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【映画】障がい者を一切美化せずに描き切った『コーダ あいのうた』

海の町でやさしい両親と兄と暮らす高校生のルビー。彼女は家族の中で1人だけ耳が聞こえる。幼い頃から家族の耳となったルビーは家業の漁業も毎日欠かさず手伝っていた。新学期、合唱クラブに入部したルビーの歌の才能に気づいた顧問の先生は、都会の名門音楽大学の受験を強く勧めるが、 ルビーの歌声が聞こえない両親は娘の才能を信じられずにいた。家業の方が大事だと大反対する両親に、ルビーは自分の夢よりも家族の助けを続けることを決意するが……。(映画.comより抜粋)


きっと、観た人全員が幸せになる、第94回アカデミー賞作品賞受賞作。


主人公一家の父親を演じたトロイ・コッツァーも助演男優賞を受賞し、ろう者の俳優として史上初めてオスカーを獲得しました。


この作品の中で、個人的に最も良いと感じた点と最も悪いと感じた点が全く一緒でした。それは、数々の【露骨な下ネタ描写】。


「障がいを持つ=可哀そうな聖人」として描かれることが多い、これまでの数々の映像作品において、生々しい性描写だとか、音が聞こえないという大前提があるとはいえ、いわゆる一般常識が欠如している場合もあることで、”通常”であれば迷惑だと分かることが分からずに迷惑行為をはたらいても自覚がなく、健常者が苦労させられる描写など、健常者が障がい者と共存する事を、あくまで綺麗事として描かないのが良かった。


障がい者そっちのけでもはや大型ジャ〇ーズイベントと化した2〇時間◯レビとは違い、綺麗なことだけを描かない、過剰な演出もない、映画の丁寧な造りが、この映画に大きな説得力を生み出している。


とはいえ、子供がいない事を確認せずに大声を出してセックスに明け暮れたり、娘のボーイフレンドに対してド下ネタでコミュニケーションをとったり…そして、娘の大切なレッスンより自らのテレビ取材の通訳を娘に強いたり。

こうなったらもう障がいうんぬんではなく、人として、親として、そもそもどうなんだという行動に眉をひそめずにはいられず、『最強のふたり』や『キッズ・オールライト』でも感じた、「マイノリティーが自分らしく生きる=周りの迷惑を考えずに当事者だけが楽しく振る舞う」という描き方をする映画もそうだったように、この辺りにどうしても違和感を感じずにはいられなかった。エミリア・ジョーンズ演じる健常者の主人公の苦労がよくわかるからこそ。


ただ、そこからの展開が良かった。"障がい者"の方に"健常者"が合わせていくという作品が多い中で、これまで好き勝手に振る舞ってきた"障がい者の家族"の方が、"健常者"である主人公に寄り添い、彼女の複雑な胸中を理解していく、というのは、エンタメにおいては意外に斬新な造りだったんじゃないか。
世間的にはアンタッチャブルなものとして、まるで腫れ物でも触るかのように扱われてきた障がい者を、過度に持ち上げるでも綺麗な部分だけを描くでもない、この絶妙なバランスを保った造りには思わず感服。アカデミー賞作品賞には文句なしです。(←なんか偉そうですいません)


他に特筆すべきは、やはり歌。そして魅力たっぷりの俳優陣!


主演のエミリア・ジョーンズはもう圧巻。演技、可憐さ、そして歌声。天は“三物”を与えるとはこのこと。
予告編でも流れた『Both Sides Now』のカバーは素晴らしいの一言で、劇中のあの歌のシーンは、主人公の感情が一気に解放される場面でもあり、主人公と向き合ってきた家族が彼女の胸中に触れ、双方の"決して聞こえることのない気持ち"が完全にリンクする瞬間でもある、最高にエモーショナルな場面。このシーンを見るために、また作品を改めて観たくなる。


そして、オスカーを受賞したトロイ・コッツァーはじめ家族のキャストも完璧だったけど、個人的には音楽の先生!あなたの存在があったからこそ、この物語に完璧に没入できた。
エウヘニオ・デルベスという俳優が演じたV先生の存在感が強すぎて、彼が画面内にいるシーンの安心感はハンパない。個人的にはトロイ・コッツァーと並んで助演男優賞受賞モノでした...最高。


とはいえ、やっぱりシモ描写が多かったのが残念だし、正直涙が出るほどまでの感動はなかった...個人的に泣けなかった映画の最高点として、この評価をつけさせてもらいました。

リメイク作品なので、元の作品も絶対観ようと思います!
そしてエミリア・ジョーンズ、ここからトップスターへの階段を登っていってくれ!

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