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【One Summer Dream】 - 駆け抜けた夏の思い出は夢か現実か

2023/9/20にフィロソフィーのダンスの2nd EP「One Summer Dream」がリリースされました。直訳すると「ある夏の夢」というタイトルの本作、リリースの発表が6/26だったので、約3ヶ月のリリース期間はちょうど今年の夏と重なり、タイトルとも相まって夏の思い出が詰まった1枚です。

これまでディスクレビュー的なことはしていなかったのですが、この夏の思い出として、リリースを振り返りつつ、個人的な感想を添えて本作を紹介してみたいと思います。先に言っておくと、今回も長くなってしまったオタクの戯言ですが、もしよければお付き合い下さい。


そもそもEPって?

本作はEPという形態でのリリースです。EPの一般的な定義は僕自身、曖昧なのですが、シングルとアルバムの間で、4〜6曲くらいの作品、ミニアルバムと呼ばれることもあるかと思っています。(レコード、CD、配信と時代の流れで言葉や捉え方も変わっているようですが)
本作「One Summer Dream」は5曲入りで、旧体制最後の作品となった1st EP「Red Carnival」も5曲入りでした。今年リリースしたシングル「熱風は流転する」「シュークリーム・ファンク」は両作品とも4曲入りだったので、シングルより1曲多いだけかと思われるかもしれません。が、個人的にシングルとEPの大きな違いは、曲数の違いよりも構成と作品性にあると思っています。
シングルはいわゆるA面と呼ばれるメイン曲とカップリング数曲という構成です。「熱風は流転する」も「シュークリーム・ファンク」もアニメOP曲のタイアップ曲でしたし、まずはメインとなる1曲があり、そこを主軸にした作品がシングルになっているかと思います。
一方でフィロソフィーのダンスの場合、EPの作品タイトルである「Red Carnival」や「One Summer Dream」という名前の曲はありませんし、EPの中でメイン曲といったものは明確にはなく、アルバムに近い特性があると思います。そのため、曲単体だけでなく、作品タイトル、曲順などを含めた構成から、シングルに比べて作品性を読み取る面白さがあるのではないかと思います。(もちろんシングルにもストーリー性はあると思いますが)

それではここから、時系列に収録曲を紹介していきます。

7/11先行配信:熱風は流転する(WONK Remix)

配信リリースがメインの現代においては、収録曲が先行配信されるのは一般的と思われます。6/26にEPのリリースが発表され、タイトルやキービジュアルが公開されましたが、そこから初めに先行配信されたのが、新体制初のシングル曲「熱風は流転する」のWONK Remixです。

ご存知の方も多いかも知れませんが、WONKは日本のバンドですね。個人的にWONKの印象は「悔しいほどカッコ良くてオシャレ」です。フェスで見たことがある程度なのですが、その音楽は格好つけたカッコよさではなく、洗練されたカッコよさで、高いセンスがあり、それなのに強く主張してこない色気を感じさせながら、でもその中に明確な情熱がある、そんなイメージです。例えるなら、メラメラと燃え盛る炎ではなく、青い炎のような、静かに高い熱量を秘めている、そんな印象です。(完全に個人的な印象なので、おいおいなんだそりゃと思われるファンの方がいたら申し訳ないです)

そんなWONKがRemixした「熱風は流転する」ですが、はっきりいって超カッコいいです。「悔しいほどカッコ良くてオシャレ」と書きましたが、このRemixもやっぱり悔しいほどカッコよかったです。原曲はギターとベースのリフが特徴的な攻め感のある曲ですが、このRemixは薄暗いサウナや、熱帯夜のような、湿っぽさと熱を感じるアレンジです。しっかりWONK色があるけど、フィロソフィーのダンスの歌の艶っぽさもちゃんメインで生きてて、決して目立たせない主張があって…あーやっぱりWONKなんだよな。カッコいい。オケだけ聞いても、最高にチルい感じが堪らなくクセになります。

