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パチンコ・パチスロでのギャンブリング障害、危ない遊び方、健全遊技、まとめ

・2022年2月の国際疾病分類ICD-11に従えば、これまでの「依存症」疑いは「危ないギャンブルの遊び方」疑いとみるべき
・神経症傾向や「自分で止めることができない」という考えが、パチンコの危ない遊び方を生み増強する
・出玉性能、広告宣伝視聴とぱちんこの危ない遊び方の関連はない
・遊技頻度、時間、負け額などの遊技量は、ぱちんこの危ない遊び方に影響せず、健全遊技が重要
・70代ぱちんこユーザーの認知機能は高く、健全遊技が認知機能低下予防にもつながるらしい

概要
2022年2月の国際疾病分類ICD-11に従えば、これまでの「依存症」疑いは「危ないギャンブルの遊び方」疑いとみるべき
ICD-11が2022年2月にギャンブリング障害の必須要件を厳格化し、コントロール障害、ギャンブリングの最優先、否定的な結果にもかかわらず継続拡大、の三要件を満たし、重大な障害や苦痛が生じていることが必須となった。
「危ないギャンブリング(ギャンブルの遊び方)or ベッティング」が、疾病や障害ではない「健康状態または医療サービスとの接触に影響を及ぼす要因」のひとつとして設定され、ギャンブリング障害との区別が求められた。
⇒これまでの「依存症」疑い率は「ギャンブルの危ない遊び方」疑い率とみるべき

神経症傾向や「自分で止めることができない」という考えが、パチンコの危ない遊び方を生み増強する
社会安全研究財団パチンコ・パチスロ遊技障害研究会の調査で、2017年1-2月時点で、過去1年間の遊技障害うたがい率(ぱちんこの危ない遊び方をしている疑いのある人の率)は0.4%、約40万人と推定された。
この数字は他のDSM系の国内調査や諸外国の調査とそれほど違わないもので、「日本はギャンブル依存症が突出して多い」「それはパチンコ・パチスロの普及ゆえ」というのは誤り。
神経症傾向(敵意、不安、抑うつ、自意識、衝動性、傷つきやすさ)がぱちんこの危ない遊び方の長期的で強力な促進要因。
「パチンコ・パチスロを自分で止めることができない」という認知の歪みがぱちんこの危ない遊び方の発生や進行に強く影響。
(牧野、佐藤、西村、篠原、石田、坂元、河本、お茶の水WG)

出玉性能、広告宣伝視聴とぱちんこの危ない遊び方の関連はない
日遊協 パチンコ・パチスロ遊技障害防止研究会
(篠原、坂元、河本、小口、お茶の水WG)

遊技頻度、時間、負け額などの遊技量は、ぱちんこの危ない遊び方に影響せず、健全遊技が重要
公立諏訪東京理科大医療介護健康工学部門とダイナムの共同研究
(西村、篠原、櫻井、奥原)


驚きのトピック

ICD-11(死亡率と罹患率のための国際疾病分類第11版:俗にギャンブル障害、ゲーム障害はWHOが認める疾患、というときの根拠)の2022年2月バージョンでギャンブル障害の診断要件が厳しくなり、危険なギャンブリングorベッティングとの区別がより求められるようになった(資料1)
https://higeoyaji.at.webry.info/202202/article_4.html
https://icd.who.int/browse11/l-m/en#/http://id.who.int/icd/entity/1041487064

資料1:ICD-11でのギャンブリング障害「必須な特徴」
★主にオンライン(すなわち、インターネットまたは類似の電子ネットワークを介して)またはオフラインで行われるギャンブリング行動の持続的なパターンであり、以下のすべてによって示されます。

ギャンブリング行動のコントロール障害(はじめること、頻度、強さ、継続時間、やめること、状況など)。
ギャンブリングが他の人生の関心事や日常活動よりも優先されるほど、ギャンブリング行動の優先順位が高くなること。
否定的な結果(ギャンブリング行動による夫婦間の対立、繰り返される多額の金銭的損失、健康への悪影響など)が生じているにもかかわらず、ギャンブリング行動が継続または拡大すること。

