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障害者雇用支援ビジネスを考える

おはようございます。
先日、先輩から突然のメールがきました。
「これからの障害者雇用は…」と題したメールには、参考URLと「問1、あなたの考えをまとめなさい。」とだけ書かれていました。
問1ってことなんで、まだまだ続くってことでしょうか??
相変わらず、無茶ぶりなメールです。
でも、これからも先輩に可愛がってもらいたいし、ご飯連れてってほしいので、マジメに考えてみることにします。

 

さて、今日のテーマは「障害者雇用支援ビジネス」。
貸し農園やサテライトオフィスなどで障害者と雇用企業を支援するビジネスモデルで、この業界では賛否いろいろです。

個人的な意見を先に言うと、ぼくは賛成。
障害のあるご本人やご家族が喜んでおられるのなら、意味のあるモデルだと思います。

でも、福祉の現場ではいろんな意見があり、批判的な意見に納得できることもあります。
いくつかの側面から、もう少し深く考えてみたいと思います。

 

ビジネスが成り立つ理由

慶応義塾大学の中島教授の著書「新版 障害者の経済学」には、こんなことが書かれてありました。

東京都千代田区に本社があるエスプールプラスという会社は、千葉県に所有するハウス農園を企業向けに貸し出し、企業が雇用した障害者に農作業をさせている。
(中略)
障害者雇用に苦労している企業にしてみれば、法廷雇用率の引き上げに対処するため「背に腹は替えられない」というのが本音だろう。

エスプールに限らず、いくつかの企業が同様のビジネスモデルを展開しています。
法的になんら問題がなければ、それに応えるのがビジネス界の常識なんだと思いますし、そこに対して違和感はありません。

障害者雇用に困っている企業をビジネスで支援しているわけですし、働きたいけど働けない障害のある人を企業とマッチング支援しているわけですし、双方とも喜んでいるならビジネスとして何ら間違っていることはないと思います。

 

先ほどの中島先生の著書には、上記引用の続きにこのようなことが書かれていました。

実際、エスプールプラスのビジネスを掲載している新聞記事には「ビル清掃や事務部門での受け入れは限界に近づいた」との企業のコメントが紹介されている(日本経済新聞2015年3月6日)。つまり、これ以上、障害者のために切り出せる仕事がない企業にとってみれば、厚労省から「未達成企業」の烙印を押されて評判を落とすくらいなら、賃金と手数料を払ってもエスプールプラスに障害者を引き受けてもらった方が得策と考えても不思議ではない。

中島先生は、本書の中で福祉や教育、雇用など、障害のある人を取り巻く環境について、ズバズバ切り込んでおられます。
書き方がストレートなので少々誤解を招きそうですが、新聞記事の内容が正しいとすればこのビジネスモデルは成り立ちやすくなるはずです。

「ビル清掃や事務部門での受け入れは限界に近づいた」

これについては、ぼくはモヤモヤしてしまいますが…。

 

障害のある人と家族の想いは…

障害のある人は、日本全体で約937万いると言われています。そのうち、18〜64歳の在宅者数は約362万人です。
障害者雇用の状況を見てみると、日本では53.5万人が雇用者数としてカウントされていて、単純に考えると362万人の14%程度しか雇用されていないことになります。

現在の状況では、障害のある人、それから両親や兄弟にとっては「就職は狭き門」ってことになります。
特に、両親は子どもより早く亡くなってしまうことを考えると、いわゆる「親亡き後問題」が気になってくるわけで、本人が機嫌よく働けたり、過ごしやすい居場所を見るけたり、仕事や生活が本人らしく楽しくやっていけることが確信できれば、いつ死んでも安心ってことになります。

そう考えると、上記のビジネスモデルは、本人と家族のニーズにマッチします。
障害者雇用支援ビジネスを展開する企業が安心安全な雇用環境を用意し、本人と雇用企業の橋渡しを行い、時には本人のケアをしてくれたり専門的な支援をしてくれるとなれば、本人や家族はとてもうれしいと思います。

もし、ぼくの子どもに障害があり、このビジネスモデルでお世話になれるって考えたら…。
「よろしくお願いします!」って言うと思います。

 

共生社会の理念で考えてみると

2018年、中央省庁による障害者雇用の水増しが社会問題となりました。
時々コラムを書かせてもらっている「ミルマガジン」では、以下のことを書いてみました。

コラムでも触れていますが、法定雇用率は、「割当制度」です。
障害者雇用を社会全体で取り組むことと決め、義務化による雇用促進を目指して「割当雇用制度(雇用率制度)」を設けています。

