スタートアップが利用したい特許庁等の制度①お金編
ご無沙汰しております。前回(3月)の投稿から随分と間が空いてしまいました。年度末/年度明けの繁忙期に加えて、コロナウイルス感染症対策を含めたリモートワーク環境の整備やら運用やらでバタバタしておりました。
前回の終わりに「特許庁等の使える制度」の話を次回はしようかな、ということを書いていましたので、今回はそのお話をします。3回に分ける予定でございます。予定としては、
・第1回(今回) お金
・第2回 審査の優遇
で考えております。なお、タイトルで特許庁「等」としているのは、特許庁以外の行政機関や公的機関による助成や補助も対象に含めるためです。というわけで、今日はお金の話です。
特許を取るまでにかかるお金
前回のおさらいになるのですが、特許を取るにはお金がある程度かかります。特許出願の代理を行う弁理士に書類作成と出願手続を依頼する場合は、ざっくり言うとトータルの6~7割は代理費用に、残りの3~4割が特許庁に支払う費用(庁費用)になります。
特許出願~権利化までにかかる庁費用はだいたい以下のとおりです(令和2年5月6日現在)
・出願時 14,000円
・出願審査請求※ 138,000円+請求項の数×4000円
・特許料(1~3年分) 6,300円+請求項の数×600円
※:通常の国内出願の場合(あとでPCTの話をします)
請求項とは、特許の権利範囲を記載する項目です。通常は、複数の請求項を記載して権利化を図ります。例えば、請求項の数を5とすると、出願~特許権利化まで、庁費用だけで181,300円かかります。
さらに特許になった後も、4年目以降も特許を維持するために支払うお金(年金)が発生します。だいたい15年維持させるとすると、886,500円かかります。
費用の一覧や手数料の計算はこちらのサイトから。
それ以外にも書類作成や手続きの手数料を代理人に支払うことになるので、トータルで1件あたり権利化まで60~80万円ほど(バイオ系だと100万円を超えることも)かかるというのが実情です。
現在いろんな企業で課題となっているのは、経済活動が停滞していくなかでいかにキャッシュの流出を抑えていくか、というところにあると思います。大企業だと真っ先に矢面に立つのが知財関連(全部がそうじゃないけど)。かと言って、出願しないと後発企業に権利を取られちゃう、なんていうこともあり得ます(ここはコロナ関係ありません)。キャッシュを抑えながら、然るべき特許は確実に取っていく、そのために、今回はお金に関するおトクな制度をご紹介します。
(1)庁費用の減免制度
まず多くのスタートアップが絶対利用すべきは「特許料等の減免制度」です。ざっくりいうと、庁費用の一部について、
・スタートアップが「中小ベンチャー企業/小規模企業」であれば1/3に
・スタートアップが「中小企業」であれば1/2に
減免される制度です。
減免対象の庁費用は以下のとおりです。
・出願審査請求料
・特許料(1~10年分まで)
・(PCT出願の)送付手数料、調査手数料、予備審査手数料
出願審査請求料は、特許出願後に審査官に審査してもらう際に発生する料金です。上に記載のとおり、通常は約15~20万円程度かかりますが、それが半額 or 1/3になります。
一方で、特許料は特許になったとき(特許査定時)に納付する料金です。最初は3年分を最低限支払う必要があります。なお、例えば一気に10年分払うことも可能です。減免の効果を最大限活かす(特に中小ベンチャー)のであれば、いきなり10年分払うことも一つの選択肢ではあります。ただ、将来的にプロダクトの開発が進んだ結果、当初の特許の権利範囲から外れてしまうこともありますし、10年分の費用が一気にかかる(通常だと約20万円)ため、手元のキャッシュや開発状況との兼ね合いになると思います。
最後のPCT出願の送付手数料、調査手数料は、国際出願(PCT出願)を行う際に発生する費用の一部です(送付手数料:1万円、調査手数料:7万円)。この費用は出願時に発生します。PCT出願については、後日「PCT出願の使い方」みたいな回で記事を書きたいと思います。今は、これらについても減免の対象になることをご認識いただければと思います(後述する国際出願手数料についても交付金の制度があります)。
次に、減免を受けられる対象について。「中小ベンチャー企業」は、以下の3条件を全て満たしている企業です。
・設立後10年未満であること
・資本金額又は出資金額が3億円以下の法人であること(資本準備金除く)
・大企業に支配されていないこと
なお「小規模企業(従業員数20人以下)」についても、「中小ベンチャー企業」と同様の減免措置が受けられます。詳しくは下記サイトで
また、「中小企業」は、従業員数と資本金額が所定の要件をいずれも満たしており、大企業に支配されていない企業を指します。
