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生き続けているので

職場近くの書店をぶらぶらしていた時に、国内旅行の特集雑誌が目にとまった。
表紙に書かれた地名に「高知県」の文字を見つけてレジに持って行った。

帰宅して雑誌を開いた。
三頁分の紹介記事に掲載されているのは、どれも懐かしい地名や見覚えのある景色ばかりだった。




海と山に囲まれた町だった。
書店、CDショップ、買い物が出来る施設は全て隣町にあり、週末の度に車で一時間かけて遊びに行く日々だった。

このままずっとこの町で生きていくんだ、という予感の末尾に、いつしかハテナマークが付き始めた。
やがて残ったのは「都会で一人暮らしをしてみたい」という本音だった。

実感してしまえばもう無視するわけにはいかなかった。
決意を胸に生一本、準備を重ねて地元を出た。
もうすぐ丸十年。
一度も帰郷する事なく今に至っている。




次に戻ったその時には、旅人視点が入り交じった眺めとして映るんだろう。
懐かしさはある。
だけどもう私のものではない景色だ。