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スタートアップが特許を(がっつり)取るのに、いつ、どれくらいお金がかかるのか

 3月、繁忙期ですっかりご無沙汰しておりました。今日はお金の話です。スマホで書いてるので、ちょっと殴り書き感になりますがご容赦ください。

 スタートアップがなぜ特許を取るのか、という話は、これまでもいろいろな方が語っています。最近ですと、法律事務所ZeLo・外国法共同事業の弁理士の青木先生が、スタートアップの調達ラウンドに応じた特許出願戦略について記事を書かれています。基本的な方針として重要なことが詳細に記載されているので、全てのスタートアップに当てはめることはできるかはケースバイケースですが、とても参考になると思います。

https://zelojapan.com/6364

 上の記事にもあるとおり、調達ラウンドや調達額によって特許にかけられるコストは限られています。確かにエンジェルラウンドやシードラウンドの数百万〜数千万円くらいのオーダーの資金では、最低限の特許出願しか出来ないと思います。

 一方で、弊所のクライアントも殆どそうですが、シリーズAくらいのステージからは、特許を取りたいものについてはしっかりと件数を出せる程度に、知財の予算を確保していただいているスタートアップは多いです。逆に「次の調達の段階でどの程度知財の予算を確保しておけば良いのか?」と聞かれることもあります。そのため、出願から権利化までにかかる費用の大枠は、どのクライアントに対してもきちんと伝えるようにしています。

 なお前提として、ここでは特許出願から権利化までにかかるお金の話をします。技術調査や他社特許の抵触調査についてはまたのちほど。権利化にかかるお金は、特許庁に支払うお金と、事務所の手数料の2種類あります。本来は分けて話をするべきですが、今回は大体の予算感を把握するため、細かい話は省略します。なお、事務所の手数料を間引いて少ないコストでたくさん出願するために、弁理士をCIPOとして雇用してたくさん書類を書かせる、というスタートアップも存在します。明らかに技術と特許が競争優位のキーである場合です。これはまた別の機会で。

 また、事務所手数料は特許事務所によってバラバラです。料金体系も違ってきます。タイムチャージを請求するところ、明朗会計ポッキリのところ、いろいろあると思います。特許事務所に出願業務を依頼する際は、料金体系はご確認されたほうがよいと思います。

特許の費用感

 まず、以下に記載する金額は、あくまでも一般的な特許出願(ITとか機械とか)の案件であって、観測範囲における目安です。大きくは外れていないはずです。が、あくまでもご参考程度に。(創薬バイオ系だと、出願だけで100万円を超えるケースもあるという情報をいただきました。。。すご)

 特許出願でお金がかかるタイミングは、大きく分けると以下の通りです(国内出願のケース)

1.出願時
2.審査時
3.拒絶理由対応時
4.特許査定時

 権利化までは、ざっくりとして1件につき60〜80万円くらいは見たほうがよいかなと思います。

 まず1.出願時。ここでは、「出願の相談」「ヒヤリング」「出願書類作成」「出願手続」という、発明のアイデアを書類に落とし込み、特許庁に提出するまでのところでかかるお金です。ざっくり、30〜50万円くらいです。全体のコストの半分はここで発生します。もっと安いところがあるかもですが。。。なお、特許性を担保するために事前に先行技術調査をするケースもあり、そこで別途費用が発生する場合もあります。

 で、実は特許庁の手続費用が14,000円なので、内訳の殆どは事務所手数料です。弁理士としても一番苦心するところであり、腕の見せどころでもあります。

 次に2.審査時。特許は出願しただけだと特許にはならず、審査請求というプロセスが必要になります。ここでは、特許庁に対する手続費用がわりとかかります。スタートアップ企業の1/3減免制度を利用すると、だいたい4〜6万円くらい。ここに事務所手数料が乗ってくるので、トータルでは5〜13万くらいかかります。

 審査請求をすると、次にかかるのが3.拒絶理由対応時です。審査の結果、一発で特許になる場合もあり、そのときはここでの費用は発生しません。が、一発で特許になるケースはわりと珍しく、また、一発で特許になったとしても、かなり狭い権利範囲しか取れていない可能性(本当にほしい範囲が漏れている可能性)もあるので、単純には喜べないところです(その検証も弁理士に依頼してよいかもです)。

