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【余命3000文字】不思議な世界観にズブズブと…

余命3000文字
小学館 2020年12月8日電子書籍版発行(kindle)
村崎羯諦(むらさき ぎゃてい)

この作品は、#読者による文学賞2020の推薦作品です。
私は二次選考を担当いたしましたので、読者による文学賞のHPに、読書感想文とはちょっと異なる「選評」なるものを書いております。
偉そうに書けるほど文学に精通しているわけではありませんが、そちらもリンクを貼っておきますので、読んでいただけるとありがたいです。
読者による文学賞のHPはこちらです

ショートショートという形なのだろうか、表題作を含む26もの短編が収録されていました。
本当に最近読んだ作品は、短編の形をとるものが多く感じますね。読書のスタイルが書籍から電子書籍に変化しているように、作品の主流が短編集へ移っているのかな。それも時代の流れだとすれば、それはそれで受け入れたいものですけど、ちょっとだけ気になりました。

さて、余命3000文字です。
時間をかけずに読める短編が26編収録されているため、どのような方でも何編かはお気に入りの作品が見つかるんじゃないかな。
私は表題作である「余命3000文字」と「大誤算」が好きですね。
「余命3000文字」は、読んでそのまま「余命が3000文字の男性」の話。なんでしょうね、余命の単位が文字っていうのは。読んでいればそこまで違和感なく読めるんですよ。ページが進むごとに男性の余命が減っていく。男性も、自分の余命が残り何文字なのか理解しながら。余命がなるべく減らないように生きていく。
で、ふっと考えるんです。
「余命の単位が文字ってどゆこと??」
この疑問が頭をよぎってしまうと、もうだめです。話に集中できなくなります。
読み終わって、何度か読んでみましたが、未だに理解でていません。
うーん、不思議な話。
「大誤算」は独身の老人が持っている莫大な資産を狙って結婚をした女性の話。
まぁタイトルからして、すぐにこの女性の目論見は失敗する、ということは理解できます。理解できますが、どのように失敗するかについては、予測できる人はいないんじゃないでしょうか。
なるほどなぁって思わせるお話でした。

ほかの作品もそうですが、短編はやはり読みやすいです。短い話なので、時間を必要とすることなく読み終えることができるのがメリットですが、空いた時間に本を読む気にさせるという効果もあるかもしれません。
電子書籍が普及した恩恵もあるのかな。
カバンから文庫本を取り出し、栞の位置を開き、栞を無くさないように別のページにはさんでおいて、読書を再開する。
対して、電子書籍であれば、スマホで読むと仮定すると、スマホを取り出し、アプリを起動させると前回の続きのページが表示される。
電子書籍と短編は非常に相性がいいのかもしれません。
そうであれば、電子書籍が読書の一つの形として定着している現代においては、相性の良さでこれだけ多くの短編作品が生まれているのかもしれません。
もちろん、紙で読んでも面白い作品ではありますが、ここは時代の流れにのってみて、電子書籍で「余命3000文字」を楽しんでみませんか?

あ、ちなみにタイトル上の写真については、この作品を読んだ人ならわかるはず!


それでは、ここからは触れてこなかった「ネタバレ」を含みつつ、もう少し書いてみます。
ネタバレを読みたくない方は、ここで読むのをやめてください。
行数を10行くらい空けておきますね。









本当に読みますか?ネタバレありですよ?


では、書いていきます。

全体として、不思議な話が多かったように感じます。
短い作品の中で、きっちりと設定等を説明するのは難しいため、SFのような「なんでもあり」の設定にしてしまい、読者の想像力にある程度委ねている部分があるのかもしれません。
読んでいて感心したり、なるほどと思ったり、1つの作品の完成度は高いと感じます。ですが、作品が短いためなのか、読み応えというか、読み終わったあとに残る余韻のようなものが少なかったように感じました。
「余命3000文字」という表題作は、余命を「文字数」で表現するという、マンガやアニメ、映画ではできない手法で、新しい形を生み出すことに成功しています。
それだけに、読んでいる最中はぐぐっと引き込まれて読んでいるのですが、物語が終わってしまうとそれまでの興奮や余韻は霧散するかのように消えてしまいました。
で、次の短編を読む。
なるほど、面白い。
次を読む。
この繰り返しがせっかくの素晴らしい短編を「短編集の中の1つ」としてしまっているように思います。短いから悪い、長いがら良いというような単純なことではありませんが、詰め込みすぎるとその瞬間の時間を「埋めるため」に読書という行為をしているように感じます。読書をして作品を楽しむのではなく、空いた時間を埋めるために読書をする。
それはそれで決して悪いことではありません。
そのためのスマホアプリなのでしょうし、持ち運びに便利な電子書籍ですから。
もちろん、ちょっとかさばりますが、文庫本を持ち歩いていても同様です。

読書をする形というのは、人によって様々です。
一つの作品をじっくり読んで楽しむ。
一つの作品を読めるだけ一気に、短い期間で楽しむ。
空いた時間を利用する。
決めた時間に読書を楽しむ。
暇をつぶすために読書をする。

短編作品集というものは、もしかしたら私のように一つの作品を集中して一気に読み進めるタイプとは、相性が悪いのかもしれません。
一つの作品を空いた時間にさっと読んで、続きはまた別の空いた時間に。
これであれば、短い作品であっても、余韻を楽しんだりする時間が確保できます。
考えすぎかもしれませんが、この作品を読んでさくさく読み進められるのに、何か釈然としないような、心にストンと落ちないような、そんな引っかかりを感じていました。
それはもしかしたら、上に書いたような相性の問題だったかもしれません。
面白いと思える作品があったので、ちょっともったいないような想いが残りました。
また、時間があるときに、今度はゆっくりと1つの作品だけを読んで、じっくりと味わってみたいと思います。

サポートを頂けるような記事ではありませんが、もし、仮に、頂けるのであれば、新しい本を購入し、全力で感想文を書くので、よろしければ…