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地域のつむぎ手の家づくり|リノベーションの効果を体感 地元の人に多様な住まいの選択肢を示したい <vol.30/イトコー:愛知県豊川市>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・

モデルハウス兼コワーキングスペース拠点に

愛知県豊川市に拠点を置き、住宅事業を展開する地域工務店のイトコーは、断熱や耐震など性能向上をメインとするリノベーションの普及に力を入れています。その背景には、原油価格や資材価格の高騰などの理由から新築住宅の価格も上昇を続ける中で、今後は実家や中古住宅をリノベーションすることにより、取得費を抑えて住まいを手に入れようという選択肢が広がっていくとの見方があります。

同社では、リノベーションの魅力を体感してもらおうと、新築住宅のオーナー(OB顧客)が保有する築52年の空き家をリノベーションし、モデルハウス兼コワーキングスペースとして運用しています。より幅広い層の地域の人たちにリノベの効果を体感してもらうことで、新築に限らない新たな住まいの選択肢としての提案を強化しているのです。

同社が本社から徒歩で3分の場所にリノベーションのモデルハウス兼コワーキングスペース「TOCOTOCOトコトコ」をオープンしたのは2019年10月です。施設名のTOCOTOCOには、「所(場所)のことを“トコ”と言う地元の言葉や、子どもが“とことこ”と走り出すように夢に向かっていく人たちを応援したい」という思いが込められているそうです。

交通量の多い地域の幹線道路沿いにある木造2階建て・延べ床面積150㎡の住宅はオーナーの実家で、同社が52年前に建てたものです。オーナーの両親が亡くなった後は、空き家になっていました。

建物を有効活用したいオーナーは最初、不動産会社や大手住宅会社に相談しましたが、取り壊してアパート運営することにより収益化するといった提案ばかりで、「思い出のある建物を壊すのは惜しいし、まだ使えるのにもったいない」という思いとそぐわなかったことから、イトコーに声がかかったそうです。 

同社社長の伊藤博昭さんは「(オーナーの話を聞くなかで)実家への愛着や、喫茶店を立ち上げる夢があることが分かりました。既存の建物を生かしながら、当社の武器である設計と施工力によって、それを叶えることができると考えました」とし、「2世代にわたって住宅を建てた際の関係性や信頼によって即決で任せてもらえることになりました」と振り返ります。

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社長の伊藤博昭さん

オーナーの夢叶えカフェ併設

ちょうど同社でも、リノベーション事業の拡大を計画していたことから、タイミングはぴったりでした。建物をオーナーから賃借してリノベを提案するモデルハウスとコワーキングスペースとして運用しながら、一角にはオーナーの夢であったカフェを設ける提案を行い、了承されました。

伊藤さんは「モデルハウス単独だと使われていない時間帯が多く、経営的な側面から考えてももったいないないし、そもそも土日以外の集客が難しいと感じていた」とし、「それならばオーナーの夢を叶えながら地域の誰もが利用できるスペースを設けて、さまざまな人が集う多機能な拠点にすれば、そこからリノベの相談につながるきっかけにもなると考えました」と説明します。

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リノベーション前

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リノベーション後

伊藤さんは「この地域は、首都圏などと比較してリノベ自体の認知度が低い一方で、“実家”を対象とする大型のリノベのニーズが潜在的には大きいはずです。今まではそのニーズをすくい切れていませんでしたが、実際に建物を見て体感してもらえる場があれば、営業としても提案力が増すだけでなく、お客様もイメージしやすくなるはずです」と訴えます。

ビフォー・アフター体感可能に

1階のコワーキングスペースは、15人ほどが利用できます。併設されているカフェにはオーナーが常駐し、自慢のコーヒーなどを提供します。

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2階は誰でも利用できる時間貸しのレンタルスペースで、地域の会合や趣味の教室などに向けて貸し出しています。母屋と一体的につながっていた離れも、打ち合わせや会合などができるスペースとしてリノベーションしました。

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2階と離れは、あえて断熱性能を高めていないそうです。伊藤さんは「ビフォー・アフターを体感することで、断熱性を高めることの重要性と効果を顧客に実感してもらうのが狙いです」と話します。「特に冬場は無断熱との違いを体感した顧客が、数値では感じられない納得感を持って、断熱性能を高めることの重要性を実感してくれます。交通量の多い幹線道路沿いにあるため遮音性などについても感じてもらうことができます。デザイン性だけにとどまらない性能向上をメインとするリノベーションを提案しやすくなりました」(伊藤さん)。

イトコーでは今後も、このリノベのモデルハウス兼コワーキングスペース「TOCOTOCO」を通じて、地域の人たちに多様な住まいの選択肢を示していきたい考えです。

文:新建ハウジング編集部
写真:イトコー提供


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