見出し画像

第95回アカデミー賞予想【後編】主要6部門の行方と全部門受賞予想

【第95回アカデミー賞 展望と考察・後編】

「主要6部門の行方と全23部門受賞予想」
執筆:@s94_movies

ここ数年で最も受賞予想が難しい、
第95回アカデミー賞。
まずは主要6部門の予想と展望を
2つに分けて載せてみました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

◆監督賞
まずは最も予想がし易かった部門から。

作品賞大本命『 #エブリシングエブリウェアオールアットワンス 』で独特の世界観を作り上げたダニエル・クワンとダニエル・シャイナート、通称“ダニエルズ”の2人で、ほぼ決まり。
ハリーポッター役でお馴染みダニエル・ラドクリフを“なんでもこなせる死体”役に抜擢した前作『スイス・アーミー・マン』では、その奇抜すぎる内容で多くの映画ファンを驚かせました。

◆助演男優賞
今年は俳優部門で受賞確実といえる俳優が
一人もいないという混戦状態。

その中でも助演男優賞は比較的予想し易い部門。…かもしれない。現在受賞最有力なのは、『 #エブエブ 』から #キーホイクァン 。

『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』(1984)でハリソン・フォードの相棒の少年・ショートを、『グーニーズ』(1985)では科学技術に長けた少年・ワンを演じ、一躍人気子役となった彼は、その後数本の映画に出演し、しばらくは裏方スタッフとして活動していました。

俳優としておよそ30年ぶりにカムバックした彼は1本の映画に出演したのち、この『エブエブ』で最高の演技を披露。

主要前哨戦を総ナメし、オスカーも待ったなしと思われた中で、重要前哨戦のひとつ、英国アカデミー賞でこの部門を制したのが『 #イニシェリン島の精霊 』のバリー・コーガンだったのは唯一の懸念材料。

とはいえ、さすがに逆転までは厳しいと見ます。...たぶん。
【予想:キー・ホイ・クァン】

※ちなみにキーは、1987年に日本映画『パッセンジャー 過ぎ去りし日々』にも出演し、本田美奈子や三田村邦彦、宇梶剛士らと共演しています。

◆主演女優賞
一騎打ちと見られていたベテラン女優対決は、アメリカ俳優組合賞の受賞により『エブエブ』の #ミシェルヨー が優勢になってきた感。

中国系マレーシア人の彼女は、多様性を重視するアカデミーにとってはまさにピッタリの候補者ともいえますが、対抗『TAR/ター』の #ケイトブランシェット もまた
圧倒的な高評価を受けています。
受賞の可能性は正に五分五分といったところ。

ただ、ケイトはすでに2度オスカーを獲得しているのに対し、ミシェルはノミネート自体が初。もし受賞すれば、アジア人女性として初の主演部門での受賞というお墨付き。

少し話が逸れますが、そもそもこの部門は、『Till』のダニエル・デッドワイラーや『The Woman King』のヴィオラ・デイヴィスといった、ノミネートを有力視されていた黒人俳優が候補入りせず、代わって前哨戦でほとんど名前が挙がらなかったアンドレア・ライズボローというイギリスのベテラン女優がサプライズノミネートを果たしました。

しかしこれには少しカラクリがあります。

アンドレアの対象作『To Lesile』は配給会社が小さく、この作品の知名度が低かったことで、彼女の演技を支持する有名ハリウッドスター達が独自のキャンペーン(投票資格者向けの試写会を開くなど)を展開したことで、前哨戦でほとんど名前が挙がらなかった彼女がギリギリノミネート枠に滑り込んだのです。(アカデミー賞公式が声明を出すまでに問題になりました)

このルール違反スレスレのキャンペーンで一役買ったのがケイトであり、それを良く思わない会員が多かった場合や、ごく僅かの俳優しか達成していない3つめのオスカー獲得への高い壁があることを考えると、ケイトの方がやや分が悪いかも。

