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地域のつむぎ手の家づくり|自由な発想でホテル事業にチャレンジ 家づくりのノウハウと地域性を生かす<vol.31/西日本グッドパートナ―:大分県大分市>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・

「資産価値の落ちない暮らし続ける価値のある家づくり」を掲げ、大分県内で“高付加価値住宅”を展開する西日本グッドパートナー(大分市)は、家づくりで磨いたノウハウや地域性を生かしながら、ホテル運営や別荘建築といった新たな事業に乗り出しています。

同社を率いるのは2021年5月に社長に就任した37歳の髙倉潤さん。地域の人たちに豊かな暮らしと高品質な住まいを提供しながら、企業としても成長していきたいと考えています。既存の枠組みにとらわれない自由な発想のもとで多角的な経営を推し進めながら、新たな地域工務店の在り方を模索しています。

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社長の髙倉潤さん

髙倉さんは、東京都内の大学・大学院で建築を学び、卒業後は大学時代の研究室の後輩と都内で設計事務所を開業しました。その時代は「低賃金かつ長時間労働」が常態化していた設計事務所の働き方の改善や、エゴが強く性能や経年後の資産価値の維持への配慮が足りない“建築家的住宅”からの脱皮に取り組みました。2015年に家業(自社)に入ったものの、2017年までは東京と大分との2拠点生活を続けていたそうです。そうした経験も生かし、現在は、生まれ育った地元への想いと“外からの客観的な目線”も意識しながら、家づくりや経営を手掛けています。

住宅からホテル・別荘まで全ての事業を連動させる

西日本グッドパートナーの家づくりは、分譲住宅を含めて、全棟構造計算による耐震等級3、耐風等級2、UA値*(断熱性能)0.48~0.5W/㎡Kという高性能を標準化。2×4ツーバイフォー工法かSE構法を採用し、意匠性の高さやパッシブデザインも特徴としています。髙倉さんは、住宅の温熱環境やパッシブデザインに詳しい野池政宏さん(住まいと環境社)から快適な温熱環境や省エネを実現するパッシブデザインについて学び、自社が提供する住宅に落とし込んでいます。「高付加価値住宅」として、2200万~4000万円の価格帯で「こだわり層」に注文住宅を提供しています。
(UA値*:建物全体の断熱性能をあらわす数値。数値が小さいほど熱が外に逃げにくい=断熱性能が高くなる)

リロケーション事業部を新設

同社は2021年、社内にホテルや別荘、「ワーケーション施設」の企画・開発から設計・施工、運営までを行う「リロケーション事業部」を立ち上げました。同年6月には第1弾の事業として、国内有数の温泉地としても知られる別府市内にホテル「別府ホテルねぐら」(260坪・16室)をオープンしました。

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「別府ホテル塒」は、室内は派手さを抑え木質感のある落ち着いた空間に。
住宅のOB顧客には宿泊チケットを配布して招待するほか
見込み客を案内して家づくりのモデルとしても活用する

髙倉さんは「性能は住宅と同レベル。デザインはシンプルに抑え、(自社の住宅の)世界観を感じられるようにした。宿泊して時間をかけて細部まで体感することで、住まいの本質的な価値の一部分でも感じてもらえるはず」と住宅事業とのシナジーを期待しています。「一般的なモデルハウスに比べ、収益を生み出しながら、家づくりのお客様をご案内することもできるほか、不特定多数の人に利用していただくことで(住宅事業の)PRにもつながります」と髙倉さん。そのほかにも、事務所や店舗など住宅以外の幅広い施設の建築を手掛けられることをアピールする事例にもなるそうです。

街全体をホテルに

同ホテルには、宿泊者や地域住民の交流を育むバーのほかは、温泉もレストランも設けていません。髙倉さんは「イタリアには、街全体をホテルの敷地と見立てて一連の体験を楽しむ『アルベルゴ・ディフーゾ』という考え方があります。一流の食や温泉が数多ある別府で、街の歴史や文化に触れながら、魅力的な体験をしてほしい」と思いを語ります。運営は、スマートロックやネット決済システムなどデジタルをフル活用し省人化して行っています。

今後、リロケーション事業部では「湯布院建築社」のブランド(事業)名で、ホテル事業(建築・運営)のノウハウを生かした別荘・住宅事業を本格化します。温泉地・湯布院町(由布市)には別府ホテル塒と同じシステムを用いて、一般の人が宿泊できる別荘型のモデルハウス、大分市内にはホテルや別荘の高級感のあるテイストを反映したハイグレードな住宅のモデルハウスを建てる計画です。別荘型のモデルハウスでは、福岡や東京からのファン・顧客を獲得したい考えです。

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新ブランド「湯布院建築社」の別荘建築のイメージパース

髙倉さんは「全ての事業は単体で考えず、つながりを意識しながら、どうシナジーを発揮できるか考えています。工務店が、単純に高性能で意匠性に優れたブランドラインをつくっても顧客には響かない」と持論を語ります。「湯布院建築社では、不動産投資としても資産性の高い別荘と、その世界観も落とし込んだハイグレード住宅の2軸で提案していきたい」と張り切っています。

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文:新建ハウジング編集部
写真:西日本グッドパートナ―提供

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