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地域のつむぎ手の家づくり|木組み・石場建て・土壁の家づくり 共創と地産地消の理想を形に<vol.37/東原建築工房:三重県志摩市 >
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地域のつむぎ手の家づくり|木組み・石場建て・土壁の家づくり 共創と地産地消の理想を形に<vol.37/東原建築工房:三重県志摩市 >

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【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・

1902年創業の東原建築工房(三重県志摩市)の5代目、26歳の大工・東原大地さんは、4代目で代表の父・達也さん(57歳)とともに、筋交い・合板を使わずにぬき*を用いた手刻みの木組みや石場建て、土壁といった伝統構法による家づくりに取り組んでいます。
*木造建築で柱等の垂直材間に通す水平材のこと

大地さん(左)と「大工・棟梁としての技量は、まだまだ遠く及ばない」と
背中を追う東原建築工房代表で父の達也さん

同市内で2020年に、初めて棟梁を務め、施主やその家族、友人、地域の人たちと一緒につくり上げた「いかだ丸太の家」(設計:エムサンク_アーキテクト一級建築士事務所)は、中部建築賞協議会が開催した第53回中部建築賞で入賞(住宅部門)を果たしました。「地域の素材を使って地域の人たちを巻き込んでつくる地産地消の伝統的な家づくりが消えていってしまうのはもったいない」と話す大地さんは、この受賞も励みにしながら「自分自身も楽しみながら(新築では)木組み、石場建て、土壁の家づくりにこだわっていきたい」と先を見据えています。

周囲の緑に溶け込むようにたたずむ「いかだ丸太の家」

父の背中を追い大工の道一筋

幼いころから父・達也さんの背中を見て育ってきた。「小学3年生の時に誕生日プレゼントで大工道具を買ってもらい、道具箱をつくったりしていました」と笑います。伊勢工業高校の建築科に進み、高校時代は、火事の被害に遭い焼け残った地元の歴史的な舞台建築の実測調査を先生や先輩たちと一緒に行い、復元模型をつくって民俗資料館に寄贈しました。2年生の時には、屋根の一部分の模型を手刻みでつくる課題に挑む「高校生ものづくりコンテスト」に出場し、県で優勝を果たしたそうです。

その後、進学した埼玉県にあるものつくり大学でも、建築や大工の技能などについて学びました。4年生の時には、23歳以下の若手職人が技能を競う技能五輪に埼玉県代表として出場。そのほか印象に残った思い出として「石場建てや土壁を採用した伝統的な家づくりで知られる綾部工務店さん(埼玉県川越市)でインターンシップを経験でき、とても勉強になりました」と振り返ります。

こうしてずっと建築や大工の技能について学んできた大地さんが、伝統構法に振り切った家づくりに取り組み始めていた達也さんの背中を追い、家業に入ることに迷いはありませんでした。

真珠養殖のいかだ丸太を構造材に

大地さんが自身初となる新築物件で、初めて棟梁を務め、墨付け・刻みを手掛けた「いかだ丸太の家」は、国土交通省によるサステナブル建築物等先導事業(気候風土適応型)として採択され、2020年に建築しました。

施主に恵まれ、設計者や達也さんのサポートにより「初の新築、初の棟梁となる物件で、ある意味で理想の形とも言える経験をさせてもらいました」と大地さん。施主や設計者と長い期間をかけて計画を練り上げ、現場に関しては大地さんを全面的にバックアップした達也さんも「大変ではあったと思うが、“家族でつくる、仲間でつくる”ということを仕組みにしていくという意味でも、今後の大きな財産になったはず」と語ります。

いかだ丸太の家

いかだ丸太の家は、真珠の養殖で有名な英虞あご湾を望む緑豊かな高台に、シニア世代の夫婦が建てた約18坪の平屋です。構造材として、真珠の養殖に使われるいかだをつくるための丸太を活用。天然乾燥の県産材・尾鷲ヒノキの直径15㎝程度、長さ6mの間伐材50本ほどを調達したそうです。

地元・英虞湾の名産・真珠の養殖に使われるいかだをつくるための丸太を
構造材に用いて上棟する作業の風景

石場建ての礎石の下の地盤固めは、重機を使わず、三又みつまたに組んだ丸太に付けた滑車で重いつちを人力で上げ下ろしすることで突き固めていく“よいとまけ”で行いました。

