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表現者がリアルに学ぶ事が大切な理由

 私は声優の養成所でも主に舞台を通して学ぶスタイルの授業をします。何故なら舞台は役者として一番自由に演じられる環境であり、演じる上でのハードルが最も低い場所だからです。言い換えるなら、舞台で出来ない事はカメラの前でもマイクの前でも出来ません。ですから生徒さん達に今何が出来て何が出来ないかを自覚してもらうためにも舞台を基本としています。

 私の授業では、初めに私が書き下ろした第一場だけの台本を渡します。そしてチームに分かれてもらい、チームごとに続きを考えて一本の作品として演じてもらいます。ですから発表会では出だしが同じで結末の違う物語がチームの数だけ上演されます😅。発表会は毎回何かしらの形で一般公開されてきましたので、ご覧になった方も少なからずいらっしゃる事と思います😉。

 このやり方は、設定を決めて即興で演じてもらうインプロ(improvisation)と言う演技の勉強法に似たところがあります。ですがインプロ的な所はあくまでも考えるきっかけに過ぎなくて、そこから更に練り上げていくので課題としては簡単には終わりません😅。その練り上げていく過程で気付ける事や学べる事がとても多いので、私はこの方法を定番としています。勿論生徒さん達の本分は脚本を書く事ではありませんので、そこは私が全面的にバックアップします😄。

📕なんで〝起承転結〟❓🤔

 さて、いざ物語を作るとなるとなかなか大変です(私のせいだけどね😅)。一般的に物語には〝起承転結〟があり、それが作品のメッセージが一番伝わりやすい形だとされています。
 この中の〝転〟とは事件が起こる事ですね。物語では必ず〝事件〟が起こります。これがない物語とは、例えば「昔々ある所にお爺さんとお婆さんが仲良く暮らしておりましたとさ。めでたしめでたし🤗」みたいな話。いや、確かにめでたいかも知れませんが😅、これでは面白くも何ともありませんよね。だから物語には〝転〟=〝事件〟が必要なのです😉。

 〝事件〟と言うと、生徒さん達はついつい突飛な事や壮大な事を考えがちです😅。ですが物語の中の事件とは、ある人(または集団)にとって初めての出来事や人生を左右するような事であって、その多くは極めてプライベートな事です。そう考えると、リアルな世界を生きている私達自身も大小様々な事件だらけですよね😄。まぁ、要するにネタはいくらでもあると言う事です😅。

 で、この中で最も身近な事件の一つに恋愛があります。本能に根ざした感情ですから身近なのは当然ですよね。しかもバリエーションも多い。恋愛問題は世のほとんどの人にとってはどうでも良い話ですが、当事者にとっては人生を左右しかねない大問題です😆。また好き嫌いには議論の余地がないので、もめる事も多いですしね😅。だからこそ恋愛は物語のテーマになりやすいとも言えます。実際に毎年「恋愛物にしたい」と言うチームが出る人気テーマですからね😄。

📕「フィクションだから」では済まされない難しさ

 さて、そこであるチームが自分たちの物語を恋愛物にしたいと思ったとします。そしてそこにLGBTQ+などのいわゆる性的マイノリティーを登場させるストーリーを考えたとします(これは実際にも珍しい事ではありません)。ですが、そのキャラクターを物語の中でどう扱うかと言う事はとても難しい問題をはらんでいます。興味深い記事が有りますので是非お読みください👇。

 世の中全体で見ればまだまだ誤解や偏見は多いものの、「恋愛対象が同性か異性かを問う事自体がナンセンスだ」と理解する人は、少しずつ増えつつあるように私には思えます。所が実際は記事にもある通りもっともっと多様かつ複雑で、とても一言では言い表せないのです。そして今もなかなか理解されずに苦しんでいる人が沢山いらっしゃいます。

 絵空事の世界で仕事をする俳優・声優と言えどもこの現実を見過ごす訳にはいきません。無知・無理解であったがために作品や演技を通して特定の人達を傷つけて良いと言う事にはなりません。何故なら差別や誹謗中傷、またそれらを肯定する(否定しない)事は人権侵害であって表現ではないからです。ただしこれはあくまでも〝作品のメッセージとして〟の話であって、差別的な表現を一切取り上げてはいけないと言う意味ではありませんので誤解のないように願います。

 この調査をまとめた「As Loop」によると、まだまだデータ解析が不十分だとしながらも、最新の調査で一定の手応えを感じている様子が伺えます。ぜひ資料も合わせてご覧頂き、人の多様性について考えて頂けたらと思います。

👤十人十色はリアルに学ぶ

 時折生徒さんから「どう言うものを見て演技の勉強をしたら良いですか❓」と聞かれる事があります。私はいつも「世の中のリアルに学んでください」と答えています。人がどう言う生き物であるかを理解するには自分で体験したり取材するのが一番です。とは言え、それも限界がありますよね。ですから「新聞やニュース番組、ドキュメンタリーを沢山見て実体験を補ってください」と言います。
 場合によってはどれだけ手を尽くしても理解しにくいものもあるでしょう。ですが人を表現する者としてその理解に努めなければ、いざと言う時に作品が求めるようには演じられないでしょう。そのためにも実際に世の中で起きている事をなるべく多く知り、人の善悪や清濁をそのまま「人間とはそう言う生き物だ」と受け止める事が演技の勉強のスタートラインになると私は考えています(善悪・清濁の判断は勉強とは別に各自でしてくださいね😅)。

 さて、私の授業の話に戻りましょうか😅。生徒さん達が性的マイノリティーを扱いたい(登場させたい)と言った時に、私は「扱う事自体は全く構わないよ。ただし差別誹謗中傷にならないように、皆できちんと現実を学んでからお話を作ってくださいね」と言います。
 シチュエーションだけで扱うと、それは人ではなくて単なるアイコンになってしまいます。表現者としての俳優・声優は人を演じる事を求められているのであって、ただシチュエーションだけでしゃべるならそれはアイコンです。アイコンで良いならAI音声でも良いと言う時代になっている事は肝に銘じておかなければいけません。特に〝表現者としての声優〟を目指す人達にはこだわって欲しい所だと私は考えています。

 実際に生徒さん達が性的マイノリティーについて学んでみると「自分たちが当初考えていたように扱う訳にはいかない」と気付いたり、また「こう言う扱い方をすれば差別や誹謗中傷にならずにメッセージが伝わるんじゃないか」と気付いたり、色々と学びが多いようですね。当然私も生徒さん達が書く脚本をチェックしますので、一緒に学んでいます。
 勿論これに限った事ではなくて、〝リアル〟は人と言う生き物について色々な事を教えてくれるものです。面白いですね🤗。



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