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あなたが辞めても代わりはいるもの


あなたの言うことは真実でしょう。私の代わりはいくらでもいる。

でもね。上司さん。ごめんなさい。
――あなたの代わりだっていくらでもいるんですよ。
これもまた当然の真実です。
そんなことはない? あなたがいないと会社が潰れる? 

そうですか。
でも申し訳ない。
――この会社の代わりはいくらでもあるんです。
この会社が潰れれば、占有していたスペースと人材は放出されます。新たな参入者を含めて新たな盛り上がりがはじまるだけの話なんですよ。ウチよりよい企業に金や人が集中して、生産性は向上するかも。

え? この会社に代わりはない? 
この会社がなくなると業界が困ると?
うちの会社そんな重要だったっけ。
本当かなぁ。まぁいいです。

それでも、ほんとうにごめんなさい。
――この業界にも代わりはあります。
この業界のサービスがなくなる。
だったら顧客はどうなりますか? 別の業界の別のサービスを受けにいくだけでしょう。むしろ「本当に自分に合うのはこっちだ!」と新たな気づきに出会えるかもしれません。

代わりのきかない業界だってある? 
そこで働いているのなら代替できない人材になれる? 
そう思うんですか。
でも本当に?

代わりのきく業界が全て潰れて、人々の生活に不可欠な業界だけになったとしましょうか。

そこしか働く場はなくなりました。

働き手はそこに殺到しますね。
しかし人間の生活にとって不可欠なものだけを生産するなら、人手はさほどいりません。
社会は常に人余り。

そんな社会では働けるだけでも幸運ってことになるんでしょうね。

では、そんな社会の就労者たちは幸せに仕事をしているでしょうか。

そんなことはないと思いますよ。

だって、窓の外では就労希望者の長蛇の列がみえるのですから。

職場の中では皆が互いにこう言い合っているのです。

「お前が辞めても代わりはいるんだ」

…………

外で長蛇をなしていた人々は、しょうがないから新たに働く場をつくってやろうと、不可欠でもない業界をつくりだし、不可欠でもない会社をつくりだし、不可欠でもない仕事のために、あくせく働きはじめました。ただ、こうして働く人々たちにはもちろん代わりはいるのです。


「代わりはいる」からは逃れられないのです。


一人欠けたら終わるような社会じゃない
十人欠けたら終わるような社会じゃない
百人欠けたら終わるような社会じゃない
千人、万人欠けたところで


飽和した時代の感覚


とある市民はこう語った。



―――—――――

松岡「こういう意見もそこそこ目にするようになってきたよねぇ。どう思う?」

小林「この上司の側も自分に代わりがいることを認めてくれるかもしれませんよ。その上で『お前にも自分にも代わりはいる。そんな中で働かせていただいていることに感謝せねばならんのだ!』って言いたいのかも」

松岡「いるよね。働かせていただいて感謝とかいう人。それはそれでいいんだけれども、そういう人って他人にまで感謝を強要することが多いような気がするんだよね。あれはいったい何なんだろう。感謝っていうのは内発的なものじゃないと意味がないと思うんだけどね。変な使命感に駆られているのかなぁ。だいたい、なんでもかんでも『させていただく』と言いだすタイプの人たちってさ~(……以下失礼な持論を長々展開)」

小林「ちょっと、脱線してますよ」

松岡「はっ! 僕の長所である脱線癖がでちゃったか。じゃあ話を戻しましょう。このエッセイの肝は『生産力が一定以上になった社会では代替不可能人材なんて存在しえなくなる』ってことだね。僕は正直『だから何だ』って感じもするんだけど、どうよ?」

小林「それに何をもって不可欠な業界と言えるのかも気になりますよね。人生を彩るものも含めて不可欠というのなら、この社会から引くべき業界って実はそんなにないんじゃないかなと。企業にしても数を強制的に減らしたら寡占化が進んでかえって市場全体は不効率になるかもしれない」

松岡「そうそう。現実を分析した形跡は全くないわけで、ディティールにこだわってたら読めたもんじゃない。でも好意的にみると、これはそもそも感傷なんだよね。他に代わりがないからこその魂なんだ! 社会に魂が傷つけられている! っていうマインド。そしてその感覚は分からなくもない。だから綾波レイの『私が死んでも代わりはいるもの』に痺れたオタクたちが山ほどいたわけでしょう。これ古すぎるかな(笑)」

小林「古いですね……。うーん。でも、私の代わりがいることってそんなに苦しいことですかね。自分の代わりがいっぱいいるのはイヤかもですけど、自分の代わりがどこにもいない状況だったら、それはそれで重圧が酷くてメンタルが完全破壊されそうですよね。そっちも絶対イヤじゃないですか」

松岡「嫌な仕事だったら、むしろ代わりがいて欲しいよね。あんたがやってくれ~って」

小林「もちろん楽しいことなら自分でやりたいですけど」

松岡「今度ポケモンの新作がでるわけだけど、それこそ僕の代わりにゲームをプレイして、攻略Wikiをつくって、ランクマして、動画作成して、感想を呟いて界隈を盛り上げてくれる人はいくらでもいるのよね。僕がいる必要は全くない。でもゲーム自体は僕自身で楽しまないと全く意味がない。だって見てるだけじゃ全然つまんない(笑)」

小林「私はゲーム実況を見るのも好きですよ! しかしこうして考えてみると、自分に代わりがいるかいないかって、それ自体は別にどっちでもいいのかもしれないですね。その役割を果たすことが自分にとって意味や価値をもつかどうかが大事なんであって」

松岡「というか、もともとそういう話をしているのかな、これ。上司の話はブーメランだと言っているだけで、書き手の立場は別に表明していないね。書き手の魂は傷ついていないのかも。上司にムカついてるだけで」

小林「あれ? 完全に読み間違えていた?」

松岡「そうかも」

小林「あらら(笑) ただ、いずれにせよ『代わりがいるかいないかは本質的ではない』っていう点と、『自分にとっての意味や価値こそ本質だ』という点では書き手と私たちの立場は近いかもしれませんね」

松岡「そうそう。エッセイはとにかく、僕が言いたいことは、自分の感性を信じられない奴はつまんない人生になっちゃって話。これ本当だよ! でも、だからこそ『お前の代わりなんていくらでもいるぞ』とか言ってくる失礼な人間からは距離をおきたいよね。そういう人間とお付き合いするのは時間の無駄だから。その役割は誰か別の人に代わって欲しい(笑)」

小林「あるいはそう言う失礼な人こそが誰か別の人に代わって欲しいです。行動を改めてくれるんでもいいですが」

松岡「性悪ってそう簡単には変わらないよ(笑)」


※ この記事はフィクションです

気の向くままにくだらないことを書き連ねるのも、ストレス解消的には悪くないなと思いました。ちなみに松岡、小林という名前は以下の生成器によっててきとうに決めました。実在の人物とは全く関係ありません。対談していただきありがとうございました。



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