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障害者雇用ビジネスについての再考

障害者雇用ビジネス。noteでも何度か書いてみましたが、自分にとってはいいタイミングな気もして、改めて考えてみようと思います。ちなみに、過去のnoteはこちらです。


この前の金曜日、「就労支援フォーラムNIPPON SUB FORUM」が開催されました。タイトルは、「就労支援と選択肢 ~就労選択支援から自己決定、そして代行ビジネスまで~」と、なかなか興味深いテーマだったのでオンラインで拝聴。3時間ひたすら討論するという内容は、登壇者それぞれの考えや価値観を時にはぶつけ合う感じもあったりして、多様な意見から学ぶことも多く、個人的にはとても良い時間でした。

さて、本題の障害者雇用ビジネス。いくつかの視点で再考してみようと思います。

数の話

登壇者の方も仰っていた数の話です。障害者雇用ビジネスというか、いわゆる「貸し農園」で働く障害のある人は、たぶん、1万人くらいはおられると思います(2022年11月4日NHKニュースでは、全国に80ヶ所、利用企業800社、雇用される障がいのある人は約5,000人とあり、実数はもう少し多いように思います)。

仮に、貸し農園で働く人が「1万人」と考え、この数字を障害者雇用全体、特に働く障害のある人で見てみると…

・障害のある人の雇用者数:約60万人
・就労継続支援A型利用者:約7.2万人
・就労継続支援B型利用者:約26.9万人

上記を合わせると100万人弱。かなりざっくりした計算ですが、貸し農園で働く人は全体の「1%程度」の数字となります。

1%は、全体から考えるとかなり少数な値です。でも、実際の業界内の空気感はそれ以上に盛り上がってしまっているというか、批判的な意見は値が示す以上のものがあります。

ここに、様々な問いが含まれているように思います。

コストセンターなのか?

関係者間でもよく話題になりますが、貸し農園で作る農作物は社会貢献や福利厚生として取り扱われることが多いようで、いわゆる収益を生まない農園となっています。作った物は、本社の社員さんが持って帰ったり、社食で食べたり、お客様にプレゼントしたり、時にはお世話になった支援機関や学校などに贈ることもあるようです。

とある貸し農園の運営会社は、3人1組で障害のある人のグループを構成し、そのグループに1人の支援スタッフを配置しています。費用面で考えてみると、グループにいる合計4人の人件費に加えて、貸し農園の場所代などや管理費は運営会社に支払い、年間では合計数千万円の費用がかかっていると予想されます。

総務や人事など、収益を生まない部署やチームは貸し農園に限らずどの企業にも存在します。貸し農園をコストと考えるか、価値ある費用と考えるかは経営判断であり、外野が言うべきことではないかもしれません。

ただ、働く障害のある人にとって、収益や売上を目標としないことによるやりがい、達成感、職業人としてのキャリア形成や能力開発などの視点で考えると、どうなんでしょうか。ここは、疑問が残るようにも思います。

また、年間数千万円?かかる費用を企業がいつまで持続できるかを考えても、疑問は残ります。うちの法人も、総務や経理などの部門に対して、全体収入のどれくらいの割合をかけて運営していくかは、きちんとした目安はないものの、決算ごとに見る数字では数%となっていて、貸し農園にかかる数千万円?はそれなりにインパクトある数字であるように思います。

福祉側に与えられた問い

前のnoteでも書きましたが、やはり、福祉側が批判的意見を言うことが少し多いように感じます。理念と合わないことによる批判、障害者を商品のように扱うビジネスモデルへの批判、感情的な批判など、批判もまた多様化してますが、福祉側からの意見は目立っている感じでしょうか。

確かに、どの批判も理解できますし、一部は納得できる点もあると感じてます。でも、これ(障害者雇用ビジネス)は、福祉側で就労支援をうまく進められていないことへの問題提起でもあるではないでしょうか。