★ギャンブリング行動のパターンは、継続的なもの、またはエピソード的に繰り返されるものであるが、長期間(例えば、12か月)にわたって現れている。
★そのギャンブリング行動は、他の精神障害(例:躁病エピソード)ではうまく説明できず、物質や薬の影響によるものでもない。
★そのギャンブリング行動のパターンにより、個人、家族、社会、教育、職業、またはその他の重要な機能分野において重大な苦痛または障害が生じている。

ここまでそろっていない、これらの項目が散見されるレベルは、危険なギャンブリング、ベッティング(ギャンブリング障害とは互いに排他)。
障害や疾病カテゴリーではなく「健康状態または医療サービスとの接触に影響を及ぼす要因」のカテゴリー。

この結果、
これまで諸外国やわが国で行われてきたギャンブリング障害の有病率、有障害率はすべて、ICD-11基準のギャンブル障害では過剰なカウントになった。
久里浜の調査も、われわれの調査も、世にあふれるチェックリストもすべて。
これらは、障害や疾病というより、健康状態や医療サービスとの接触に影響を与えうる要因としての「ギャンブルの危ない遊び方」(Hazoudous gambling)調査にあたることになる。
わたしたちはSOGS、PPDSなどDSM系の「有障害うたがい」(資料2)はきわめて幅広でギャンブリング「障害」と呼ぶには緩すぎると指摘してきたが、これがWHOに追認されたとみることもできる。
ただしDSM-5基準ではあいかわらずギャンブリング障害。

イメージ図

ただし、ゲームでのDSM-5系とICD-11系の重なりを見ると、DSM-5とICD-11は重なりつつ別な何かを見ているのかもしれない。

ちなみにSOGS7、8点(DSM-5基準でのカットオフ4点)は、
「パチンコ・パチスロが気になって仕方ない」
「ストレスから逃れるために必要だ」
が「どちらかといえば当てはまり」、
「使う金額増えた」
「やめると落ち着かなくなる」
「うそ」
「借金を頼む」
は「ほとんどない」レベル。

久里浜のSOGS5点ではもっとゆるくても「依存症うたがい」。
このレベルから予防対策を、というのは賛成だが、このレベルを依存症と呼んだり、進行性で不可逆的と捉えるのはおかしい。

DSM-5のleading to問題

SOGS、PGSI、PPDSなどがよって立つDSM-5(精神疾患の診断と統計のためのマニュアル第5版:現DSM-5TR)では9つの症状項目のうち4つ以上を示すような「臨床的に意味ある機能障害や苦痛」につながるギャンブリング行動がギャンブル障害と記載。
 問題なのはこの「つながる」表現では「臨床的に意味のある障害や苦痛」を必須要件にしていないように見えることだ。DSM-5は、四症状項目以上を示せば「臨床的に意味ある機能障害や苦痛」につながると解釈しており、ICD-11で必須である「重大な機能障害や苦痛」が必須ではないようにも読み取れるのだ。その結果、SOGS、PGSI、PPDSなどの質問紙では「臨床的に意味ある機能障害や苦痛」が無視されてきた。
 臨床的にはこういう項目を参考にしつつ、精神科医がその人の状態を「臨床的に意味ある機能障害や苦痛」につながるレベルかを判定していくので実際上の問題は生じない。が、質問紙では上記の項目で「はい」「いいえ」で答えさせるなどすれば、臨床的には「いいえ」であっても質問紙では「はい」となりがちだったりする。また「臨床的に意味ある機能障害や苦痛」のニュアンスが抜け落ちる。そのため尺度を構成する時の心理学的作法としては妥当性も信頼性もあるDSM-5に沿った正しい基準に見えても、結果として、先に示したようにゆるゆるの基準になってしまうという現象が起こってしまっていたのだ。
しかし、今回のICD-11の厳格化を受け、今後のDSM-5TR系尺度では「臨床的に意味ある重大な苦痛や障害」を重視したカウントの仕方に切り替わっていくだろうし、切り替えるべきだと思う。少なくともICD-11基準とは異なることを明示する必要がある。

社安研研究(全国調査、尺度研究から)

https://www.syaanken.or.jp/?p=11674

パチンコ・パチスロ用のギャンブル等依存うたがい尺度(PPDS)を作り全国調査を行ったところ、2017年1-2月時点で、過去1年間のぱちんこの危ない遊び方うたがい率は0.4%、約40万人と推定された。
この数字は他の国内調査や諸外国の調査とそれほど違わないもので、「日本はギャンブル依存症(この言い方が改めるべき表現となり、ギャンブルの危ない遊び方)が突出して多い」「それはパチンコ・パチスロの普及ゆえ」という表現は誤りであることが分かった。

