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「死んだほうがいい」考え直した休職期間

新聞社を辞めてフリーランスとして独立してから、もうすぐ1年になります。
去年の今ごろは何をしていたかというと、休職期間の真っ只中でした。

会社を辞めるまでの経緯はこれまで講演でも原稿でもほとんど打ち明けてこなかったのですが、実は退職するまでに3カ月間、休職させてもらっていました。有休消化の類ではなくて、心身の不調によるものです。

最近、全国紙の記者として働く友人から「もう体が持たないかも」というSOSに近い相談を受けて、自分自身の体験を一度ちゃんとまとめたくなりました。

私の人生にとって「仕事を休む」という選択をしたあの3カ月間はとても大切な意味を持っていて、たくさんのことを学び、考えた期間でした。

おわりの方に書きますが、一時的な休職や離職を肯定的に捉える「キャリアブレイク」を文化にしようと取り組んでいる一般社団法人キャリアブレイク研究所さんが以前実施していたアンケートに協力したことがあり、そこに回答した内容をもとに綴ってみようと思います。

いましんどい思いをしている人にも、そうでない人にも、今後の働き方やキャリアを考える参考になればうれしいです。


休職を決めた理由

「休む」という選択肢を取ったのは、新聞記者として働き始めてから6年目の夏でした。5年間在籍させてもらった広島支局を離れて、大阪社会部に異動して5カ月後のことです。
取材も書くことも大好きで、「この仕事は天職だ!」くらいに思っていたのですが、お盆を過ぎたあたりから不調を感じるようになりました。
会社に行こうと思うと涙が出る、仕事中に動悸がして息苦しい、咳が止まらなくてえずいてしまう、立っていることさえできない、などなどです。
異動後の仕事内容や働き方と、私の心身がマッチしていないのは自覚していました。出勤前や休日のなんでもない時に涙が出る症状が表れた時に、「あ、これダメだ」と思いました。というのも、高校時代にも登校拒否を経験しているんです。その時に近い感覚がありました。これ以上踏ん張り続けるとその後しばらく立ち直れない、と。

体の異変を自覚しながらどう対処したらいいのかもわからなくって、「もう会社を辞める!」ということしか考えられなくなりました。「もう辞める、明日退職届出す」と泣いていた時、家族に「いったん休んでみたら。今はたぶん辞めることしか考えられんくなってるから」と助言され、一度休職しようと思い直しました。
当時は考える冷静さを失っていたので本当にありがたかったです。

どのように休職させてもらったか

休職しようと決めましたが、その後どのような手続きを経たのか。
これ、当時どれだけ検索しても出てこなくてつらかったので私の経験ですが概要を記しておきたいと思います。正直、頭の中は大混乱でとても感情的になったためうろ覚えなところもあります。また、詳細に書きすぎて各所に迷惑をかけたくもないので、あくまで概要だけということでご了承ください。

私の場合は、休職する直前くらいから、周りにも「なんかおかしいぞ」と思ってもらえてたのかなという気がしています。
自分で言うのも変なんですが普段の私は超元気で明るいキャラクターなので(笑)、それが急に沈み込んで仕事にも手がついていない様子だったので上司も気にかけてくれたのではないかと思います。
声をかけてもらったのか、自分から連絡したのか、ちょっと定かではないのですが、家族に「いったん休んでみたら」と助言してもらった翌日、上司に「うまく頑張れなくなってしまいました」とメッセージを送りました。上司はすぐに反応してくれて、話す機会をつくってくれました。
そこでここ最近の不調について打ち明けると、その日の午後から休むように手配してくれました。
本当に迅速な判断と対応でありがたかったです。いまも心から感謝しています。職場を出て、明るい時間に最寄り駅に帰った時のほっとした気持ちは忘れられません。

その後メンタルクリニックを受診し、「適応障害」と診断を受けました。どれだけ休むかは主治医が決めるというよりも「どうしたい?どんな感じだと思う?」とこちらの状態や話を聞きながら進める感じだったので、まずは1カ月、ということになりました。その診断書を提出して、社内でも休職の手続きを進めていただく、という流れです。