雇用率制度の改正が続くなか、雇用率は2.7%へと向かっていくことが昨年末に決まりました。数合わせの障害者雇用は、もしかしたら更に進んでしまうかもしれないです。

企業は、ある意味で合理的に動きます。法令遵守を意識しながらも、経済合理性のなかで事業を進めることもあるでしょうし、僕らも私生活の中でそれらの恩恵を何かしら感じていることもあるように思います。

法令遵守をどのような形で達成していくかの「ひとつ選択肢」として考えると、このビジネスモデルは成り立つように思い、むしろ、成り立たせている社会や周囲の環境をどうするかといったことが問われているのかもしれないです。

対日審査の視点

昨年の8月、ジュネーブで国連の障害者権利委員会による対日審査があり、翌月には総合所見・改善勧告が国連のホームページに公開されました。

詳しい内容は、またの機会にnoteで書いてみようと思いますが、国連の障害者権利条約は以下の「社会モデル」を基本的な考え方としていて、それに基づいて総合所見・改善勧告がまとめられています。

条約の前文
• 障害が、機能障害を有する者とこれらの者に対する態度及び環境による 障壁との間の相互作用であって、これらの者が他の者との平等を基礎と して社会に完全かつ効果的に参加することを妨げるものによって生ずる
第一条
• 障害者には、長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的な機能障害で あって、様々な障壁との相互作用により他の者との平等を基礎として社 会に完全かつ効果的に参加することを妨げ得るものを有する者を含む。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html

総合所見は「人権モデル」ともいわれていて、「権利条約をこう解釈すべきである」といった考えのもと、障害者の不利益を解消するためのポリシー(方針、 方策、政策)に関するモデルを示していることになります(参考:知的障害福祉研究さぽーと,2023年1月号)。

さて、前置きが長くなりましたが、日本の障害者雇用や福祉的雇用に対する権利委員会の意見では、特例子会社、A型、B型などのいわゆる「障害のある人を集約した形」は認めない姿勢を貫いています。

これには賛否の意見があると思いますが、集約することによる配慮や支援が行き届くことはもちろんあります。ただ、「開かれた労働市場への移行機会が限定的」「特に知的障害者及び精神障害者の分離」との懸念が総合所見には記載されており、勧告にも同様のことが書いています。ここは見逃せないポイントでもあります。

国連の障害者権利委員会が示す「社会モデル」。これに照らし合わせて障害者雇用ビジネスを考えると、どういった答えが正解なんでしょうか。集約しないビジネスモデルが答えのひとつとなるのでしょうか。

ダイバーシティ&インクルージョン

多くの企業で使われる「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」。経団連の提言・報告書(2017年)には、次のような記載がありました。

「ダイバーシティ・インクルージョン」とは、多様性を受け入れ企業の活力とする考え方である。
企業の組織活性化、イノベーションの促進、競争力の向上に向けて、まずは女性、若者や高齢者、LGBT、外国人、障がい者等、あらゆる人材を組織に迎え入れる「ダイバーシティ」が求められる。
その上で、あらゆる人材がその能力を最大限発揮でき、やりがいを感じられるようにする包摂、「インクルージョン」が求められる。ダイバーシティとインクルージョンの双方があいまって、企業活動の活力向上を図ることができる。
また、ダイバーシティ・インクルージョンの実現は、全ての従業員が自己実現に向けて精力的に働くことのできる環境を生み、従業員一人ひとりのQOLの向上にもつながっていく。
https://www.keidanren.or.jp/policy/2017/039.html

記載の内容は、とても素晴らしい文章です。これを経団連に加盟する全ての企業が実現すれば、障害者雇用ビジネスは生まれないように思います。

特に、中段にある「あらゆる人材がその能力を最大限発揮でき、やりがいを感じられるようにする包摂、「インクルージョン」が求められる」は正にその通りで、その先にある「企業活動の活力向上」「QOLの向上」はD&Iの真の目的だと思います。