 で、拒絶理由通知というのがほぼほぼ来ます。拒絶理由の内容にも依るのですが、がっつり特許性を否定された場合に反論+権利範囲の補正をして応答する場合は、だいたい10〜15万円。軽微な修正だけで済む場合は3〜6万円くらいかと思います。

 ちなみに、通常審査から最初の結果がくるのは1年程度ですが、スーパー早期審査なるものを利用すると、最初の結果がくるまで2、3週間ほどしかかかりません。特許庁の中で審査の順番待ちをすっ飛ばして割り込んでくるとのこと。観測した中で一番早いものは、で出願から特許査定まで、起案日ベースで9日でした。マジか。

 少し脱線しますが、何でもかんでも早く審査をかければいいか、というものではありません。特許になると、出願書類の中身が全て公開されるためです。例えば、まだアイデアベースで実現まで程遠いサービスについての特許が早く権利化しても、自分たちの技術の中身を早々にバラすだけで、その改良発明を他人に特許化されると詰んでしまう可能性が高いからです。という話はまた追々。

 なお、拒絶理由通知は複数回来ることもあります。そのぶんお金もかかります。

 最後に4.特許査定時です。無事特許になった場合は、特許納付料を特許庁に支払う必要があります。最初の3年間分を支払うことが多いですが、上の減免制度を利用すれば、だいたいは1万円は超えないです

 あとは事務所の手数料や、成功報酬が請求される場合もあります。これがだいたい1〜5万円くらい。

 なお、特許査定時に、特許事務所から「分割出願をするか否か」を確認されることがあると思います。特許になると、出願が特許庁に係属しなくなる(もうこれ以上審査されない)ので、出願の中身のコピー出願として、分割出願をすることがあります。まだ権利化していない部分を権利化したり、競合他社が出願書類の中身をマネしづらくするために分割出願をするケースが多いです。この分割出願の費用を請求することがあります。この分割出願の話もまた追々。

 また、特許は4年目以降にも維持費用を支払う必要があります(年金といいます)。最初の9年目くらいまでは安いのですが、10年目以降はわりと高くなります。ただその頃には十分な売上が立って予算も確保できているはずですので、ここではその話は割愛します。

支払うタイミング

 このように、出願から権利化まではだいたい60〜80万円くらいはかかると見たほうがよいです。高めに見積もって、10件出願すると、全件権利化まで800万円程度です。

 この予算を確保できているのであれば良いのですが、初期のスタートアップにおいてはかなり厳しいです。

 なので、例えば最初はコア技術などの必要最低限の発明のみ特許出願だけしておいて、審査、権利化のフェーズは後回しにする(出願から3年以内であればいつでも審査請求できます)という選択肢もあります。そうすると、その時点では出願時にかかる費用だけで済みます。その後の調達で知財予算を盛り込んでおき、キャッシュが手元に入ってから次のフェーズに進む、ということも考えたほうがよいと思います。

 もちろん権利化のタイミングはサービスのローンチなど様々な要因に基づくものではありますが、ファイナンスの観点からも検討すべきかなと思います。

 ただ、少なくとも出願については、例えばPoC直前等、世に出る前に確実に済ませておくべきと思います。なので調達のタイミングとどうしても合わない場合もあると思います。そのようなケースでは、支払いのタイミングの調整を弁理士と行っていただければと思います。

まとめ:お金はかかります

 まとめとしては、

 ・1件出願からクローズまで50万〜80万(依頼する弁理士に要確認)
 ・特許出願のステージに応じて支払い→調達ラウンドのタイミングに合わせた進め方、支払い方もアリ
 ・審査請求と特許料は1/3になる減免制度もあるよ!

となります。お金はかかるのですが、将来の他社参入の障壁を築いたり、特許訴訟のカウンターとして、無形資産を積み上げていく上で(特にテクノロジーを売りにするスタートアップにとっては)重要なコストだと思います。必要な予算であれば、がっつり調達しておく理由もあります。

次回はどうしようかな。。。特許庁の制度の使い方について、にしたいなと思います(変更するかもですが)

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