7/19先行配信:上海ハニー

続いて先行配信されたのは今年メジャーデビュー20周年を迎えたOrange Rangeの大ヒット曲「上海ハニー」のカバーです。
「上海ハニー」、大流行した20年前はあまりちゃんと聞いていなかったので、カバーすることが発表されたときは一体どんなアレンジになるんだろうと思いましたが、実際に曲を聴くとさすがフィロのス。曲のアレンジが思い切りファンキーで、特にベースが攻め狂っててめちゃくちゃ最高でぶち上がります。
先行配信前、山中湖で行われたSPARKというフェスがオンライン配信され、その時に上海ハニーのパフォーマンスを見たのですが、盛り上がる夏曲カバーは初見の方の心もガッチリ掴んでいましたね。大阪で行われたGIGANTICというロックフェスでも大盛り上がりだったそうで、まさにこの夏を彩る1曲だと思います。

僕は楽器を弾くのが趣味で、楽曲の中でもオケアレンジに真っ先に食いつくタイプなのですが、先行配信された日は、楽器を弾く別のファンの方と「このアレンジはやばいね」みたいな話題で盛り上がりました。
オケがかっこいいのはもちろん最高なのですが、ラップパートもめちゃくちゃ良いんですよね。ファイナル・アンサーの記事で、最近のフィロのスの曲は、毎回あんぬちゃんの歌にビビるパートがあるって書いたんですが、上海ハニーのあんぬちゃんラップがめちゃくちゃキャッチーで大好きです。(しかもめっちゃうまい!)
歌割りや途中のお喋りにも5人の個性がしっかりと散りばめられていて、5人の魅力も詰まったカバーになっていると思います。

7/26先行配信:サンバーント・ロマンス

そして次に先行配信されたのは新曲「サンバーント・ロマンス」です。この曲は、事前にこの日に配信されるという情報がほぼ公開されていない状態で、日付が変わるとともに、サプライズ的に配信が開始されました。この日、0時を跨いだ後のタイムラインは驚きと興奮が溢れていましたね。

この曲は、じっとりとした熱と湿度がある、大人をイメージする曲です。日焼けしてヒリついた肌をロマンスに例えた一夏の甘くて痛い恋。作詞はメジャーデビュー以降、フィロソフィーのダンスの様々な曲で詞を書かれている児玉雨子さん。小説的で少し官能的な湿度も感じさせる世界観は、単なる一夏の恋というだけでなく、夕暮れ、熱い夏の夜、大人の駆け引きと夏の悪戯、そして切なさなどの情景を連想させます。
作曲、編曲はきなみうみさんという方ですが、この方なんと1999年生まれの24歳。年齢でコメントするのも大変失礼ですが、この超大人っぽい曲、サウンドをこの歳で作られているなんて、正直驚きです。個人的にイントロのウーリッツァーの音や、ピアノがすっごくツボで、生音感のあるサウンドとラテン調のリズムがたまりません。

そしてこの曲もやはり歌が最高ですね。個人的な印象なのですが、この曲は、日向ハルさんと奥津マリリさんが、がっつり強み、特徴を出していて、二大巨塔がしっかりクセつよなアレンジなんですが、一方で佐藤まりあさんと香山ななこさんがすごくフラットで、コントラストが強く出ているように感じるんですね。そして木葭ののさんがその間をちょうど良い塩梅といいますか、パートによって強めだったり抑えたりを行き来して橋渡ししているようで、曲全体の調和を感じます。
新体制の活動をずーっと熱心に追いかけていますが、木葭ののさんの歌は毎回毎回いろんな表情が出てきてすごいですね。とんでもない逸材です。

ここまででEP5曲のうち、早々と3曲が先行配信されました。が、すでに三者三様、全く違う雰囲気だけど「One Summer Dream」の名の如く、夏をテーマにした3曲が配信され、このEPへの期待値は高まります。特に夏のイベントで盛り上がること間違いなしな「上海ハニー」に対して、大人っぽくてカッコ良くて真夏の夕暮れの湿気感のある「サンバーント・ロマンス」のギャップに、このEPでどんなストーリーが紡がれるのだろうとワクワクしました。

9/6先行配信:作り笑いをさせないで

3曲が先行配信され、そこから8月は怒涛のイベントラッシュでした。毎週のようにフェスやイベントがあり、まさに駆け抜けた夏だったと思います。
そして8月が過ぎ、9/4に情報公開された次なる新曲のタイトルは「作り笑いをさせないで」。この時もやはり特徴的なそのタイトルに、一体どんな曲が来るんだろうというソワソワがファンの間でも話題になったと思います。