関連して、マスコミ等で紹介される重度事例はギャンブル障害かもしれないが、同時に掲載される有障害率は危ないギャンブリング疑い率。
危ないぱちんこの遊び方は自然寛解が多く、進行性で不可逆的とは言い難い。
債務整理体験がない場合は、「いつも自由時間だけ遊ぶ」で相当に予防可能。
債務整理体験がある場合には、「上限を決め、上限に達したら遊技を控える」の励行でリスク低減が可能。
(篠原ら「パチンコ・パチスロ全国調査データを用いた遊技場でのギャンブリング障害予防対策の検討 」アディクションと家族 35(2) 135-143 2020年6月)
自己申告、家族申告プログラムはだいじ。
一方で、のちに述べるように遊技量制限はあまり意味がないので、上記二項目のチェックを会員に配信する、などが重要。

社安研パネル調査などから、ぱちんこの危ない遊び方をしがちになる原因、パタン、対処

神経症傾向(敵意、不安、抑うつ、自意識、衝動性、傷つきやすさ)が遊技障害傾向の長期的で強力な促進要因。
「パチンコ・パチスロを自分で止めることができない」という認知の歪みが遊技障害の発生や進行に強い影響。確率理解ではない
⇒コントロールできる、しようという広報、方法の提示が重要。

余談
習慣優位型(軽度障害レベル:外向性/開放性/調和性/誠実性)にはみずからの性格特性を生かした代替となる習慣行動の提示。
逃避優位型(中等度~重度障害レベル:神経症傾向)には不安・抑うつ等の神経症傾向に対する個別の対処。
ADHD、自閉スペクトラム、境界知能等の併存障害傾向、あるいは多重債務等の生活上の問題があればその対処、環境調整を優先する。

参考
発達障害の視点から見たギャンブル等の依存(ワンデーポートと自閉症協会:マンガになっていて読みやすいです)
http://www.autism-japan.org/izon/GambleBooklet.pdf
これも必読:ギャンブル等依存対策では中村氏のこの意見を無視してはいけないのではないか
https://higeoyaji.at.webry.info/202203/article_3.html?1646289222
行動遺伝学(双生児研究)でのギャンブリング障害(ただしDSM系尺度)遺伝率50%は重視すべき。性格程度には個体側の要因が想定できる。

日遊協研究(パネル調査からのぱちんこの危ない遊び方原因論)

出玉性能はぱちんこの危ない遊び方の原因とはいえなかった
堀内ら「パチンコの出玉性能とパチンコ・パチスロ遊技障害の因果関係」(IR*ゲーミング学会 )
広告宣伝はぱちんこの危ない遊び方の原因とはいえなかった
健全遊技の推奨が重要

公立諏訪東京理科大研究(資料4:ビッグデータから)

西村ら「会員カード常時使用者におけるパチンコ・パチスロ遊技障害、健全遊技、遊技量の関係」(アディクションと家族 第37巻第1号76-84)

会員カードに紐づいた遊技頻度、時間、負け額などは、ぱちんこの危ない遊び方リスクと有意な関連がないか、あってもその効果量が極めて小さい。
⇔ほぼ影響がない。
高射幸性機の遊技時間はぱちんこの危ない遊び方リスクと有意な関連はあるが、効果量はきわめて小さく、因果的な関連があるとはいえなかった。
健全遊技(*)がぱちんこの危ない遊び方リスクを最もよく説明した。

ここでいう健全遊技とは、
Woodらのpositive play scaleの援用
「先月パチンコ・パチスロに使ったお金は、失っても構わない範囲で済んだ」
「先月において、他に優先すべき事象がある時は、パチンコ・パチスロを打たなかった」
「先月、パチンコ・パチスロを打つ前に、どこまでお金を使っても良いか決めてから、打ち始めた」
「先月、パチンコ・パチスロに使ったお金について、家族もしくは友人に対して嘘やごまかしはなかった」
など
このチェックが有効。