そう考えると、やはり、貸し農園での職場環境は経団連の目指す姿や考え方とは少し違っているのかもしれません。個人的にはそんな気がしたりします。

働くとは何か

1999年、ILO(国際労働機関)総会で「ディーセントワーク」の理念が提唱されました。簡単にいうと、「働きがいのある人間らしい仕事」といった意味になります。

障害のある人のディーセントワークで考えると、うちの理事長の松上さんは「働けないことを「障害の問題」にしないこと」と言っていて、上司に忖度するつもりはないですが、ここは強く共感します。

また、今回の貸し農園等の障害者雇用ビジネスに限らず、特例子会社やA型などのいわゆる集約型モデルでは、松上さんがまとめるディーセントワークの概念(以下に記載)に当てはまらないケースもあるように思います。

1、地域社会での暮らしが提供されること
2、社会から認められる役割があること
3 、「働けない」ことを「障害の問題」にしないこと
4、合理的配慮がなされ、「強み」が発揮できる環境が提供される こと
5、ニーズに応じた様々な働きが実現できること
6、働きに応じた正当な賃金が得られること
7、チャレンジできる、学習できる環境が提供されていること
https://www.suginokokai.com/matsugami/0063.html

対日審査でも同様のことが指摘されていて、働くことによる自己実現、キャリア形成、正当な賃金、チャレンジできる機会などは、障害者雇用全般にいえることも多く、今回の障害者雇用ビジネスは上記に該当しないケースが多く、それ故に批判的な意見が多くなっているように思います。

給与や身分保証だけではなく「働くとはなにか?」は、就労支援や障害者雇用の業界に関係する人にとっては、自問自答を続ける重要なテーマであると思います。

まとめ

書きながら考え、考えながら書き進め、それによってまとまりないことも多くなってしまいました。まとめにかえて、最後はご本人やご家族の立場を想像しながらこのテーマを締めくくりたいと思います。

これは、前のnoteにも書きましたが、「結局のところ、賛成or反対どっち?」と言われたら、僕はどちらかというと賛成よりです。その気持ちになる理由は、ご本人やご家族にとってこれが最善と思えることもあると思えますし、そう思うしかない社会資源や福祉・雇用の未発達もあると思ってしまうので、賛成よりな意見になるのかもしれないです。

僕の所属する就労移行支援・自立訓練の事業所は、2拠点で毎年15〜20名程度の就職実績があります。企業開拓するスタッフを所内に4名配置して、企業への電話かけや訪問での新規開拓を長年続けていますが、「障害へのイメージ」は昔より良くなっているものの、まだまだ理解のない社会があるのも事実です。

そんな社会だとしたら、こういったビジネスモデルが生まれるのは不思議じゃないし、ご本人やご家族としては、理念に合わないとしても雇ってくれる貸し農園での職場があり、それが本人にとって働きやすいものなら、それを止める支援者にはなれないと思っています。

就労支援って、「社会を変える力を秘めてる」と思っていて、でも、僕らの事業所だけで社会が変わるわけではないですが、まだまだ社会が障害者雇用に対してポジティブになれてないのは事実だったりして、そう思うと僕らの力不足もある気もして、それは、ご本人やご家族にも伝わっているような気もしてます。

もちろん、制度がより良い形で改正され、それによって社会が変わっていくこともあるので、関係者だけの責任ではないですが、でも、個人的にはこの問題を批判や排除の意見で終わらせるものではない気がします。

それに、すでにこのモデルを通して働く障害のある人が1万人ほどいるわけですから、働く人やそのご家族にとっても良い流れとなるよう、本件と対話し続ける必要があります。

日々の仕事では、そんなに大きく影響するものではないものの、このテーマになるとなんだか炎上する感じの雰囲気になるのがちょっと違和感ある気がして、自分にとっての再考になったかはよくわかりませんが、とりあえずこうやって書き留めておきたいと思います。

また、時期を見て、書きながら考えていこうと思います。

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