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ぴ~すふる その7

前回のあらすじ
メインヒロイン(性別不明)が登場したぞ!

次に行っちゃう
初めから

=>[カフェインのアジト]

「つまり、俺の力が必要ってことか?」
「はい、端的に言ってしまえばそうです」
「ふーむ」

タローとカフェインは、不思議な力で宙に浮かぶ低反発素材のクッションに座って向かい合っていた。

ここはカフェインの秘密基地……じゃなかった。アジト。
そこまで広くない洞窟の半分を、カフェインの乗ってきた脱出船──銀色で楕円形の物体──が占領している。脱出船からはどういう理屈かわからないが新鮮な風が噴出し続けている。空調兼酸欠対策だね。
外の洞窟にあったのと同じように光る石が土壁に等間隔で設置されているので明るさは十分。
それと、タローは知らないことだが、隅っこパーツごとに分解にされたアンテナが転がっている。

「どうか、力を貸してくれませんか?」カフェインが頭を少し下げた。
「うーん……いきなり全世界の危機とか言われてもイマイチピンとこねえんだよなあ。相対性理論ってやつと関係ある?」
「関係ありません。──もう一度図を表示させましょうか?」
「頼むわ。それで、もう少しわかりやすく説明してくんない?」
「わかりました。善処します」

カフェインとタローの椅子が謎の力で回転して、脱出船の方を向いた。
カフェインが「ワン」と人鳴きすると、脱出船の側面が光りに包まれた。

そこにはタローたちの世界の技術力では知り得ない知識──この世界の構造、歴史、創生秘話、超人気観光スポット、宇宙海賊警報、その他諸々が四次元超高解像度ホログラムで表示され……

\ババーン/

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 ……あれ? 

「さっきのと全然違うじゃん」タローが言った。
「ご要望どおり、分かりやすくしたつもりなのですが」
「まあ、確かにわかりやすいな。眼にも優しいし。──あ、カフェインもサイダー飲む?」とタローは手に持っているサイダーを差し出して言った。
「ありがとございます。しかし、このカフェインという名の個体では、そのサイダーという液体に含まれる物質を分解できず、致命的なインシデントを引き起こしてしまいかねませんので遠慮しておきます」
「致命的なインシデントって?」
「お腹を下すということです」至って真面目にそう答えるカフェイン。
「そりゃ困るな」タローサイダーゴクリ。

「はい。では、説明に入らせてもらいます。まず、今、映し出されているのが全体図です。背景──色の濃いところを私達は宇宙と呼んでいます。空の果てにあるものだと思ってもらえばいいかと」
「流石にそれぐらいは知ってるぜ」とタローが口を挟んだ。
「あっそうですか。すいません。──もちろん実際はもっと複雑な形をしていますがここでは視認性を優先して簡略化しています。そして、その中にある四角形の図形が世界です。宇宙には、大小様々合わせて三十程の世界が点在しています。やはり簡略化して数も減らして表示させています」
「なるほどね。さっきは何がなんだかわからなかったけど、これだとわかりやすい」
「申し訳ありません。で、今私達がいる世界もこの中の一つです。右端にちょこんと見えている白色のがそれです」
「バースだよな?」
「この世界がバースというのならば、そうです」
「ふーん。どれも同じような形してんだな」
「そうですね。細部は多少違いますが、だいたいどの世界も同じ形です」
「ちなみにカフェインは何処から来たんだ?」
「中央下よりに位置している世界です。大抵の世界よりも科学技術が進んでいます。そのおかげで大多数の民がそこそこ幸せに暮らすことが出来ていました……」

 カフェインはそこで言葉を切った。その様子をタローは不思議そうに見やる。が、声はかけたりはしない。その犬の顔に確かな悲しみの色を感じ取ったからだ。そして、こういうときは下手に声をかけたりしないほうがいいということを、これまでの人生(十年)で学んできたのであろう。

「すいません、中断してしまって。説明に戻ります。ええと……どこまで話しましたっけ?」とカフェインが言った。
「バース以外にも世界があるとかなんとか」
「そうでした。それで、我らが偉大なる科学者たちは、そうした他の世界を日々観察していました。ある日、近隣の世界で大規模な争いが発生しているのを確認しました。先ほど説明したヘイターでした。覚えていますか?」
「寄生虫みたいなやつ。だけど、実際にいるんじゃなくて、幽霊で病気だっけ?」
「概ねそのとおりです。科学者はすぐにその世界へ探索者を送りこみました。そして、情報を収集した結果、原住民が異常なまでに暴力的になっていたることが発覚しました。研究の結果、一種の霊的寄生生物が原因だということがわかりました。その後もヘイターを解明するために様々な研究が行われましたが、解明するよりも早く他の世界がヘイターに飲まれていきました。あっというまでした。なんとか科学者たちは対抗策としてピースを……あの、今重要な話をしているんですけど、ちゃんと聞いてますか?」

 カフェインが尋ねた。その声には若干の不信の色が混ざっていた。タローが新しいサイダーを取り出していたからだろう。
 タローは大きくあくびをしてから答えた。

「え? 聞いてるよ。ちょっと眠くなってきただけ」
「そうですか……」

 瞼が数ミリ下がっているタローを見て、思案にふけるカフェイン。どれどれ。

(事態は刻一刻を争っている。不思議とこのバースと呼ばれている世界はヘイターに侵食されていないようだ。しかし、それも時間の問題だと思われる。なので、早急に原住民の協力ないし理解を得る必要がある。しかし、さらに目の前のタローという名の原住民はまだ少年だ。こちらが言っていることをほとんど理解できていない。これからの事を考えると、別の原住民にコンタクトした方がいいだろうか……)