他の休職経験者に話を聞いていると、上司に相談する前にクリニックを受診して、診断書を手に相談に行くというケースもあるようでした。

休職期間中はどのように過ごしていたか

①「休むこと」を頑張った

まずは心と体を休めることが最優先、と決めました。
新聞を読んだりニュースを見ると、仕事ができていない自分を責めて落ち込み調子が悪くなってしまうので、情報からも距離を置くようにしました。

眠たくなったら寝る、食べたくなったら食べる。

そんな自分を肯定するために、「休職中 過ごし方」といったワードをひたすら検索して、「休んでもいいんだよ」と自分に言い聞かせながら過ごしていました。「働かなくちゃ!」「いや休もう」と思考をループさせながら、なんとか休んでいたと思います。かなり「努力」をしなければ、休む自分を許せなかったなと思います。

②たくさん読書をした

本を読んでいました。1週間に2~3冊のペースで読み、その記録を「休職読書日記」という形で、ごく親しい人しか見ないインスタグラムに投稿していました。
それまでは仕事に関係する本ばかり手に取っていましたが、この時は雑誌で見たおすすめの本とか、図書館で気になった本をひたすら読み漁りました。

復職するか、それとも退職してフリーランスになるかをずっと悩んでいたので、働き方や人生に関する本は自然と多くなりました。
この期間に読んでよかったな、という本をざっと挙げてみます。

〇 『スロー・イズ・ビューティフルー遅さとしての文化』辻信一
なにごとも減速して生きることの大切さを説いている本。速報を求められる業界にいて、自分自身もとにかく生き急いでいる側面があるので、価値観をがらっと変えてくれました。私にとってはダントツで良かった一冊です。
〇『仕事にしばられない生き方』ヤマザキマリ
〇『モノやお金がなくても豊かに暮らせる。—もたない贅沢がいちばん』ヘンリー・D・ソロー/訳・増田沙奈/構成・星野響
〇『居るのはつらいよ―ケアとセラピーについての覚書』東畑開人

稼がないといけない、がむしゃらに働かないといけない、仕事で成功することが人生の目的だ。そんな固定観念に縛られていたかもと、この期間の読書体験で気付くことができました。

③自炊をした

できるだけ毎日自炊をしました。休む前はとにかく時間がなくて、コンビニや外食で済ませることが多かったです。
もともと料理は好きなので、休職してからは同居していた祖母の分も含めて夜ごはんは必ず作っていました。何を作ろう、余っていた食材は何かな、と考えることはその日のミッションになって、ちょうどいい達成感を得られていたように思います。
また、料理をすると生活リズムを作ることもできました。私の場合、休職してすぐはとにかく眠くて仕方なかったんです。それまでの疲れが出ていたのかも知れないのですが、もう、朝でも昼でも眠い。それでもいいやと思って寝てましたが、料理をすることで最低限のリズムが保てたかなとは思っています。

食べることは生きることに不可欠な営みです。
自分で作って食べることで、ようやく人生が自分の手に戻ってきたような感覚がありました。仕事に忙殺されて、いかに生きることをないがしろにしていたのだろう、と感じていました。

④だけどやっぱり焦っていた

最後に挙げることはあまり良くないことだったとは思いますが、どうしようもない「焦り」が常に胸の内にあり、それを打ち消すための努力を続けていたと思います。
「この休みを有意義なものにしなきゃ!」と気持ちが急いて、ファイナンシャルプランナーや簿記の勉強をして資格を取ってみたり、フリーランスで仕事をしていくための情報収集をしていました(苦笑)。
それで気持ちが沈んでまた体調が悪化したりもしていたので、「とにかく休んどけ!!」と当時の自分に言いたいです。
だけど、そうした自分自身の行動、どうしても動き出してしまう衝動なんかを自覚して、「ああ私って会社を辞めたいんだな」と気が付くこともできたので、よくも悪くも、という感じですね。

