KPI設定能力こそ最強の武器になる

コロナにより経済は悪化し、まさに不況に突入してしまった昨今。今までそこにあった需要は失われ、必要とされない企業の淘汰が進んでいくだろう。逆に言えば、必要とされれば生き残る。今後生き残っていく企業は、必需を捉えた業界に所属する企業と、需要を作り出せる企業だ。では視点を変えて、個人レベルに落とし込み、今後生き残れる人材とはどんな人材だろうか。この場合は、必需を捉えた業界に所属する人材か、需要を作り出せる人材だ。もし前者にあてはまらない場合は、転職か成長かを迫られる。今回は需要を生み出すにはという考えをまとめてみる。

需要について

そもそも需要とはなんだろうか。言葉の意味を調べてみると購買が前提の欲求というニュアンスで記載されている。人には多くの欲求がある。また人にはそれぞれ予算の限界がある。つまり購買行動を通じて欲求を満たす上で、必ず予算上の限界がある。このことから言えることは、人々のある一定水準までの欲求はただの欲求に過ぎず、その境界を越えた欲求から需要となるわけだ。

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需要を作り出すとは、人々の数ある欲求の中から、特定の欲求のプライオリティを高め、予算の許容範囲内に入れる作業のことだ。別の言い方をすると需要を作り出すとは、特定の欲求を必ず満たしたいと思わせることだ。(必需に近づける。)必需とは生存に必要不可欠な欲求から生まれるものなので、その欲求を満たせないことが生存に関わることを理解させる作業が必要と言える。補足ではあるが、生存に関わる要素とは、肉体の維持に必要な要素と、心理的安全性を保つために必要な要素だ。
(タピオカが女子高生の間でブームとなっていたが、もしかするとタピオカというコンテンツを通じて、女子高生は所属するコミュニティでの心理的安全性を担保していて、タピオカの需要が高まっていたのかもしれない。)

需要を生み出すとは結局は何かを売るための手段なわけだが(売れなければ意味ない)、何かを売るとなったときにどのような流れで売っていけばいいのだろうか。ここまでBtoCよりの観点で話を進めてきたが、BtoBの営業をするとして考えてみる。(というのも自分がBtoBの営業をしているから。)

企業における必需

欲求を需要まで高めるにあたり、重要なのはその欲求を満たしたいという優先順位を高めることで、そのために如何にその欲求が生存に関わることかを認識させなければいけない。また企業における生存の欲求とは、利益を生み出し続けることだ。(なぜなら利益がある限りその企業はあり続けるから。)
よく経営資源はヒト・モノ・カネ・情報という。それであればまずは顧客が利益を生み出す上でヒト・モノ・カネ・情報のどの切り口の問題を解決したい(欲求を満たしたい)のかを定義する必要がある。

資源

しかしここで問題が一つあり、必要とする経営資源にもプライオリティがある。コロナ禍だと特に分かり易いが、ヒトの優先順位が下がっている。人材の受け入れは一時的に支出だけを増やすことになるので、確かに優先順位が低くなってしまう。繰り返すが企業の命題は利益を上げ続けることなので、未来的にも利益を上げ続ける構造を作ることが必要となる。もし雇用を止めてしまった場合には、未来的に人材不足に陥ったり、新規事業を任せられる人材がおらず市場から取り残された組織が出来上がったりするかもしれない。ロスジェネ世代という言葉がそのリスクの典型だ。つまり、顧客にヒトのプライオリティを高めてもらうためには、未来的にその企業がどうなっていて欲しいのかを意識してもらう必要がある。
とは言っても、そういったリスクはモノ・カネ・情報への投資を怠った場合にも想定される。例えばここでヒトのプライオリティを高めるためにどのようなことが必要なのか。

目的までの距離を可視化

上記の内容は簡単にまとめると、提案したい内容が生存戦略に直結することを自覚させなければいけないという内容だった。だが今後の生存戦略においてこの商品は必要ですなどという提案は、オフィス投資の提案でも、IT投資の提案でも、M&Aの提案でも、人材投資の提案でも、何においてでも何とでも言える。ただまずはここを言い切ることを前提として、どうすれば他のものよりもプライオリティを高く考えてもらえるのだろうか。
そもそも論だが必需に近づけるということは、必需までの阻害要因、つまり目的までの課題を解決する必要がある。ここで「目的達成」という言葉に主眼を置いて、目的地までの向かい方という例を用いてみる。

