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地域のつむぎ手の家づくり|「演歌歌手のような工務店に」 目立たずに、細く長く続けていく<vol.10/山口工務店:山梨県北杜市>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・

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「八ヶ岳だからできる家」で移住者を魅了

八ヶ岳のふもとで、創業から90年近くにわたり家づくりを続ける山口工務店。厳しい気候ながら豊かな自然に恵まれ、都市部からの移住者も多い地域で、同社も移住者の顧客をたくさん抱えています。八ヶ岳の自然に溶け込む家づくりを追求しながら、ブログによる地域情報の発信、オーナー(OB施主)を集めて行う「ホームオーナー会」など、移住者同士、移住者と地域をつなぐ活動にも力を入れています。

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顧客の半数は移住者

三代目の現社長・山口利秋さんによると、移住者の顧客が増えてきたのは2000年ごろ。地元の人々と移住者の割合は「半々ぐらい」で、多いときは移住者が7割に達した時期もありました。首都圏や東海地方から移住してくる人が多く、以前はリタイアした団塊世代が中心でしたが、最近では若い世代も増えているそうです。

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厳寒期はそもそも問い合わせが少なく、3月から4月にかけて増えていくのが例年の傾向でしたが、昨年は新型コロナウイルスの影響で問い合わせ件数が落ち込み、当初は経営的な危機感さえも感じたといいます。しかし、オフィス以外でも仕事ができる可能性が広がり、移住を考える人が増加したのか、その後は、以前よりも具体性のある問い合わせが増えていきました。そのため、山口さんは「コロナが収まれば、逆にチャンスかもしれない」と考えるようになりました。

選ばれるためにブログで魅力発信

山口さんは「(移住先として)八ヶ岳を選んでもらうことが大切」と話します。移住先も、まずは特徴や魅力を知ってもらわなければ選択肢には入りません。自社の情報だけではなく、地域のことを発信するのも同社にとって必要なことです。

2016年8月7日にスタートし、16年目に突入したブログ「八ヶ岳、家つくり日誌」は、現場や竣工した住宅のことも投稿しますが、地元の気候やお店、伝統行事など、地域の様子もたくさん掲載しています。「八ヶ岳にはいいものがありますよ、と紹介して“こういうところで暮らしたいな”と思ってもらえればうれしいです」と山口さんは笑顔で語ります。

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オーナーにもしばしば読まれており、関係を維持するのにもブログは効果を発揮しています。SNSや動画も利用していますが「ファンになってもらうためのツール」としては今でもブログを最上位に位置づけ、日曜を除いて毎日更新を続けているそうです。

移住後のコミュニティ参加も支援

実際に移住してきた人々へのサポートも、同社の特徴的な取り組みです。移住はすなわち、全く縁のない地域で暮らすこと。すぐに地域に溶け込める人もいるかもしれませんが、馴染めるか不安な人も多いことから、手厚いサポートを行っています。

同社は2009年から、年に1回、オーナーを集めてバーベキューなどを楽しむ「ホームオーナー会」を開催しています。同じように移住してきた人々との交流の場をつくり、仲間がいることを明らかにして移住者の不安を払拭するのが狙いです。毎年、150人前後の参加者が集まるそうです。

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ロケーションや日照を生かす家づくり

山口さんは、東京の大学を卒業後、そのまま東京で就職しました。6年間、リゾート系の企業で不動産や建築に携わったのち、帰郷して同社に入社しました。

地元に戻って気が付いたのは「空が広く、山がきれいに見えたこと」。山と住宅地の距離が絶妙で、仲間の工務店からも「あるようでない地域だ」と評されました。また、日照時間も、山梨県は日本でトップの長さを誇り、冬も寒さは厳しいものの積雪は少ない環境です。

帰郷して改めて感じた地元の良さを、家づくりにも反映させています。優れた眺望を楽しめる大開口、縁側をイメージさせる屋根付きのウッドデッキなど「外とのかかわりがある家」にするのが、山口さん流の「八ヶ岳らしい家」のセオリーです。

住宅の事例6

OMソーラーも、8割以上の住宅で採用。換気ができることが最大のポイントだそうです。「セカンドハウスや別荘として利用する場合、空気がこもってカビが生えたりする。OMを入れていれば、長期間家を空けてもカビ臭くならないし、暖房もできるので冬の水抜きも不要」と山口さんは説明します。

外観のデザインにも気を使います。流行のデザインでも「なぜこんな家がここに建っているのか」と思われるのは嫌だ――山口さんは、地域の自然に溶け込むデザインを良しとします。軒の出がないサイディングなどはNGとし、「ひと目見て山口工務店の家だとわかる」デザインを追求しています。

家具や造作は専門の職人が担当

近年は、大工による造作家具も一般的になってきましたが、同社は40年ほど前から社内に建具・家具を担当する職人を置いています。先代(山口さんの父親)の時代からで、設計事務所の案件を施工する際、造作が多かったためだそうです。

自社設計でも、造作を多く用います。キッチンの食器棚は、顧客が持っている食器に合わせてオーダーでつくるケースが多く、キッチンも2割は造作です。「既製品を使うにしても、ただ取り付けて終わりでは味気ない」ので、何かしら加工するのが山口さんのポリシーです。

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家具や建具は、構造材よりも樹種の選択肢が広のですが、山口さんは「造作でも国産材にこだわりたい」と話します。使う材は杉が多いそうです。

目指すは「演歌歌手」

今後、どんな工務店を目指しているかを山口さんに尋ねてみると「演歌歌手のような工務店」という答えが返ってきました。目立たずに、細く長く続けていける会社、という意味だそうです。

「主流でいこうとは考えていない」と話す山口さんは、自然素材や田舎暮らし、OMソーラーなど「自分の土俵」で仕事をしていくことを大事にしています。ニッチな世界ですが、流行を追いかけてばかりでは、いずれは飽きられるかもしれません。それよりは、自分ががつくりたいと考える家に共感してくれる人と仕事をしていきたいというのが山口さんの考え方です。

もちろん、共感してくれる人にきちんと情報を伝えることは必要です。相手が移住者であり、地元だけに限られないことから、あえて地元向けの広告は打たず、インターネット(ブログ、SNS)や住宅雑誌を活用しながら、各地にいる新たな共感者とのつながりをつくっています。

文:新建ハウジング編集部
写真:山口工務店提供

※参考書籍 地方移住・2拠点生活の暮らしや、ステイホームを居心地よく過ごす家づくりを紹介
『信州の建築家とつくる家16ー家づくり再考ー』


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