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オータムインのピスキウム ~プロローグ~7

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「そういえばピスキウムさ、アルバイト始めたんだって?」

 パムは、手に持っていたピザの切れ端を食べ終えた時、唐突に問いかけた。ごぼうサラダを食べていたピスキウムは訝しげな視線を向けた。

「……そうだけど。なんで知ってんの?」

「エリザさんに……あっ、エリザさんって知ってるよね? 少し前に話すことがあって、たまたま話題に出たんだ」

「ふーん。世間は狭いねえ」ピスキウムはそこで一旦言葉を止め、口をりんごジュースで湿らせた。「そうだよ〈ピートカフェ〉でね」

「へー、ふーん、ほー」

 パムはジロジロとピスキウムの顔を見た。ピスキウムの眉間にシワがよる。

「なに?」

「いやね、それを聞いてちょっと安心したっていうか。そんな感じ」

「?」

「あの時さ、あんだけ暴れた後、何もいわないですぐに学校辞めちゃったじゃん? だからさ、どうしてるのかなって」と、パムはいって、フライドポテトへ手を伸ばした。「これでも友達として心配してたんだよ?」

「…………」

 ピスキウムは何も言わず、窓の外へ視線を向けた。パムはその様子を横目で見ていた。何も言わず、フライドポテトを食べ続けた。ダニーとトーマスの話し声がBGMのようにテーブルに流れる。

 窓ガラスには、黒ウサギ人の少女が無表情で映っていて、何も言わずに彼女を見返していた。

「おう、お前ら。全然盛り上がってねーじゃねえか!」

 先程までトーマスに絡んでいたダニーが、パムの方を見ていった。隣のトーマスは疲れ顔である。

「少し静かにして。女の子には色々あるの」と、パムがいった。

 ダニーは「なんだよ」と不満を示したが、すぐにトーマスに絡み直した。逃げ場のないトーマスはなすがままにされていた。パムは残りの料理に手を出し、ピスキウムは窓に映る自分をじっと見つめた。

 時刻は22時を過ぎていた。4人は店を後にした。噴水の周りにいた若者達はいなくなっていた。

「次は隣町でうまいもん食おうぜ」と、ダニーがいった。

「そうだね」トーマスは疲労困憊と言った様子だ。

「いいね! もちろんピスキウムも一緒にだよ」

 パムが、空虚を見ていたピスキウムに顔を近づけていった。

「ん? あ、うん。そうだね」ピスキウムは生返事をした。

「それじゃあ、解散な」と、ダニーはいうとレフトストリートへ歩いていった。

「それじゃあ」「おやすみね―」

 パムとトーマスはダウンストリートの方角へ向かった。

 残されたピスキウムは、彼らの背中をしばらく見ていた。が、すぐに寒さが辛くなったので自宅があるライトストリート方へ向かった。

 ライトストリートでは誰とも出会わなかった。

 自宅の駐車場にはピスキウム父の車が止まっていた。ピスキウムはドアの鍵を開けて家に入った。

「ただいま」

「お帰り」

 ピスキウムの独り言に、リビングから返事が帰ってきた。低く柔らかい声だった。

 ピスキウムは、リビングに顔を出した。ソファに座っていたピスキウムの父が彼女に顔を向けて、再び「お帰り」といった。

 父は、丸いメガネをかけて、カバーのかかった文庫本を持っていた。彼の前のテーブルには、バーボンの瓶とショットグラスが置かれている。

「ただいま。お母さんはもう帰ってきてる?」

「ああ、もう寝ているよ」

「そう」

 ピスキウムは、テレビ画面をチラッと見た。画面の中では、茶色のトレンチコートを着た男が、ガラの悪そうな男と話しているところだった。

「それにしても、こんなに遅くまで出歩いているなんて、父さんはあまり感心できないな」

「友達と夜ご飯を食べに行ってたから」ピスキウムは、耳をかきながらいった。

「ほう」父は、若干眉を上げた。「もしかして、昔よく遊んでいたブロム家の息子かい?」

「そう、弟のほうね。今もちょくちょく顔は合わせてるけどね。それと、旧友とね」

「そうか……。それなら仕方がないか。友人は大切にしたほうがよいからね」父はウンウンと1人でうなずいた。「ただ、いくらこの町がなにもないところだからって、危険がないわけじゃないからね。次からはもっと早く帰ってくるように」

「はぁい。それじゃ、あたしは寝るから」

「ああ、おやすみ。ピスキウム」

「おやすみなさい」

 ピスキウムは階段を静かに上がり、自室に入って、ベットに倒れた。

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