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あの人に届け!①「あなたみたいな人が『本読み』だなんて厚かましい」

SNSでの反響数、POSデータ、読書メーターのランキングと書評の数。小説本(特に新刊)の評価はこれで計られると言っても、極論ではないと思います。

版元の営業部が「これはイケる」と判断くだされば、訴求に力を入れてもらえます。訴求対象から除外されても、担当編集者さんが「この本は推したい!」と熱くなってくださる場合は、書評家さんや新聞雑誌やインフルエンサーなどに交渉していただけたりします。

ただ「書評をお願いします」と100ヶ所に献本しても反応ゼロだったり、僅かながら反応が得られても「★5つ」ではなく「★3つ」止まりだったり、「今月の書評」でオマケ程度に30字程度で紹介されて終わったりすることもザラにあります。

そうなると担当編集者さんは大変落ち込まれるわけです。
書評されない本は「凡作以下」であることを意味し、Twitterや読書メーターでの反応が悪い本は「期待薄」を意味し、紀伊國屋書店の販売データがそれを裏付けるからです。
そういう本を推したい! と熱くなったご自身を編集者さんは恥じ、「この企画は間違いだった」とお嘆きになります。

「こんな限定的な評価軸に振り回されないで、ご自身の評価軸を持ってくださいよ~」と両肩をつかんで励ましたいものの、そういう限定的な評価軸を中心に小説本の世界が動いているのが現実なのでしょう。
そして初版のまま大量に売れ残った本は、裁断場の露と消えていくのです。図書館や古本屋に、わずかな数を残して。

【参考記事】

不遜な話になるのですが、私が心から信頼する書評家は、版元が絶大な信頼を置く●●先生や▲▲先生ではないのです。
ある無名の書評家、いえ、感想家とお呼びするほうが正確かもしれません。
簡素なブログで小説の感想を淡々と書いておられた方です。

アクセスカウンターはほとんど回っておらず、ブログ主さんの性別もご年齢も分からないのですが、何らかの事情で自宅でほとんどの時間を過ごし、月に2~3冊、図書館で本を借りていらっしゃるようでした。

一冊一冊をゆっくり読まれるようで、貸出延長しやすそうな本(返却を急がされない本)を中心に借りておられたようです。
そういう本は古めのマイナー本が多く、私がそのブログを閲覧するようになったのも、知る人ぞ知る作品を読んでみたいとの思いからでした。

ある日、拙著の感想が書かれました。何年も前に「裁断場の露」と消えた、商業的にも内容的にも大失敗した1冊で、担当編集者さんからは「読書メーターは絶対に見るな」と釘を刺されたものです。

ブログ主さんは淡々と、「作者はきっと何々を目にしながら生きてきた人で、何々な思いを持ちながら書いたのだと思う」と綴っておられました。
私はブログからしばし目が離せませんでした。家族にも友人にも話したことのない、私だけが心に封じてきたことでしたから。

その後もブログ主さんは拙著を何冊か読まれたようで、そのたびに感じとった「作者像」を綴っておられました。プロファイリングして得意がるような書き方ではなく、ただ淡々と。

たった数冊の本からどうしてここまで私のことを読み取れるのか、どうして私が自覚していなかった心の澱まで掬いあげてしまうのか、掬いあげてくださるのか……。

そんなブログ主さんはある時を境に、更新を止めてしまわれました。
とある読書系SNSにリンクを貼られたことでアクセス数が急増し、流入してきた読書通さんたちがダメ出しを始めたのです。

「あなたの感想は内容がペラい。結末の解釈も間違っている」
「もっとレベルの高い小説を読まないと恥をかくよ。読書力が付かないよ」「月に2~3冊しか読まない人間が『読書が趣味』なんて厚かましい」

ブログ主さんは何の反論もしないまま(できないまま?)でした。
私はブログ主さんにメールを送ろうと考えました。

あなたには小説を読みとる「本当の力」があります。感想を書いていただいた本の著者がそう言ってるんですから本当です。
あなたは、大多数の小説家が心を削りながら書いていることに気付いているのでしょう。だからこそあなたは、マイナーな凡作でも丁寧に読むのでしょう。小説家にとって、少なくとも私にとって「真の小説読み」というのは、あなたのような方のことです。
あなたは拙著に救われたことがあると書いてくださっていたけれど、私のほうがあなたに救っていただいたのかもしれません――。

メールの下書きを繰り返しているうちに、そのブログサービスが終了となってしまいました。それきり、ブログ主さんの行方は分かりません。

私は相変わらずバズる本が書けず、有名書評家の太鼓判も得られず、「裁断場の露」を増やすばかりです。けれども今でもブログ主さんと「再会」できる日を信じ、原稿を書いています。

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