そしてもしケイトが受賞すれば、一部の心ない声によって再び『白人のためのアカデミー賞』と揶揄されかねない。

そうなると、純粋な演技での評価では若干の差ではあるものの、アジア人初の主演部門賞受賞という歴史的瞬間を見たい会員が、こぞってミシェルに投票しそうな気がする。

でも案外アカデミー賞はシビアだったりするので、彼女史上最高の演技と評されたケイト・ブランシェットが3つ目のオスカー像を手にしそうな気も。

うーん、わからん!
【予想:ミシェル・ヨー】

◆助演女優賞
主要6部門の中で最も受賞予想が難しいのがここ。

ゴールデン・グローブ賞を受賞したアンジェラ・バセットvs
英国アカデミー賞及び主要批評家賞を独占しているケリー・コンドンvs
最重要前哨戦のアメリカ俳優組合賞を受賞したジェイミー・リー・カーティスの三つ巴状態。

黒人俳優が受賞ゼロの場合に批判されるのを避けたい会員はアンジェラに、
長きに渡り『ハロウィン』シリーズなどで活躍してきたキャリアを祝福したいという会員はジェイミーに投票するはず。
ケリーはアカデミー賞が一番好きなタイプの演技、一発逆転の可能性は十分にある。

アメリカ俳優組合賞の受賞と、その受賞時の会場の温かな雰囲気をみても(俳優からの支持が熱い)、ジェイミーが受賞に最も近い気がしますが、最近のアカデミー賞の傾向として、黒人俳優受賞ゼロはイメージしづらかったので、個人的にはジェイミーのオスカー受賞を見たいですが、マーベル作品として初の俳優部門受賞を予想してみます。
【予想:アンジェラ・バセット】

◆主演男優賞

『エルヴィス』のオースティン・バトラー、
『イニシェリン島の精霊』のコリン・ファレル、
『ザ・ホエール』のブレンダン・フレイザー。

助演女優賞同様、受賞の可能性が高いのは3人。
重要な前哨戦の結果は見事に割れました。

ゴールデン・グローブ賞ドラマ部門と英国アカデミー賞で受賞したのはオースティン。
ゴールデン・グローブ賞ミュージカル・コメディ部門とナショナル・ボード・オブ・レビュー賞で受賞したのはコリン。
ブロードキャスト映画批評家協会賞と、最も重要な前哨戦であるアメリカ俳優組合賞で受賞したのはブレンダン。

その中では、『イニシェリン島の精霊』組が大健闘した英国アカデミー賞で主演男優賞を受賞できなかった、コリンの受賞の可能性はかなり低くなったと見ます。

フレディ・マーキュリー(ラミ・マレック)やレイ・チャールズ(ジェイミー・フォックス)など実在のミュージシャンを演じた俳優がオスカーを手にすることは多いので、劇中のほとんどの歌唱シーンを自らこなし、喋り方まで完コピしてエルヴィス・プレスリーを演じきったオースティンが受賞最有力のように思えます。

しかし、過去にゴールデン・グローブ賞の当時の会長からセクハラされ、精神的なダメージを負い、しばらくハリウッドから離れたのちに、この『ザ・ホエール』の熱演で大絶賛を受けたブレンダンのカムバックへの支持は相当高いはず。

性犯罪被害を受け、それでも潰れずに帰ってきた男が、キャリア最高の演技でオスカー像を手にする。そんなドラマをアカデミー賞は見たいと思うのです。
【予想:ブレンダン・フレイザー】

◆作品賞

本当にこのまま『エブエブ』で決まりなのか?

早くからオスカーを本命視されていた本作が、ゴールデン・グローブ賞で受賞を逃したのは地味に大きなサプライズだった。

この時、作品賞を受賞した『フェイブルマンズ』あるいは『イニシェリン島の精霊』が『エブエブ』に食らいついていく展開になっていくのかな、2ヶ月前はそんなことを考えていました。

しかしアカデミー賞直前の今、『フェイブルマンズ』と『イニシェリン島の精霊』が作品賞を受賞する可能性はほぼ無くなったでしょう。

なぜなら、ゴールデン・グローブ賞以降、この2作品はほとんど名前を見せることなく、下したはずの『エブエブ』がその後の前哨戦という前哨戦を受賞しまくる、無双状態に入ったからです。