そしていざ配信されたこの曲は、日向ハルさんが主人公を演じる壮大なバラード!いしわたり淳二さんが書いたその歌詞はディテールがしっかり描かれ、フィロのス曲では比較的珍しく、余白が少なく、情景が浮かびやすい世界観だと思います。
日向ハルさん演じる主人公と、主人公の背中を押すメンバー4人という構成の失恋バラード。日向ハルさんの感情を震わせる歌とこの歌割り、そして映像が浮かびやすい歌詞の世界観から、僕はこの曲はミュージカルだなと思いました。日向ハルさんに酔いしれ平伏する、名曲ジャスト・メモリーズをアップデートしてくる新たなバラードですね。

さあ、事前に4曲が先行配信され、残りはあと1曲です。
「作り笑いをさせないで」が配信された9/6に、2nd EP「One Summer Dream」のジャケット写真と収録内容が公開されました。
ここで公開された情報は最後の1曲のタイトル「キュリアス・イン・ザ・モーニング」とEPの曲順です。曲順はこちら、いよいよリリースへの期待が高まります!

  1. キュリアス・イン・ザ・モーニング

  2. サンバーント・ロマンス

  3. 作り笑いをさせないで

  4. 上海ハニー

  5. 熱風は流転する(WONK Remix)

9/20発売&配信開始:キュリアス・イン・ザ・モーニング

このEPの1曲目が最後に配信される「キュリアス・イン・ザ・モーニング」というタイトルということで、やはり事前情報の時点では一体どんな曲なんだろうとワクワクしました。個人的な予想は、キービジュアルのファンシーさや、「ある夏の夢」というタイトルから、真夏の朝を感じさせる爽やかなアッパーチューンかつ可愛い感じの曲かなーと思っていました。
が、実際に初めて曲を聴いたときは良い意味で裏切られましたね。大人っぽくてかっこいい曲でした!

作詞作曲を担当されたのはYoshihiro Yukiさん。この曲で初めて知った方なのですが、なんとこの曲、3年前のメジャーデビュー曲候補の1つで、3年間メンバーの頭から離れず、このたび3年の時を経て日の目を浴びた曲だそうです。

この曲はフラゲして盤とともに歌詞カードを見ながら曲を聴けたこともあり、まずその歌詞に引き込まれました。
Curious。辞書で意味をひくと「奇妙な、珍しい、不思議な、 好奇心をそそる」といった形容詞です。そして歌詞を読むと、奇妙で不思議な世界が散りばめられていました。

朝目覚めて気づくと
あなたはいなくなってた
今思うとそれが始まりだった
奇妙なことばかり
一体
私は誰なの?

仮想とリアルの境界線
〜中略〜
あなたの目は
超次元的存在
逃れられない

そしてリフレインされるサビのフレーズ。

Curious in the morning
Call me now baby
Curious in the morning
Wake me up baby

イントロやAメロBメロには朝日の光のような、それでいてどこか怪しげな音が使われていて、まどろんだ朝のイメージ。「朝目覚めて気づくと」という歌詞に対して、目覚めた先は夢の中なのか現実なのかわからない。
しかし曲調の主軸は4つ打ちダンスビートなので、おとなしく怪しげな雰囲気とフロア爆上げのダンスサウンドが同居している曲です。僕はこの雰囲気から真っ先に「イッツ・マイ・ターン」を連想したのですが、似たようなことを感じているファンの方もいらっしゃいました。どこかアシッドな感じがあるんですよね。

コード進行もすごく特徴的で、サビのリフレインフレーズのベースラインが、1番は下がっていく進行なのに、2番以降は上っていく進行になっている。メロディーは同じなのにコード進行が違うので、前半は迷いや悩みといった後ろ向きな雰囲気を感じさせるのに、後半はまっすぐ前に進んでいくような印象になります。

サウンドから感じる世界観と歌詞から読み取れる世界観を合わせて、ここである事実に気づきました。盲目的にこのEPのテーマは、季節である”Summer”だと思い込んでいたのですが、実は”Dream”の方に重要なストーリーがあるのではないかと。

「One Summer ”Dream”」
「ある夏の【夢】」

モーニングで始まる1曲目には夏の始まりを連想していたのですが、この曲を聴いて、単に朝の目覚めという意味ではなく、これは現実なのか夢なのかわからないけど、何か物語の始まりであると。そして迷いながらも進んでいく先は夢か現実がわからない仮想とリアルの境界…そういう曲がEPの1曲目なんだなと僕は解釈しました。

