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ぴ~すふる その8-2

前回のあらすじ
『マッドも博士』
いつも白衣を着ているもやしメガネ。殆どの時間を自室にこもり、変なものを作っていて、その事をよく街の子供たちにからかわれている。
HPの上限は低いが、マイナスになってから粘るタイプ。

次に行っちゃう
初めから

 ユッキーちゃんは、背を崖に預けて、手足を前方にだらしなく伸ばしている。頭から垂れた麦わら帽子が顔を隠している。凡庸な表現だが、陶器のように白い──日焼け止めを塗っているのでどれだけ日に当たっても焼けていないのだ──肌は、土と汗で汚れていた。驚くことに……いや、別に驚くことではないかもしれないけど、でも、状況的には驚いてもおかしくないというか? ……まあ、とにかく、ユッキーちゃんは昨晩と同じ服装だった。上下ともに探検家が着るようなポケットの多い服。あちこちにパンクなピンバッチが付いてるのがプチおしゃれ。

「あれ、あの子、もしかしてタローくんのお友達の女の子じゃない?」と博士が訊いた。
「引きこもりの博士でも知ってんの?」とタロー。
「引きこもりでも外に出ないわけではないからね……。それに、ここは狭い街だから。いや、僕のことよりも──」

 マッドも博士はユッキーちゃんに近づいて声をかけた。が、返事は返ってこなかった。彼女はピクリともしない。
 手を伸ばして麦わら帽子を取ろうかどうかしばらく逡巡する素振りを見せた後に、タローに助けを求めるような視線を向けた。
 タローはため息をつき、そちらへ向かった。

「めんどくせー」タローはユッキーちゃんを横目でみた。
「息はしてるようだけど……大丈夫かな」とマッドも博士。
「大丈夫大丈夫。ユキコだから」とタローは言って、ユッキーちゃんを足で小突く「ほら、ユキコ、起きろって」

 しかしユッキーちゃんは目覚めない。
 更に二回弱Kを食らっても、口から彼女らしからぬ、あざと……可愛い寝息が漏れるだけだった。

「ちょっとタローくん、女の子を蹴るのは……」
「ユキコだからなあ」
「ユキコちゃんも女の子でしょ。──ほら、君。こんなところで寝てたら危ないよ……」

 博士はタローの弱Kを止めて、ユッキーちゃんの肩を揺すった。麦わら帽子が落ちた。下から、白目をむいて口をだらしなく開けている彼女らしい表情が現れた。
「うわあっ!」博士は驚きの声を上げて尻餅をついた。

「女の子の顔見て上げる声じゃねえな博士」ジト目タロー。
「いや……あ、うん」立ち上がった博士はお尻を叩きながらユッキーちゃんを観察する「……生きてるよね?」
「多分な」

 タローは、ユッキーちゃんの近くに落ちていたハンディライト(480ルーメン)を手に取り、電源を入れて彼女の顔面に当てた。(※真似しないでください)

「んん……」
 眉間にシワを寄せて苦しみだす様はさながら吸血鬼。しまいには口から「グエェ」とうめき声が漏れる。

「ほら、早く起きて帰れって」タローはなおも光を浴びせ続ける。
「グエェ」体を捻るユッキーちゃん。
「何だかすごい声が出てるよ」とマッドも博士。
「ゲゲェ」痙攣するユッキ以下略
「いつものことだから」とタロー。
「ググググ」ユ略。

 タローはライトをぐるぐる、様々な角度から当てる。マッドも博士は心配げな表情。

「クキキキ! ……ハッ! ここはどこ? 私はだれ?」
 眼を覚まし、バッと飛び上がるユッキーちゃん。辺りをキョロキョロ。

「ここは、森の中で、お前はユキコだ」とタロー。
「じゃなくてユッキーちゃん。──あんた、何やってんの?」
「それはこっちのセリフなんだよな。もしかして昨日あの後からずっとここにいたのか?」
「私? 私はあんたと別れてから……あ、そうよ、あんた何か隠してるでしょ!?」
「なんにも隠してねーから、さっさと帰れよ」さもめんどくさそうなタロー。
「いやよ!」ユッキーちゃん大声で拒否。
「なんでだよ」「うるさいわね!」「ちょ、ちょっと落ち着いて」「うるさいわよ!」「博士に当たるなよ」「うるさいわね! さっさと吐きなさいよ!」「何をだよ」「昨日ここで何してたのよ!」「虫取りだって」「嘘よ!」