そこには、「共生社会の実現」という理念があります。
理念のもと、企業が割り当てられた雇用率を達成することで差別解消につながったり、障害のある人の社会参加が促進されるというものです。

理念的なことばかりで説得力に欠けますが、「共生社会の実現」と考えると障害のある人とない人が「混ざり合った社会=共生社会」と、ぼくはイメージしてしまいます。

そうすると、今回のビジネスモデルは理念とは反対に向いているように思います。

割当制度のもと、障害のある人が企業の中で「分散」して雇用されることで「共生社会」に近づくとすれば、「集約」するスタイルは理念と合っているかどうか…。

ここは、悩ましさを感じます。

 

これからに向けて(勝手に提案)

就労支援・障害者雇用の業界は、雇用率の改定や精神障害者の雇用義務化などもあって、福祉業界による営利企業の参入が増加したり、雇用支援などのビジネスモデルが多様化するなど、業界としては活性化してきています。
まだまだ発展途上の業界でもあるので、賛否があるのはある意味健全なことです。

さて、最後はまとめにならないかもですが、個人的に、勝手に、いくつか提案してみます。

1、日本の障害者雇用の「将来像」を再考する

ビジネスで解決することが増えると、理念より利益が優先されがちです。「利益が出てるならいいでしょ」「お金を払うお客さんが満足しているからいいでしょ」となります。間違っていることではないですが、日本の社会が「どこを目指しているか」について再考してもよいかと思います。
その際、ただ単純に雇用促進されるだけでなく、どのような雇用促進を目指しているか、その先にどのような社会の姿があるかについて、具体的に書かれていると国民や私たちの業界も理解しやすくなるように思います。

2、雇用率のカウントを「多様」にする

東大先端研の近藤先生たちが提唱されている「超短時間雇用」。現場感覚としては、20時間より少ない時間でしか働けない人は結構多くいるように思うので、雇用率のカウントに加えてはどうかと思っています。
コロナもあってテレーワークが進み、個人の価値観や働き方はより多様になりました。
個人的には、障害のある人の働き方も多様であっていいと思います。
また、就職が狭き門である理由のひとつに、20時間や30時間の労働時間がハードルになっている人も多くおられます。ご本人としては、それが理由となって「働けない」というレッテルを貼られ、B型で少ない工賃を得ることしか選択肢がなくなってしまいます。
障害福祉の観点で考えれば、就職は人生を豊かにするための手段のひとつでしかなく、QOLの向上が真の目的です。B型にいる人でも、週に1〜2回だけ会社で働くことでB型以上の収入が得られ、企業にとっても雇用率のカウントになるなら、多様な雇用促進を期待できるように思います。
30時間が1カウント、20時間が0.5カウントとすれば、10時間の人が2人いれば0.5カウントって考え方もありなように思います。

3、営利組織と非営利組織の「役割期待」を明確にする

就労支援・障害者雇用の業界は、営利企業の参入と多様なビジネスモデルで活性化されました。
「イノベーション」として新しい価値が生み出されていることも多く、業界としてはよいことだと思います。
ただ、営利と非営利が混在する業界は、利益優先か理念優先かなど、賛否も起こりやすいものです。
法律や制度で示すものではないと思いますが、「1の将来像」をお互いが共有する中で「役割期待」を分けていってはどうかと思います。
具体的には、営利組織の役割期待は「利益優先」、「合理的・効率的な方法で課題解決を目指す」。
非営利組織は、「理念優先」、「人的資本でマイノリティに特化した解決を目指す」といった感じでしょうか。
この際、営利と非営利の評価軸も確認しておいてもいいかもしれません。
例えば、営利組織は利益が出ていることを前提にしつつ、雇用促進法や虐待防止法、差別解消法などの法令遵守に努めていることで社会的な評価を受ける。
一方、非営利組織は、理念の達成状況や課題解決の進捗について情報公開し、利用する障害のある人や家族、地域住民、行政などから定期的に評価を受けることで適正な運営を保てるように思います。

 

長々と書いてしまいました。
お付き合いいただき、ありがとうございます。

今回のテーマは、理念先行で考えると福祉職としてモヤモヤしてしまいます。
でも、ぼくのお客さんは障害のある人なんで、その人たちが生き生きと働いておられるなら賛成です。

ビジネスで解決することで多くの障害のある人が救われることもあり、私たち福祉のチカラで全てを解決するのは難しさがあります。

まだまだ発展途上の業界ですので、多様なスタイルとの共存をポジティブに認めつつ、共生社会の実現のためにみんなでがんばっていきたいものです。

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