改めてEPを通じて

冒頭、そもそもEPとはと書きましたが、やはり全曲通して作品としてのストーリー性を読み取りたくなります。ここからは完全に僕の勝手な解釈なので、異論・意見いろいろあると思うところですが、このEPを通じて個人的に感じたことを少し触れたいと思います。

まず作品を通じて、1曲目の「キュリアス・イン・ザ・モーニング」と最後の「熱風を流転する(WONK Remix)」に中毒性(アシッド)を感じました。特に「熱風〜」は、最後の曲でエンドロールのような雰囲気があるのですが、曲のタイトル通り【流転する】感じもあるんですよね。
最初と最後の曲に中毒性のある親和性があることと、最後の曲のどことなく流転するというイメージから、作品全体にループする感覚を覚え、さらにこれが「夢」の物語であるという解釈から、この作品は「迷い込んで抜け出せない夢なのではないか」というようのような印象を受けました。

また、中毒性のある夢は、「サンバーント・ロマンス」の湿度からも感じますし、フィルム映画をも連想させる「作り笑いをさせないで」の失恋ミュージカルバラードと、沖縄の海できゃっきゃはしゃぐイメージビデオに象徴される「上海ハニー」の浮かれた世界観、2つの全く異なる世界が連続する曲として繋がっているという非現実性からも感じました。
夏を駆け抜けたアイドルの夏のEPにワクワク心を踊らせていたはずが、いざ盤を手にして繰り返し作品を聴き、意外な表情にドキッとさせられる、そんな印象を作品全体から受けました。

最後に「One Summer Dream」リリースのPR記事として掲載されたRockin'onのインタビュー記事から、僕が最高にグッときた奥津マリリさんのコメントを引用させてください。

アイドルの音楽はアイドルの売り場に置かれているというだけで、音楽自体はそれほど他と変わらないはずなんです。音楽が好きなら、「アイドル」「バンド」「シンガーソングライター」というような売り場で判断するのではなく、音楽自体を聴いて向き合ってほしいなと思います。聴いてもらうことによって、アイドルの面白さも伝わるようなグループになりたいです。

https://rockinon.com/interview/detail/207442
Rockin'onのインタビューより

僕は「音楽」から入って「アイドルの面白さ」にすっかり夢中になっているので、このコメントがめちゃくちゃ刺さりました。
そして、このnoteを書きながらこのインタビューを改めて読んで、この作品に1つの解釈を思いつきました。

夏の終わりにリリースされた「One Summer Dream」という作品はフィロソフィーのダンスとともに駆け抜けた最高の【夏】の思い出です。しかしその思い出は、実は【夢】だったのではないかという、夢と現実が揺らぐ感覚を、EPを通じて思わず感じてしまいました。そして「中毒性」というキーワードも含め、実はそこにはアイドルの本質(idol / 直訳で偶像)が隠れているのでは、という解釈です。
あくまで【One=とある】の物語なので、1つの解釈に過ぎない、あるいは変なオタクの深読みという感じですけど、アイドルがくれる夢って現実だけど虚でもあって、そこにアイドルがidolたる所以みたいなものを感じたんですよね。その表裏性もまた魅力なのは間違いないと思っているので。(超個人的解釈なので、もし不快に思った方がいたらすみません)

フィロソフィーのダンス2nd EP「One Summer Dream」。
それぞれの楽曲は個性的でバラエティ豊か、メンバー5人の魅力もたっぷり詰め込まれている作品です。そしてそれらをまとめて「ある夢の物語」とした作品性には、現実として目に見える魅力だけではない、目に見えない非現実的な夢の世界が生み出す魅力も含まれていて、現実と夢の表裏性が生む複雑性(カオス)こそリアルと感じました。

僕はアイドルの現場に足を運ぶし、ステージを見て感動するし、特典会で推しに会ったりお話したりチェキを撮ってもらってパワーをたくさんもらっています。すべては現実ですが、同時に虚でもある。
いやほんとにアイドル面白いんですよ。まさに沼。おすすめです。ぜひ音楽自体を聴いて向き合って欲しいし、そこからアイドル自身やその作品が持つストーリーとエネルギーを感じて欲しい、そんなことを思った1枚です。

今回も長々と綴ってしまった文章。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
それではまた!

おまけ

本記事公開の本日9/26からフィロソフィーのダンス全国ツアー Greatest 5 Party 2023が開催されます。そして現場でこの魅力を体験してください!


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