 ユッキーちゃんは指でタローをビシッと指す。もう片方の手は腰にバシッと当てている。彼女の後ろで爆発が起き……たりはしなかった。
 一方、苦虫を百匹まとめて口に入れて噛み潰したような顔のタロー。二人の様子をおとなしく見ていたマッドも博士は水筒から水分補給。

「──あーもう、うっせえなあ! そんなに知りたきゃ教えてやるからそこどけ」

 タローは投げやり気味に言い捨てて、エレベーターが隠されている崖へ向かった。「そういえばどうすれば良いんだ?」とつぶやいた。そして、適当に壁を叩きだした。
 ユッキーちゃんとマッドも博士がその様子を見る。ドンドンドンドンドン……。
 何回目かのノックの後、チーンとベルの音がなり、ガチャンガチャンと崖の一部分が開きエレベーターが姿を表した。

「これは……?」「わっ! なにこれ!」
「ほら、ここに入って。カフェインが待ってるから」先にエレベーターに入るタロー。後に続くマッドも博士。
「カフェインって誰?」とユッキーちゃんが尋ねる
「いいから入れって」
「なによ」
「じゃ、俺達は行くわ」
「あっちょっと待ちなさいよ!」慌ててエレベーターに入るユッキーちゃん。

 三人が乗ると扉が閉まり、続いて崖が戻った。その様子を見たものは誰もいない。

 ◆

 そして十分前。

 =>[カフェインのアジト]

 チーン。エレベーターの扉が開き、タロー、ユッキーちゃん、マッドも博士の三人が出てきた。誰かが欠けていたりエレベーター内が血まみれになっていたりはしなかった。

「おーいカフェイン。マッドも博士を連れてきだぞ。どこだー?」
 カフェインの姿を探すタロー。ユッキーちゃんは興味深そうに辺りを見渡している。

 脱出船を眺めるマッドも博士。これまでにないほど真剣な眼差しだ。「これは……」博士の眼鏡がキラリと光る。

「それは、私が乗ってきた脱出船です」

 マッドも博士は声の方に視線をやった。カフェインが博士を見上げていた。
「……犬?」
「おーい……おっ、いたいた」とタローが近寄ってくる。
「タローくん。カフェインさんはどこかな?」「こんにちは、タロー殿。この方がマッドも博士ですか?」

 二人が同時にタローに声をかけた。博士は何かに気がついたようにカフェインを見た。「え?」

「どうしましたか?」とカフェインが言った。

 マッドも博士は口を金魚のようにパクパクさせてカフェインを見て、タローを見て、カフェインを見て、タローを見た。あ、ユッキーちゃんは部屋の中を探索してて会話に入ってこないので、一旦忘れてもらっていいですよ。

「犬が喋った……?」とようやく博士が声を出した。
「ああ、カフェイン。博士がマッドも博士だ。で、博士、あいつがカフェイン」とタローがこともなげに言った。
「始めましてマッドも博士殿」お辞儀をするカフェイン。

 対して何も言わずカフェインを凝視してマッドも博士。目は見開かれ、今にもメガネを割って飛び出しそうだ。表現が古い?

「博士?」タローが横に立ち、声をかけた。
「犬が……喋った?」マッドも博士はカフェインを凝視したままつぶやいた。
「そうだぜ」
「”’$%#!#と申します。今はこのカフェインなる野生生物の身体を借りております」ふたたび頭を下げるカフェイン。

 バタン。マッドも博士は倒れた音だ。


そして8-1の冒頭に戻るのである。


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