場よりもかなり安い価格で購入できるとのことです。鮎はうすも6年間、買い手のつかなかった物件でした。

所有者は、解体・除却費用がかからないだけでも大きな経済的メリットを得られるし、山口さんは自身の想いと会社の経営を両立できます。ウィンウィンの関係が、近江MACHIYAの発想の根幹にはあります。逆に「いくらでこの家を買ってほしい、という人は普通の不動産会社に行っていただく」と山口さんは話します。

仕事をつくり大工を育てる

自社で1度空き家を買い取るのは「若手の大工が修業する場をつくる」ためでもあります。山口さん自身は、墨付けや手刻みなど伝統の大工技能を習得できた世代ですが、今は教えられる大工、そして墨付けや刻みの腕が求められる現場も減っています。

これまでは、受注がなければ大工の仕事はなく、腕を磨く場もつくれませんでした。自社(正確には山口さん個人)で物件を所有して改修することで、大工の仕事を、途切れることなく創出することができるのです。育成の機会が広がります。

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地域の相談相手になりたい

新築やリフォーム以外にも、地域の人々はさまざまな暮らしのニーズを抱えています。以前、リフォームを受注した高齢者が、話し相手を求めていることに気づいた山口さんは、今でも週に1回の訪問を欠かしません。山口さんにとっては、これも顧客ニーズに応える「仕事の一環」です。山口さんが考える理想の工務店は「なんでも相談できる工務店」。昔ながらの工務店が、まちからどんどん消えている中、大工や工務店の原点に返って、「住まいのこと以外でも気軽に話せる存在になりたい」。

文:新建ハウジング編集部
写真:山口建築提供



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