一度落ちた勢いはなかなか戻らない。『イニシェリン島の精霊』と『フェイブルマンズ』が逆転受賞する可能性は、ほぼ無くなったように感じます。

そして、それらと入れ替わるようにして不気味に評価を上げてきたのが2作品。

まずは英国アカデミー賞で最多ノミネートと作品賞/監督賞を受賞した『西部戦線異状なし』。

長編国際映画賞での受賞が最有力とみられていますが、『パラサイト』の時のような、作品賞までもかっ攫いそうな勢いは、アメリカではほぼ見られません。
主要な前哨戦どころか、各批評家賞でもほとんど名前を見かけなかったこの作品。
世相に左右されやすいアカデミー賞が、戦争映画の本作を、ロシアのウクライナ侵攻への"メッセージ"として作品賞に選ぼうとする可能性は高いし、"多様性"という点においても、ドイツによるドイツ語の本作を支持しようとする風潮は案外強いかもしれない。

そしてもう一つは『トップガン マーヴェリック』。

受賞最有力と言われた撮影賞とトム・クルーズの主演男優賞がノミネート漏れで、この作品を支持する人たちは迷いなく票を投じるはず。
2022年アメリカ興行収入No.1を記録した本作。あのスピルバーグがトム・クルーズに、"君と『トップガン マーヴェリック』がコロナ禍で落ち込んだハリウッドを救った"と直接賛辞を送ったのは大きな話題を呼びました。
前哨戦ではほとんど結果を残していませんが、熱烈な支持者は絶対多いはずで、特殊な投票方式のアカデミー賞においては、まさかのサプライズを巻き起こす可能性も...。

その他ノミネートされた、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』『エルヴィス』『TAR/ター』『逆転のトライアングル』『ウーマン・トーキング 私たちの選択』が作品賞に輝く可能性は、ほぼゼロ。

他を寄せ付けない圧倒的な勢いそのままに『エブエブ』が頂点に輝くのか?
世相を反映しやすいアカデミー賞、戦争映画『西部戦線異状なし』が待ったをかけるのか?
コロナ禍を救った『トップガン マーヴェリック』の熱狂的支持が世紀の大逆転を見せるのか?

ちなみに、もし下馬評通りなら、主要6部門のうち5部門が『エブエブ』で占められるという結果に。
決して正統派とはいえないこの作品が、どれだけ高い支持を集めていても、さすがにここまで独占するとは思えません。

作品賞どころか、何かこのままエブエブ独走のままで終わらない、そんな気がします。

最後の最後に、まさかまさかのサプライズがありそうな気がするのは俺だけでしょうか?
【予想:エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス】

と言いながらも無難にエブエブを作品賞と予想しました。
対抗は『西部戦線異状なし』、大穴『トップガン マーヴェリック』。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

🏆第95回アカデミー賞 全23部門 受賞予想

◆作品賞
『エブリシング・エブリウェア・
オール・アット・ワンス』
◆監督賞
ダニエルズ
『エブリシング・エブリウェア・
オール・アット・ワンス』
◆主演男優賞
ブレンダン・フレイザー
『ザ・ホエール』
◆主演女優賞
ミシェル・ヨー
『エブリシング・エブリウェア・
オール・アット・ワンス』
◆助演男優賞
キー・ホイ・クァン
『エブリシング・エブリウェア・
オール・アット・ワンス』
◆助演女優賞
アンジェラ・バセット
『ブラックパンサー
ワカンダ・フォーエバー』
◆脚本賞
『イニシェリン島の精霊』
◆脚色賞
『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
◆編集賞
『エブリシング・エブリウェア・
オール・アット・ワンス』
◆撮影賞
『エルヴィス』
◆視覚効果賞
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
◆美術賞
『バビロン』
◆衣装デザイン賞
『エルヴィス』
◆メイクアップ&ヘアスタイリング賞
『エルヴィス』
◆音響賞
『トップガン マーヴェリック』
◆作曲賞
『バビロン』
◆歌曲賞
『Nattu Nattu』(RRR)
◆長編アニメ映画賞
『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』
◆短編アニメ映画賞
『ぼく モグラ キツネ 馬』
◆長編ドキュメンタリー映画賞
『ナワリヌイ』
◆短編ドキュメンタリー映画賞
『エレファント・ウィスパラー:
聖なる象との絆』
◆国際長編映画賞
『西部戦線異状なし』(ドイツ)
◆短編実写映画賞
『An Irish Goodbye』

主要6部門の予想は、
1ヶ月前と全く同じになりました(笑)

長文失礼しました。

#映画 #アカデミー賞 #第95回アカデミー賞

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?