おそらく余程のメガベンチャーでなければ、「中小ベンチャー企業」か「中小企業」に当てはまると思います。スタートアップに限らずとも「中小企業」の枠に入るケースも多いと思います。
自分の企業が中小ベンチャー企業である、または中小企業であることは、出願審査請求時や特許料の納付時に、特記事項として一言書き添えておくだけでOKです(ただし、2019年3月31日以前に出願審査請求をした出願については、株主名簿や登記簿等の証明書の送付が必要になるケースがあります)。
なお他にも、出願人が独立行政法人の研究所や大学等であれば、同様の減免措置が受けられます。例えば、共同開発先が国の研究所等であれば、費用がこちら持ちであっても、減免された費用のみ納付するだけでOKとなります。
(2)国際出願の交付金
こちらは減免制度とは制度が異なるのですが、PCT出願(国際出願)をしたときに納付する「国際出願手数料」にかかる費用の一部を交付金として受け取れる制度です。出願時に一度国際出願手数料の全額(オンラインで約11万円)を納付する必要があるのですが、そのうち1/2や2/3が申請によりキャッシュバックされる制度です。
対象者は上述と同じく「中小ベンチャー企業」や「中小企業」「独法研究所」「大学」等です。交付金の費用も、上記の減免制度と同じように、中小ベンチャー企業なら2/3が戻る(つまり実質1/3のみ納付)、中小企業は1/2が戻る、というものになります。
こちらは、特許庁から「国際出願番号及び国際出願日の通知書(RO/105)」と呼ばれる書類の発送日(出願日からだいたい1~2週間後)から、出願日から6ヶ月後までの間に、所定の書類を特許庁に提出する必要があります。つまり、出願とは別途申請作業が必要になります。
通常国際出願は、上記の国際出願手数料の他に、送付手数料や調査手数料がかかります。そのため、庁費用だけでトータルで約20万円程度かかります。そのうちの1/2や2/3がキャッシュバックされますので、利用しない手はないと思います!ちょっと面倒ですけどね。。。
(3)各種助成金・補助金
他にも、各公的機関や行政機関からの助成金や補助金を特許出願の費用に充てることも、選択肢としてございます。外国出願に関しては結構充実していると思います。例えば東京都に関しては、外国出願や調査等に係る費用の一部を助成する制度もございます。東京都の場合は、都だけでなく、23区の一部や市町村でも助成金制度が用意されているところもあります。
例えば東京都の「外国特許出願費用助成事業」では、助成率が1/2で上限400万円(!)まで助成金を受けることができます(採択率もその分厳しいようですが・・・)。昨年度までは300万円だったのですが、今回からは外国出願後の中間処理(拒絶理由対応等)にかかる庁・代理人費用も助成対象となりました(結構な費用負担なので、かなりありがたいです)。
ただし公的機関からの助成金や補助金ですので、適宜助成元への報告が必要になるケースもあります。また、減免制度や交付金制度と違い、特許だけでなく実用新案・意匠(デザイン)・商標の出願も対象となるものがあります。
例えば、東京都については下記リンクからご参照ください。
東京都以外にも各都道府県や市町村等で助成金・補助金の制度を用意しているところも多くあります。気になる方は個別にご連絡いただければと思います・・・!
出ていくお金は少ないほうがいい
特許等の知財の権利を取ることは、ある意味で投資であり、ある意味でコストにもなります。同じ権利を取るのであれば、出ていくお金は少ないほうがいい、ということになります。特に、特許庁等の公的な費用については、特許の内容に関わらず決まっておりますので、同じ予算であれば多く特許が出せるように、これらの制度を活用していきたいですね!
今回のコロナウイルスによる影響は、実は特許庁の業務にも関係しています。例えば、特許庁からの拒絶理由に対する応答期間の延長や、ハンコが必要な書類の提出の先延ばしなど。一度走り出した案件については、色々待ってくれていたりしてくれます。
一方で、特許の出願日はコロナだろうがなんだろうが待ってくれません。特許が早いもの勝ち、というルールは不変です。躊躇なく出すべき特許を然るべきタイミングで出せるように、費用の軽減に関するこれらの制度をうまく活用できればと思います。
今回は特許庁等に払う/もらうお金の話でした。代理人の費用については、こちらの記事もご参照ください。
次回は、審査に関する優遇制度について説明します。これは便利な制度ですが、使い方次第では諸刃の剣となってしまうものです。。。!どのような出願に対して、どのようなタイミングで使うのが良いのか?!という考察となる予定でございます。
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