「あのよー」


 そのまま思考の海に沈もうとしていたカフェインだったが、少年の明るい声によって引き戻された。

「あっはい。なんでしょうか」とカフェインが言った。
「結局よくわからなかったけど、なんか大変そうだし俺にできることなら手伝ってもいいぜ」とタローは言った。
「いいんですか?」目を丸くするカフェイン。
「しばらくは夏休みだから、時間だけはあるんだよなあ。最近はユキコの相手ばかりしてたけどそれも飽きたし、なんか新しい風を入れてえなって思ってたところなんだ」
「ユキコとは?」カフェインが首を傾げた。
「ん? ああ、俺の知り合い。変なことばっか言ってる変なやつなんだけど。あー、あいつならカフェインが言ってること──いや、博士がいたわ」
「誰ですか?」
「俺ん家の近所に住んでて、変なものばかり作ってる兄ちゃん。マッドも博士って名前。変な名前だよな」タローはおもむろにリュックサックからビームサーベルを取り出した「これもその博士が作ったんだぜ」
「それをですか? これは……」

 カフェインの中でマッドも博士への興味がムクムクと湧いてきた。
 彼──カフェインは♂なので、便宜上彼としておく──は、ビームサーベルは一見ただのおもちゃに見えるが、其の実かなり高度な技術で作られていることを見てとったのだ。

「そのマッドも博士という方に会わせてもらうことは出来ませんか?」
「お、おう?」
 カフェインが椅子から身を乗り出してきたのでタローは驚いた。
「お願いします!」

 鼻と鼻がキスする直前でタローはカフェインの鼻を手で止めた。自分が柄にもなく熱くなっていたことに気づいたカフェインは恥ずかしそうに身を引いた。

「まーいいぜ。博士は小心者だから、カフェイン見たら気絶しちまうかもしれないけどな」ハハハと笑うタロー。
「ありがとうございます。助かります」頭を下げるカフェイン。
「だけど、明日でいいか? そろそろ帰らないと捜索願いだされちまうぜ」
「わかりました。では、また明日お会いしましょう。私はずっとここにいますから」

 子供の落書きめいた低解像度ホログラムが消え、それに伴い宙に浮いていた椅子が降りた。両者降りてタローは伸びをしてから首をゴキゴキ。一方カフェインは脱出船の側面を鼻先でポチポチ。その度に高いSEが鳴るよ。

「そっか、カフェインが降りてきたらちょっとした騒ぎになっちまうか……はぁ、またここまで登らなくちゃなんねえよな。俺はいいけど博士は死んじまうかもな」タローはガシガシと頭をかいた。
「ああ、その必要はありませんよ」ポチポチ。
「え?」

 ゴゴゴゴゴ。入り口とは別の場所の壁が開いた。そこは小さな小部屋のようで、壁の材質は脱出船のそれと同じ銀色でなめらかなものであった。
 さて、鋭い読者の方には小部屋にピンときたことでしょう。そう、エレベーターです。正解!


「そのエレベーターに乗れば下まで一直線で行けますので。明日はそれに乗ってきてください」カフェインはポチポチを続けている。
「まじ? ……これもカフェインが作ったのか?」タローはエレベーターの中に入ってあちこち見たり触れたり。
「はい」カフェインはタローに目もくれず、ポチポチを続けている。「あっ、その中に入ってしばらくしたら勝手に移動してしまうので気をつけてくださいね」
 ポチ、ポチ、ポチ、ポチ。洞窟内に脱出船の効果音が響く。ポチ、ポチ……。
「あの? 聞いてます?」
 カフェインは作業の手……ではなくて鼻を止めてエレベーターを確認した。すでに銀色の扉が降りていた。

 ◆

 =>[テッペン山脇の森]

 チーン。

 登山口から少し離れた森の中の、一見垂直に伸びている崖の一部分がガチャンガチャンと開いた。
 タローがエレベータから出ると自動的に銀色の扉が閉まり、さらにその上から周りの崖と同じ色をした壁が覆った。
 深い木々で隠されているのでよほど注意深い者でないとエレベーターを確認することは出来ないだろう。もっというと外はもう暗いし、筋金入りの崖フェチか狂人じゃない限り見つけられないだろう。

「結構時間くっちまったな。早く帰んねえと……」
「あら、あんた何してんの?」
「ゲエッ、ユキコォ!?」

 タローの独り言は、突然森の入口にPOPしてきたユッキーちゃんに遮られた。
 ユッキーちゃんは両手にはハンディライト(480ルーメン)を握っていて、片方をタローに、なぜかもう片方を自分の顔に下から当てていた。もう暗いからか、さすがにサングラスはかけておらず、彼女の赤い目が怪しく光る。ギラリ。でもなぜか麦わら帽子はかぶったまま。

「ユッキーちゃん。で、ここで何やってたのよ」ユッキーちゃんが言った。
「それはだな……えっと」タローはそこで言葉を濁した。おそらく、カフェインのことを説明すると面倒になると察したのだろう。「あー、あれだよ、あれ。あれだって、そうそう、散歩……じゃなくて虫取り」

 誰が聞いても苦しい言い訳だが、ユッキーちゃんは疑う素振りを見せない。

「あっそ。男子ってそういうの好きよね。あ、そうそう、あんたのお母さんが『今夜はタローの好きなハンバーグだから早く帰ってきなさいって伝えてくれる?』って言ってたわよ」
 とユッキーちゃんはタロー母の声を上手に真似て言った。ちなみに、タロー母はとても上品な声をしている。

「そっか、わかった。センキュー。それじゃあな!」
 タローは返事も待たずにそそくさと立ち去っていった。

「……怪しいわね。超凄腕情報屋美少女の勘がそう告げるわ」

 ユッキーちゃんはそうひとりごちて、鬱蒼と茂る森の中に入っていった。


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