休職期間を通して考えたこと、自分の変化

人生の歩き方を見直した、というのが一番かも知れません。
それまでの私は、とにかく仕事で成果を収めなければ生きている価値がない、という風に思っていました。

でも、休職期間中にさまざまな価値観に触れてみて、そんなに必死に頑張らなくても生きていてもいいのかも、存在しても許されるのかも、と思い直すことができました。

社会的な評価を得なければ存在価値がない、生きていてはいけないと、自分で自分を追い詰めていましたが、もっともっと、手触りのある生活がしてみたいと思いました。例えば自分で料理を作って食べるだとか、お金はなくても時間をかけてどこかに移動したり何かを作ったりして、自分で自分の生活を組み立てていきたいと思ったんです。そんな生活を、休職期間に初めて実践できたから、そんな風に思ったのかも知れません。

もっとちゃんと、生きていることをかみしめながら生活を送ってみたい、といように思いました。
お金は最低限生きていけるだけあればいい。それよりも働く時間を減らして、「生きててよかったな」と思う時間を増やしたい、という風に思いました。

それまではことあるごとに「あーもう死にたい」「生まれてきたくなかった」なんて考えて自分自身を傷つけていましたが、「いや、生きててよかったと思う時間を増やすこと以上に大切なことが、人生にあるか?」という風に思うようになったんです。

生活や思考をもっと自分軸に寄せていく、戻していこうという風に今は考えています。

休むという選択をしなければ気付けなかったことなので、本当に良かったです。あのまま働き続けて、「成果を出さなければ存在価値なし」という価値観を見直すことができていなければ、もしかしたら近い将来つぶれちゃってたかもな、とも思います。

休職期間中に困ったこと

①会社関係の連絡はめっちゃしんどい

たとえ心配する内容だったとしても、仕事先や上司からのメールや電話はちょっとつらかったです。「大丈夫か?ゆっくり休んでくれ」という内容でも、感覚が一気に職場に引き戻されちゃうんです。
いま思えば、休職期間中は社用携帯の電源を切らせてもらうとかしてもよかったのかなーと思います。特に新聞記者は、24時間片時も社用携帯を手放せない毎日を送っています。その感覚がどうしてもあるから、休職期間中であっても電源は切らないようにしていたんです。
休職するにあたって、連絡をどうするかはすり合わせておいてもいいかも知れません。たとえば満期が来る数日前に連絡を取る、それまでは接触しない、とか。

②休職期間「1カ月」は短い

休職期間を、最初はとりあえず1カ月という風にしていたのですが、1カ月は短すぎると思いました。休んだと思った途端に期限が来て、また上司に延長するかどうかの相談をしなければなりませんでした。期限が近づくとまた体調が悪くなってきて、うまく休めなかったなと思います。その後2回延長して結果的には3カ月の休職期間を頂いたのですが、最初から3カ月くらいとればよかった、と思いました。
いろんな情報を見ていても「少なくとも3カ月」というのは結構多いですね。

③やっぱりお金は大変

祖母の家に下宿のような形で住んでいたので金銭面での負担はそれほどありませんでしたが、これが一人暮らしだったら大変だったと思います。休職中に頂いていた手当は、家賃と光熱費で消えてしまうくらいでした。ある程度の貯金がないと心もとないと思います。今は休職した時のための保険なんかもあるそうですね。こういうのはこれからの時代必要だな~と思います。

休職期間が終わってから

3カ月の休職期間、会社を辞めるか留まるか、本当にすごく悩みました。最終的に、私は退職することを選びました。
書き手として取材を続けていきたいテーマや今後の目標、そしてパートナーとの生活など要因はたくさんあります。でも、今回のトピックである「休職」ということに引き付けて考えてみると、仕事を休んだ3カ月間で、生きていく上で大切にしたいものがガラッと変わってしまったというのが正直なところです。

