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運動は「ギャンブリング障害」「ギャンブルの危ない遊び方」の修正に有効か

運動が脳に好影響を与えることは、今や常識です


 たとえば、WHO(2019)は認知機能低下及び認知症の予防に関する研究をレビューし、禁煙と運動を強く推奨しています。また、地中海食、健康的でバランスのとれた食事、危険で害ある飲酒行動をやめたり減らしたりすること、認知的なトレーニング、過体重・肥満・高血圧・高脂血・糖尿病への介入を推奨しています。脳を何とかしたければ、健康を目指そう、運動をしようというわけです。
 Northey JMら(2018)のまとめでは、有酸素運動、レジスタンス・トレーニング(いわゆる筋トレ)、マルチコンポーネント・トレーニング(それらの組み合わせ)、あるいは太極拳を行うなどの介入は、いずれも認知機能の維持向上に有効で、1回あたりの運動時間が45~60分、強度が少なくとも中程度であることが、認知機能への効果と関連していたそうです。そして運動の効果はテストした認知機能や参加者の認知状態にかかわらなかったそうです。Lippi Gら(2020)の総説では、30分以上の中強度有酸素運動を週に2〜3回、約3カ月間行うことが、脳細胞の成長を促す脳由来神経栄養因子(BDNF)の分泌を促進し、認知機能の維持向上に役立つと結論付けています。そして、有酸素運動は認知機能の維持・回復のために、安価でしかも副作用のない安全な戦略であると指摘しています。
 

では、ギャンブリング障害への介入として運動は役に立つのでしょうか

 きちんとした研究はあまりないのですが、Angelo DLら(2013)は、33名のギャンブリング障害の人を対象に、運動プログラムの影響を検討しています。運動プログラムは50分のセッションを8回行い、各セッション後とプログラム終了時に、ギャンブリングへの欲求が有意に減少することが確認しています。また、不安、抑うつ症状、ギャンブル行動にも改善がみられたそうです。渇望感も低下したそうです。Ana Claudia Pennaら(2018)は、ギャンブリング障害の診断が確定した59人に、50分間の運動セッション(10分間のストレッチと,年齢に応じた推定最大心拍数の70~85%での40分間のランニング)を週2回8週間実施し、50分間のグループストレッチセッションを週2回行ったグループと比較しています。その結果、運動セッション群でギャンブリング障害の重症度やギャンブリングへの渇望は減少したものの対照群と差はなく運動の効果は検出できなかったそうです。しかし、併存する精神疾患の改善は運動群で有意に大きかったそうです。彼らは、ギャンブリング障害を伴う人が精神疾患を併存している場合、運動は費用対効果が高く利用しやすい補助的な治療法であるとまとめています。

ADHD(注意欠如多動症)はギャンブリング障害やゲーミング障害と併存しやすいことが知られています

 Den Heijer AEら(2017)は、ADHDを伴う子どもおよび成人に対する運動の効果を系統的にレビューし、有酸素運動は、様々な実行機能(例:衝動性の抑制)や反応時間に関して、短期的に有益であることを示しています。また長期的にも、実行機能、注意力、行動などの様々な機能に関して有益であったとしています。有酸素運動以外の運動の効果については、疑問が残るものの肯定的な報告が多いそうで、運動一般は、ADHDを伴う人にとって、他の療法と組み合わせやすい有望な代替・追加治療であると結論付けています。
 ギャンブリング障害では、うつ、不安、ADHDなど他の障害の併存が7割を超えるとの報告もあり(Dowling NA et al 2015)、特に慢性化しているような事例では、運動は安全で安価な療法として機能しえるのではないでしょうか。

Ana Claudia Penna, Hyoun S. KimbAntonio Marcelo Cabritade BritoaHermanoTavaresa.The impact of an exercise program as a treatment for gambling disorder: A randomized controlled trial. Mental Health and Physical Activity
Volume 15, October 2018, Pages 53-62

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