従業員のアンケート型調査では、遊技頻度、遊技時間、負け額がぱちんこの危ない遊び方リスクと有意な関連を示し、効果量も中程度であった。
従業員には、健全遊技と並んで、主観的な頻度、時間制限が有効な可能性
またアンケート調査だと遊技頻度、遊技時間、負け額の表記とぱちんこの危ない遊び方リスクの表記が関係を持ちやすいのかもしれない
ゲームなどのリアルデータでこの関係が指摘されているので、ぱちんこでもリアルデータでの調査をより実施していくべきかもしれない。

パチンコ・パチスロ遊技障害のリスク(ぱちんこの危ない遊び方リスク)低減に役立つアラートシステムの構築を目指し、会員カードを常時差し込んでいる2834名(58.2±13.6歳、男性1948名、女性886名)を対象に、パチンコ・パチスロ遊技障害うたがいの程度、健全遊技の程度を質問紙調査した。
また会員カードに紐づいた個々人の過去一年間の来店回数、遊技時間、現金投資金額、どのような遊技機を遊技したか等の遊技量データを調べた。

その他あれこれ
運動は発達問題を介してギャンブリング障害に役立つ
https://higeoyaji.at.webry.info/202201/article_1.html
ドーパミン危ない説って本当?
https://higeoyaji.at.webry.info/202112/article_2.html
遊技の開始や継続に役立つ要因と、遊技障害の発生や進行に抱わる要因は別になりうる
https://www.syaanken.or.jp/?p=11674
尺度問題
https://higeoyaji.at.webry.info/202111/article_2.html
不安、うつ
https://higeoyaji.at.webry.info/202109/article_9.html
「ギャンブル等依存」における「自己責任」をめぐって
https://higeoyaji.at.webry.info/202109/article_8.html
機能障害と苦痛

まとめ

危ない遊び方は修正できる


ぱちんこプレーヤーのなかで、危ない遊び方をしている人がいる。危ない遊び方をしているときがある。
こういう状態は「依存症」とひとくくりにされがちだったが、そう呼ばない方向がWHOにより打ち出された。
ギャンブリング障害と危険なギャンブリングが区別された。
危ない遊び方をしている人の多くは、自己修正や自己改善が可能。
ぱちんこの健全な遊び方を知り、チェックしていくことで、危ない遊び方は予防でき、修正できる。

ぱちんこののめり込み問題のリスクを下げる

2834人のぱちんこプレーヤー調査の結果(西村ら2022)からはぱちんこの頻度、時間、金額の制限はほとんど効果が期待できなかった。
いっぽうで
先月、パチンコ・パチスロに使ったお金は、失っても構わない範囲で済んだ
先月において、他に優先すべき事象がある時は、パチンコ・パチスロを打たなかった
先月、パチンコ・パチスロを打つ前に、どこまでお金を使っても良いか決めてから、打ち始めた
先月、パチンコ・パチスロに使ったお金について、家族もしくは友人に対して嘘やごまかしはなかった
といったプレコミットメント(事前の取り決め)とそのチェックが有用と考えられた。

ぱちんこへののめり込みや問題の予防には

『危険なぱちんこ行動を減らそう』
しかし、否定形のメッセージは、実は良い目標にはならない
それよりも
『肯定的な(健全な)ぱちんこ行動を増やそう』
という、健全遊技/ポジティブ・プレイを意識して、
チェックすることが重要

おすすめスローガン

否定型⇒肯定型
行動変容を促すなら、具体的で実現可能な行動の形を肯定形で表す。
「失っても構わない範囲でパチンコ・パチスロをしましょう」
「他に優先すべきことがある時はそちらを優先しましょう」
「どこまでお金を使って良いか決めてから打ちましょう」
「家族や友人に対して嘘やごまかしなくパチンコ・パチスロをしましょう」

重要な余談

ぱちんこユーザーのパチンコ・パチスロプレイは健全遊技の推進が一番という話をした。
しかしネットギャンブリング(公営や違法オンラインカジノ)の拡大に伴って、ぱちんこユーザーがそちらを併用し、ギャンブリング障害や危険なギャンブリング・ベッティングのリスクを増す可能性が高くなっている。
そうなると、オンラインカジノは違法であることをぱちんこユーザーにしっかり伝えたり、パチンコ・パチスロは比較的安全なギャンブリングであることを伝えることが重要。
さらに将来的にはNFTゲームでの健全な遊び方を教えることも必要になってくるであろう。

高齢ぱちんこユーザーの認知機能と健全遊技傾向、遊技障害疑い傾向の関連

以上です。

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