それはこれまでにも書いてきたところですが、「生きていたよかったな」と思える時間が増やせそうなのは、私にとってはフリーになることかな、と思ったんです。

それは、私がいま最も大切なテーマだと思っている原爆被害を取材して形にしていくこともそうだし、自分でつくったごはんを食べることもそうだし、大切な人と楽しく過ごすために自分自身がご機嫌でいることもそうです。

仕事や活動で結果を出したり評価されることでしか幸せを感じることができなかったけれど、それは自分の幸せの基準を自分の外側にゆだねてしまっています。もっともっと、自分の心がときめくように、楽しくいられるように、人生を自分軸に戻していきたいと思いました。

だからいま、何ごとも自分で決めて自分でやらなければならないフリーランスの生活は、とっても楽しいです。人生がこの手にある、という感じです。

この記事でフリーランスになることを勧めたかったわけではありません。ただ、休職することで私はどんな働き方をしてどんな人生を歩みたいかを見つけることができた、ということを書き残しておきたかったんです。

おわりに――キャリアブレイクという考え方

「キャリアブレイク」という考え方があります。
一時的な休職や離職を肯定的に捉えて、働き方を見直したりスキルアップする期間としよう、というものだそうです。
一般社団法人キャリアブレイク研究所の北野貴大さんが提唱されていて、とても素敵な考え方だなと思いました。

私が経験したあの休職も、間違いなく「キャリアブレイク」の期間だったな、と思います。

私の場合は心身の不調から始まった休職でしたが、その期間を通して学んだことがたくさんあります。
でも、キャリアブレイクという考え方は、そうでない人にも開かれています。
休職というとどうしてもメンタルヘルスとか病気とかネガティブなイメージが思い浮かびがちですが、北野さんとお会いした時に「留学みたいな感覚に近い」という話になって、ハ~~確かになるほど、とうなりました。
「休む」というより、仕事から一時的に「離れる」ことによって見え方が変わって、人生が豊かになるよね、という考え方です。

▽詳しくはこちらの北野さんの記事へ。冒頭の「ある人」は私です(笑)

仕事から離れることで、私の仕事観や人生観は大きく変わったと思っています。

いまもし、仕事が原因で心身に不調を感じている人はすぐに休んだ方がいいと思います。そういう方には強く「休んで」と訴えたいです。早い方が絶対にのちのちの人生のために良いです。「まだ頑張れる」と無理して走り続けると、倒れた時に立ち直るのに時間がかかってしまいます。

でも、キャリアブレイクはそうでない人にとっても大切なことなんだ、と北野さんと出会ってから思うようになりました。

一度走り出したら止まることが許されない(ように感じさせられる)社会。だけど、全速力で走り続けていては見落とすものもたくさんあるだろうし、もしかしたら大切に抱えていたものまで落としてしまうことがあるかも知れません。走りたいときは全力で走って、たまには立ち止まってあたりを見渡してみる。ゆっくり歩いてみたり脇道に逸れてみたり。そんな生き方、キャリアの積み重ね方も素敵じゃない?と思います。

こんな風に思えたのも休職期間……私にとってのキャリアブレイク期間のおかげです。かつての私は「ずっと憧れていた新聞社で結果出して最高地位まで上り詰めてこの会社と添い遂げてやるんだー!」としか思えませんでしたから。
(もちろんそういう働き方やキャリアも素敵ですよ。ただ、自分がどうしたいのか考えてみるべきだし選択肢は多い方がいいよねという話)

仕事を「離れる」という選択肢が一般的にも広がればいいなと、私も当事者の一人として思っています。

北野さんの初めての著書が年明けにも刊行されると聞いて、今から楽しみにしています(こちらも紹介記事書きますのでお楽しみに!)。

※2024年2月22日追記。発売されました!

〇 私が書いた紹介記事はこちら。


弱い自分をさらけ出すのは怖いです。
フリーという道を選んだ理由が、取材したいという信念だけではなかったことに失望される方もいらっしゃるかも知れません。
でも、この弱さが私だし、弱いからこそできる取材や発信がきっとあります。私は私を誇りに思っています。

長々と書いてきましたが、誰かの背中を支える記事になっていたらいいな、ということを願っています。

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