よいとまけ”によって石場建ての礎石を据える地盤を突き固めている様子
施主やその家族、地元の人たちも交えてみんなでつくる“共創”の理念を形にした象徴的な作業だ

壁の下地となる竹小舞に使う竹は、施主夫婦が自ら伐採して割り、小舞かきから壁塗りまで手掛けました。土壁の材料は、建設地から車で10分ほどの“泥コン屋さん”が地元の赤土を練ったものを使用。たたき土間は、地元の山砂に石灰、にがりを入れ、英虞湾の海水も混ぜた材料をたたき固めて仕上げました。床や屋根の断熱材として用いたもみ殻を集めたり、一部を燻炭にする作業も施主夫婦が自ら行いました。

こうしたさまざまな作業には、施主夫婦だけでなく家族や友人、地域の人たちも参加。東原親子や職人らとの交流も楽しみながら汗を流しました。最終的に参加者は50人を超えたそうです。

たたき土間、土壁の下地となる竹の小舞かき、壁塗りなどの作業もみんなで共に
竹小舞ができあがったところ
土に還る自然な素材でできていることや骨組みの美しさが際立つ

“里山の木”を適材適所で

外壁は厚さ約8㎜のスギ(赤身)を目板張りで仕上げました。内部の空間は、建築家のアントニン・レーモンドが好んで用いた半割の丸太を挟み合わせて組んだ「シザーストラス」をオマージュとして取り入れているのが特徴的です。 

風が吹き抜けるたたき土間の清々しい空間
半割の丸太を挟み合わせて組んだ「シザーストラス」が特徴的

室内の壁は、中塗り仕上げ。構造材の一部や化粧材には、いかだ丸太(尾鷲ヒノキ)のほかにツガや地マツ、コウヤマキなど、適材適所でさまざまな種類の“里山の木”を用いました。「懇意にしている製材所が、うちなら使うのではないかという木をストックしてくれているのでありがたい」と達也さんは話します。

いかだ丸太のほか、化粧材などには“里山の木”を適材適所で用いた
紙障子や木製ガラス戸などの建具は、全て古建具を再利用した

開口部は、雨戸と網戸に替わる葦簀よしずを張った「葦戸」、木製ガラス戸、紙障子の4層となっており、建具は全て古建具を再利用しました。冷暖房は、暖房や煮炊きに利用する薪ストーブと冷房・調湿用のエアコン1台。建物を雨から守る深い軒や、開口の開け閉めにより日射や通風をコントロールしたり、土壁や土間の蓄熱・調湿性能を生かすなどして、できるだけ自然のエネルギーによって快適な環境をつくり出す考え方です。

“みんなでつくる”を仕組みに「まずは知ってもらうこと」

大地さんは、カーボンニュートラルへと向かう時代のなかで「地域の材料を使い、地域の人と職人が一体となってつくる、環境負荷の小さい循環型の真の意味での地産地消の家づくりは、知られていないだけで、もしも知ってもらえれば、もっと現実的な選択肢の1つにしてもらえるのではないか」と感じています。

東原建築工房でも、達也さんが数年前から、“よいとまけ”も標準セットにして石場建て、土壁を取り入れた伝統構法の家づくりに振り切って以降、作業に参加してその魅力を直接、体験した施主の友人や地元の人から仕事の依頼が舞い込むという状況が続いているそうです。

大地さんは「よいとまけはとにかく人手がいるので、そういった面でも多くの人が参加してくれるのはありがたいし、選択肢にしてもらうためにも、作業をイベント化し、それを仕組み化しながら魅力を伝えていきたい」と力を込めます。

大工として成長し続け「全国の仲間とつながりたい」

大工としてのスキルアップも大きなテーマです。大地さんは「いかだ丸太の家では、多くの人の助けを得て棟梁をやらせてもらったが、職人さんの手配やコミュニケーションなどを含めた力量は父に遠く及ばない」とし、大工・棟梁としての技量に磨きをかけていく考えです。

大地さんは、伝統構法の現状を踏まえながら「(住宅の)現場がないがゆえに、伝統的な大工の技が文化財でしか生かされないのはいのはもったいない。施主も、地域の人も、つくる僕らもこんなにも楽しめて面白い家づくりのスタイルを普通の住宅で生かしていきたい」とし、そのためにも「伝統構法に取り組む全国の大工や左官などさまざまな分野の職人とつながることができればうれしい」と語ります。

文:新建ハウジング編集部
写真:岩咲慈雨、朴の木写真室、六浦基晴

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