デザイン

目的地が近ければ人は自分の足で歩いていこうとする。一方で距離が遠ければ自分の足で歩くことを諦め、別の力に頼ろうとする。また図の通りの15kmの距離であればまだ歩ける距離でもあるとは思うが、ビジネスには時間制限が付き物なので、そうなればよりタクシーや電車という手段を用いるだろう。
つまり言いたいことは、目的地までの距離や時間などの定量的な基準があれば人は投資の判断をしやすいということだ。距離が遠ければ遠いほど、時間制限がタイトであればあるほど他の力を借りなければいけない。
かなり抽象的かつ、比喩的な表現になったが、提案したいもののプライオリティを高めるためには「生存戦略に如何に必要なのか」ということと「現状が如何に理想からほど遠いのか」という2点を理解してもらわなければいけない。

問題は目的にKPIを設定できるかどうか

目的地までの例えはかなり現実に即した例なので分かり易いが実際にはこうも上手くはいかない。なぜなら多くの場合目的は抽象的なもので、抽象的な目的には達成尺度が存在しないからだ。
例えを上げてみる。今後は既存事業以外にも収益柱となる事業を作ることで、継続的かつ安定的な企業成長を実現していく。そのために新規事業を推進できるような人材の採用が必須である。
この場合、目的は「継続的かつ安定的な企業成長の実現」で、そのために必要なアクションは「新規事業への適切な人材配置」となる。ただこの状態では全てが抽象的過ぎて解決すべき課題が出てこない。さらには目的と見比べるための現状も何にすればよいのかわからない。

KPIデザイン

こちらからKPI設定をしたり、設定を促したりしない限り、顧客の抽象的な目的に如何に良い提案をできるかどうかは雲をつかむような話だ。なぜならKPIを設定しない限り、目的に対しての進捗率もわからなければ、課題を明確にすることができない。課題を明確にできないとは、前述の通り外部の力を頼るかどうかの判断基準を顧客に渡すことができないのだ。

KPI設定能力こそアフターコロナで必要な能力

ここまでの話を整理すると、需要を生み出すとはいくつかの工程が必要となる。
①生存戦略に必要な提案だと理解させる
②目的達成のためのKPIを設定する
③そこから導き出される現状と課題を理解させる
これらのフェーズを通して、顧客の欲求を需要に昇華させることができる。
好景気の状況下では、③に当たる内容をしておけば提案は可能だった。しかしながら、不景気になってしまった今では顧客は本質論に立ち返る。弊社は何を目指し、何のために存在するのかと。その問いは今までの価値基準を根本的に見直していくこととなる。本質のために本当にこの目標設定(KPI)は正しいのか。本質をより高いクオリティで最短で実現するためには、別の切り口で物事を捉えるべきではないのか。今は多くの企業が本質論を暗中模索し直すタイミングだろう。
この本質論に立ち返るタイミングで、顧客に新たなKPIを設定できる企業こそが強い企業と言える。なぜなら、新たなKPIを前に今までの提案は通用せず、新たにKPIを作る側からすれば目前にはブルーオーシャンが広がっているからだ。

余談だがこの力は本当に世界を変える力だと思う。最たる例が政治だ。現在は政治の正しさを測る尺度が支持率だったり、GDPだったり、完全雇用の達成率だったりするのかもしれない。情報化社会で統制が効きづらくなってきたこの社会をまたまとめ上げるには、理想の政治を測る新しい尺度が必要だったりするのではないだろうか。長い歴史の中で磨き上げられてきた民主主義にも限界が差し掛かり、新しい価値尺度は今まさに必要とされている気がする。急に政治の話をしだすと、ネットに蔓延る(右も左も含めた)変な思想集団の仲間にされかねないと思いつつ綴っているが、本当にこの力が必要だと思う。
つまり言いたいことは、国を変える力になりうるKPI設定能力なのであれば、ビジネスシーンでも必ずこの力は必要な能力となるはずということだ。まあくまでこれは私の私見ではあるが。
これからの混沌の時代を、本質論を語るための哲学と、そこにKPIを作っていく数学で、色鮮やかにデザインしていきたい。

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