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地域のつむぎ手の家づくり|古民家リフォームで美しい町並みをつくる 職人技術を生かしながら空き家解消にも貢献 <vol.27/なんば建築工房:岡山県倉敷市>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・

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なんば建築工房(岡山県倉敷市)は、社員20人のうちの半数が手刻みや墨付けといった伝統的な大工技術をしっかりと継承していることが大きな特徴の老舗工務店です。職人の高い技術を発揮できるリフォーム事業の拡充を図りながら地域性も考慮して、特に古民家のリフォーム(改修・再生)に力を入れています。社長の正田順也さんは「自社の特徴や強みを生かしながら、地域の大切な財産とも言える古民家を、大工の技術と共に次世代に継承していきたい」と抱負を語ります。

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社長の正田順也さん

正田さんは、パワービルダー(量産型の住宅会社)勤務を経て、先代社長の娘婿として入社し、9年前に40歳で社長に就任、事業を継承しました。

1887年(明治20年)創業のなんば建築工房は、伝統の木の家づくりを受け継ぐ老舗工務店です。社員20人のうち半数が手刻み・墨付けのできる大工で、81歳を筆頭とする常用(外部の専属)大工10人も伝統技術の継承者です。

正田さんは「職人経験がない自分だからこそ、廃れつつある伝統的な技術を継承することの大切さを痛感しました。職人が職人を現場で教える徒弟制の良さも含めて、未来に継承することが社長になった自分の使命だと考えています」と語ります。

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社内に国産材や銘木を豊富にストックし、加工場内で棟梁が
直接職人に教えるのが、なんば建築工房のスタイル

古民家リフォーム県内No.1に

正田さんは、人口減少などにより新築住宅の市場の先細りが予想されるなか、不動産部を立ち上げるとともにリフォーム事業の拡大に踏み切りました。以前は6~7割あった新築の売り上げを3~4割(年間10棟前後)に抑え、その分リフォーム事業を伸ばしました。社長就任から3年目、社員全員の前で「古民家リフォームで岡山県一番を目指す」と宣言したそうです。「一般的な新築住宅の大工手間が1カ月程度であるのに対し、古民家リフォームだと5~8カ月を要し“手仕事”を生かせる場が格段に大きい」という事情も背景にはあります。

なんば建築工房では、全国的なつくり手の組織である全国古民家再生協会に入会し、ホームページやSNSなどを通じて自社の技術力とともに、地域に根差した古民家を守ることの社会的意義などについても精力的に訴えています。

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リフォーム(改修・再生)する古民家は、工業製品のプリント合板を
取り外すと土と木と石でできた味のある建築当時の姿がよみがえる

歴史的な町並み保存に貢献 まちづくり会社を設立

正田さんが、自社の力を生かしながら地域貢献もできる古民家リフォームのステージとして注目したのが、歴史的な町並みが残る倉敷市内にある「下津井地区」です。江戸から明治にかけて「北前船」が寄港する通商の拠点として栄えた同地区は、当時の回船問屋の「ニシン蔵」なども残る観光の町です。ただ、本瓦葺で漆喰壁やなまこ壁、虫籠窓や格子窓を備える港町独特の町家が残っている一方で、空き家が増えているという深刻な課題も抱えています。

そんななかで、自社の古民家リフォームの事業を伸ばし、定着させていくための大前提として「町の活性化が不可欠」と考えた正田さんは5年前、志を同じくする地元の関係者と、下津井地区を活性化する「下津井シービレッジプロジェクト」を立ち上げました。これまでに、同プロジェクトの一環として、地元漁協などとイベントを共催するなど、さまざまな活動を行っています。

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しもついシービレッジの運営を支えるプロジェクトの会議風景

さらに3年前には、まちづくり事業を行う株式会社として「しもついシービレッジ」を地元企業との共同出資で設立。企業や個人を訪問し、空き店舗の商業利用について、無償で相談や建物診断などを行っています。

「建築や不動産、司法書士、税理士など専門家はいても、個々では先の計画まで方向性を示すことができない。地域にある、さまざまな分野の貴重な知見をマッチングする役割は欠かせません」と正田さん。倉敷市や商工会などからの移住・定住希望情報の受け皿となり、地主と役所のパイプ役も務めてきました。その結果、2年間で、7件の空き家を解消するといった具体的な成果にもつながっているそうです。

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下津井漁港のすぐ近くにある、「しもついシービレッジ」本社
元漁協の事務所をリノベーションした

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1階のカフェ「キッチンまだかなや」は地元特産のタコを使った料理が人気(写真提供:瀬戸内Finder)


栃木県からの移住者が、同地区にある古民家を改修して開店した「ジージャンショップ」については、劣化した建物の内外装改修に充てる費用を、倉敷市が町並み保存のために交付する補助金で賄うことを提案するなど、資金面でのアドバイスも行いました。

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「ジージャンショップ」の店内(トップ画像は店の外観)

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地元の名所などをまわる散策コースなど
体験型の観光プログラムも提案

若者が大工を目指せる環境を創出したい

正田さんは「若者たちが大工を目指しても、腕を磨く場(仕事)がないのが今の住宅市場の現状です」と少し寂しそうに話します。「工務店が大工になりたい若者を確保し、育成していくために公共の支援などはもちろん重要だが、何よりも工務店経営者自身が愛情と忍耐を持って臨む姿勢が大切」と正田さんは力を込めます。正田さんは、古民家リフォーム事業は、地域の豊かな景観の保全やまちづくり・活性化に貢献するだけでなく、大工を志す若者たちを受け入れ、育てていくためにも今後のカギとなる事業だと確信しています。

文:新建ハウジング編集部
写真:なんば建築工房提供

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