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スタートアップの知財との付き合い方その③:「IP経営」とは?

 知財の業界は、クライアントが大企業であってもスタートアップであっても、この時期が超繁忙期でございます。予算の消化や事業の進展、体制変更、新サービスリリースなどなど、新年度を控えるこの時期は、集大成?としての出願業務に追われるのが世の常です。弁理士が季節労働とも言われる所以です。

 というのを言い訳にnoteの更新をだいぶ怠ってしまいました。。。かと言ってクライアントの皆様のご依頼に応えることが第一ということもあり、なかなか手を付けられずにいました。今年から天皇誕生日が2月にスライドしたので、ちょっと隙ができました。2月営業日ただでさえ少ないのに祝日が2つあるのはいかがなものかと思いますが。

 あと、新型コロナウイルスの影響で、弊所も原則リモートワークによる勤務を行っております。クライアントとの打ち合わせも対面→原則zoom等のウェブ会議に切り替えさせていただいております。個人的には発明の打ち合わせは対面の方がやりやすいなとは思うのですが(絵を書いたりしてその場で確認してもらったりとか)、そこは自分の慣れの問題なのかな。。。とも思います。

「IP経営」の(私の)定義

 ようやく本題に入ります。今回は「IP経営」とはなんぞやというものです。この言葉、ぶっちゃけ個人的にはあまり使ってません。なぜかというと、色々な解釈が可能な言葉で、誤解も生じやすいためです。ただ、概念としては伝わりやすい言葉ですし、その概念を広めるためには多少の誤解が生じる覚悟で使うことについては問題ないかなと思っています。

 アレです、「イクメン」と同じです。イクメンという言葉も、「育児をする男性」という、今としては当然になりつつある男性の育児参加の概念を広めるために、関連する業界やNPOの皆さんが多少の誤解を恐れずに積極的に使用されていました。結果的にはその概念が浸透するようになりました。この「IP経営」という言葉も同様に、スタートアップの皆さんに当然の概念としてインストールされてほしいなと思うのです。

 さて、「IP経営」の定義ですが、「経営資源に知的財産を組み込み、知的財産を一つの軸として事業活動を展開すること」と考えています。単純に言うと、経営判断や事業展開において知財を組み込むこと、になります。

 つまり、「知財」は事業をすすめるうえで、ケアしたほうがいい「オプション」ではなく、当然としてケアし、場合によっては利活用する「資産」的な位置づけとして考えることを意味します。

IP経営が「できる」ことはそんなに難しくない

 例えば、何か新しいサービスを開発したら、すぐにローンチして試す!という進め方は、IP経営が欠落している状態ということになります。もしサービスをリリースするのであれば、例えば

・サービスの名称と同じような名称を誰かが使っていないか?
・誰かにサービス名称をパクられないか?
・誰かに簡単にサービスをパクられないか?特に大企業(先日もそういう事案がありましたね
・同じサービスを表面的にパクられても、簡単には追いつけられない強みがあるか?
・サービスのUIは誰かのをパクってないか?/パクられそうか?

というのをパッと!思いつくと、もうその時点でIP経営の基本はできていると思います

 多くのスタートアップの皆様と話していると、既にお話を重ねている方では、上のような懸念点を無意識のうちにケアするようになっていますが、最初は誰かに指摘されるまではなかなか気がつかない(と言うよりかは、そこまでなかなか気が回らない)と仰ることが多かったと思います。なので、これを読んだ方はもう次からは間違いなくIP経営の入り口として、上の事項は間違いなくサブリミナル的に刷り込まれてて「。。。知財大丈夫かな。。。?」みたいな感じになってるはずです。ようこそIP経営の世界へ

 そして、上の懸念事項をケアできて初めて「特許や商標ちゃんとしなきゃな。。。?」という解決手段に到達するのです。いきなり特許などの権利化を意識することが始まりではありません。自分たちの立ち上げようとするサービスの技術やブランドが守られるべきものであるか、他人の権利を尊重するものであるか、に対する意識の芽生えがスタートです。雑かもしれないですが、知財なんてまずはこの程度の認識で十分だと思います。知財よりも事業戦略の方が大事です。それに、最初からズブズブ知財沼に浸かると、逆に訳がわからなくなるし、そこで足踏みをしてしまう可能性もあるので。でも忘れては欲しくないのが知財です。めんどくさいですよね。なので、足湯程度のレベルからスタートするのが一番です。もちろん、いきなりサウナロウリュウ水風呂サイクルを繰り返すようなガッツリレベルではじめてもよいですし、クライアントによってはそのレベルで始めることを薦めることもあります。例えば近い競合が既にがっつり技術を特許で押さえていた場合など。そういったケースも後々説明すると思います。

【予告】IP経営の具体的な実践

 今回はIP経営とは何かというところをめちゃくちゃ掻い摘んで書いてきました。今回ご紹介したものは、間違っても知財を前面に押し出して知財をガンガン活用する知財経営!」というものではありません(このようなレベルのIP経営も存在はしますが、ポートフォリオの構築、ライセンスビジネスのスキーム等、かなり専門的な事業戦略に絡むものです。ここまで来ると知財の多面的な本質を理解している必要があるので、付け焼き刃程度の知識でやろうとするとおおやけどします)。

 頭の片隅に知財を意識しているか?が最低限のIP経営です。ヒトもモノもカネも圧倒的に不足しているスタートアップにとって、知財は紛れもなく市場を開拓しリードするための武器や防具になるものです。その知財を経営資源としてケアをすることが、スタートアップにとって当然のことのように広まって欲しい、というのが我々の願いでもあります。

 次回以降は、スタートアップが押さえておくべきIP経営について、もう少し各論的な話に移ります。

「どういう知財を権利化していくか」
「既にピッチで喋ったりサービスをリリースしてしまった場合はどうするか」
「ポートフォリオとは?ポートフォリオの意味はあるのか?」
「何を、どう特許にすべきか」
「出願・特許権利化のタイミングはどう決めるべきか。早期審査はどう使うべきか」
「知財予算はどのくらい割くべきか」
「外国で事業展開する場合、外国出願はどうしたらいいのか」
「職務発明制度を整備したいが補償金をどう設定すればよいか」
「他社の権利はどう考えるべきか」
「IPOを目指す場合とバイアウトを目指す場合とではポートフォリオをどう整備していくべきか」
「大学や大企業との共同研究で得た知財はどう考えるべきか」
「外国でベンチャーやってるけど日本の特許制度は使えるか」
「弁理士とはどう付き合うべきか」

などなどです。適当に書き出しただけでかなりネタがあるな!これ。いくつかは代わりに誰か書いてほしいくらい。あと、一部は実績ベースというかは自分の思考実験も入るので、確定的な情報ではない可能性もあります。その実験場がいわゆるiPLAB Startupsの本領でもあります。興味あればご連絡を!!

 それでは皆様よい振替休日を!

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