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ゴキブリとのシェアハウス

まず、タイトルの文字ずらが衝撃的である。

私が実家に住んでいたころ、よく夏にゴキブリ、通称Gが出現していた。
私はGが本当に苦手で、Gが出現すると、家の中で殺人事件でも起きたのかレベルに発狂してしまう癖があった。
家族に「近所迷惑になるから、夜は静かにしろ」と何度怒られても、彼らを見かけると、反射的に発狂せずにはいられなかった。

そんな私に、発狂されたG自身も、あまりの叫び声のでかさに、一瞬ビクッとする様子を見せることもあった。

Gを見かける日が続き、私はいつ現れるかわからないGへの恐怖で、一時期、家でゆっくりとくつろぐことが出来なくなってしまった。


いや、待て。ここは私の家である。Gの家ではない。このままじゃ、家ごとGに乗っ取られると思い、Gの出現傾向を分析することにした。

すると、彼らは高確率で、夜11時以降の台所か洗面所周辺に出没することがわかった。

私はその傾向をもとに、夜11時になる前になるべく入浴も済ませ、それ以降は、自室に移動することにした。

その対策の甲斐もあり、しばらくGに遭遇することもなくなった。
Gとのシェアハウス化に成功したのである。

タイムシフトは以下である。
・人間:6:00~23:00
・G:23:00~6:00(厳密には終わりは不明)
圧倒的にGの時間が短く、夜勤シフトだが、家賃も固定資産税も払わない身分なので相応という判断をした。

このタイムシフトに沿って活動した結果、格段にGとの遭遇は減った。
私の作戦勝ちで、暗黙の了解で、Gもこのタイムシフトに従って行動していると信じていた。

しかし、9月初旬、暑さのピークも下がってきた、忘れもしないあの昼下がり、私はリビングのソファーでテレビを見ながら1人で寝ていた。
寝ぼけながらも目を覚ますと、テレビ画面に、あの色黒の恐怖物体=Gが張り付いていた。
断末魔のごとく、誰もいない家で一人叫び散らす私。


G自身も「すみません、違うんです!違うんです!」と言わんばかりに、テレビ画面上で、おどおど動いていた。

私はGを殺すこともなく、なんならシフト制にして、両者が上手くいく方法を考え、譲歩し、歩み寄ってきたはずたった。
しかし、どうしてシフトを間違えてたのだ。私は、久しぶりにGのフォルムを見たショックと、Gに裏切られたショックで頭が騒然としていた。

しばらくすると、私の断末魔の叫びを聞きたであろう、隣の棟に住む祖母が慌てて様子を見に来て「何があったの!?」と言った。

私は諸々の事情を話すと、祖母がたった一言「バッカじゃねーの」と冷静に言い放ち、一切の同情もなく、その日の朝刊でたたきのめした。

祖母の血も涙もない潔さと圧倒的な強さに驚愕した。やはり激動の昭和を生き抜き、吸いも甘いも経験したあんたは一味違う。

その後、G界隈でも、祖母の噂が広まったのか、一切、姿を目にすることはなくなった。

あれから数年、私は実家を出て、都会の飲食店が多い場所に住んでいる。そのせいか、昼間にGを見かけることも増えた。

都会で見かけるGは田舎のGより、なんだか妙に場慣れしていて、貫禄があり、態度も何処となくデカく感じる。そんな都会のGを見かける度に「シフト守らないと、アンタたちも明日は我が身だぞ」と心の中で警告している。私は、共生を目指し、あの時失敗に終わった、Gとのシフト制を未だ信じているのだ。


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