【100文字SF】 ページを捲る度に違う表情を見せる、万華鏡のような作品
100文字SF
早川書房 2020年6月15日発行
北野勇作(きたの ゆうさく)
この作品は、#読者による文学賞2020の推薦作品です。
私は二次選考を担当いたしましたので、読者による文学賞のHPに、読書感想文とはちょっと異なる「選評」なるものを書いております。
偉そうに書けるほど文学に精通しているわけではありませんが、そちらもリンクを貼っておきますので読んでいただけるとありがたいです。
読者による文学賞のHPはこちらです。
小説の形としてお馴染みなのは、長編だったり短編だったりショートショートだったり。まぁ表現としては色々ありますが、基本的には文章の量というか長さで決めているようです。
そんな中に、新しい形が殴り込んできました。
「マイクロノベル」
約100文字からなる小説。
100文字というよりも、100枡と表現したほうがハマる感じがする。
わずか100枡で表現できることなど高が知れると思うのは大きな間違い。100枡だからこそ、そしてタイトルにも書かれているようにSF作品だからこそ、読み手の想像力が問われる。
100枡に込められた情報は極々僅か。そこから、如何に自分の頭の中で足りないピースを補い、繋げ、物語に奥行きを作らせるか。
お手軽に読めそうな100枡の世界には、気軽に足を踏み入れた読者を沼の底へ引きずり込む怪しい魅力を隠し持っている。
お気をつけなさい。その沼は入ってしまうと、抜けられないほどに奥深いのだから。
って、ちょっと作品紹介を意識してかいていましたけど、どうでしょうか?
伝わります?
いや、実際この作品の魅力を伝えるには読んでもらうのが一番手っ取り早いとは思うのですが、なんとかして読んでない方に伝わる、そして読みたいと思ってもらえる紹介文を、と考えてみたのですが難しいね。
そもそも、一冊の本に200ものストーリー(表紙を含めると201!)を詰め込んでいるので、内容の紹介なんて出来たもんじゃないのです。
短編集であれば、その中の一つ、二つを紹介なんてことも出来るのですが、いや、さすがに200から選ぶってのは厳しすぎる。
・・・うーん、一応、選んでみます?
難しいので、「これはっ!」って感じた作品が掲載されているページ数を書いておきます。内容は自分で本を買って確認してください。
P14:ホラーっぽさを感じさせながら、シュール。
P15:この気持ち、すごいわかる。
P23:怖い。ぞわっとする。
P38:成長を否定されるのは怖い。
P53:こんな近未来イヤだ。
・・・もういいっすか?
いやー、無理だ。これだけある中から絞るのは無理だ。
もうね、最初は「ん?どゆこと?」って話でも、読んで内容を咀嚼していると、自分の頭の中で文章が再構築されて、「あーっ!」ってなるの。これは楽しいぞ。
さささ、まずは本屋さんに行って買ってくるんだ。
それでは、ここからは触れてこなかった「ネタバレ」を含みつつ、もう少し書いてみます。
ネタバレを読みたくない方は、ここで読むのをやめてください。
行数を10行くらい空けておきますね。
本当に読みますか?ネタバレありですよ?
では、書いていきます。
一つ、二つをピックアップして、そのストーリーに触れればネタバレになりそうな話ばっかりだったので、すごく書き方に迷いました。
小さな箱や限られた空間に魅力的なモノが詰まっている状態を「宝石箱」や「小宇宙」といった表現をするときがありますが、この作品はまさにそれでした。
1ページに一つマイクロノベルと呼ばれる超短編が掲載され、その一冊の作品は200ページから構成されている。
近未来的なストーリー、ホラーなストーリー、科学的な空想に基づくストーリー、そして少し不思議なストーリー。
およそ考えられるSFがこの一冊にまとめられていると考えると、とても豪華な作品集であると感じるし、その豪華さと裏腹に豪華すぎて虚構のようにも感じてしまう。
まぁその虚構感もSFっぽくていいかな、なんて思ったりもしますが。
ネタバレ書くにも話が多すぎるので、上にも少し書きましたが、私が気に入った話が掲載されているページ数を羅列しておきますね。ちなみに、読みながら気に入った話には付箋を貼っておいたのですが、付箋がえらいことになってます。
P6、P13、P14、P15、P19、P23、P32、P38、P51、P53、P70、P79、P83、P91、P100、P116、P120、P124、P129、P141、P145、P149、P155、P167、P175、P199
こんなとこかな。
この中でも、P83、P91、P120、P145、P149が今のベスト5です。
P83は、不完全な神を必要としているという状況はどんな状況なのか気になります。不完全な神を必要としているとなれば、その不完全な神が支配するであろう世界を破滅の方向に向かわせたいときではないかと。
そうなると、ちょっとさらに疑問。神の卵を産卵している存在は何者?そして、その卵を選別しているのは何者?
考えれば考えるほど、じわぁっと背中に悪寒を感じるような話でした。
P91は、わかりやすさが好き。ホラーなんですけど、未使用テイクという表現に近未来感も感じます。自分の子供に対して、何度も何度も人工的な生産を試み、失敗した生産の記録を未使用テイクと表現するのは、直球で怖い。
また、世界を人工的に作るという設定もありそうだけど、アルバムの表紙というのは個人に対する表現という意味合いが強そうです。
P120は、これはもう、完全にホラー。何かがおまけとして付いてくるのであれば、まぁ嬉しいのでしょうが、「振り切ろうとしてもついてくる」ってのは。。。全力で逃げている後方から、つかず離れずの距離でついてくる「何か」を想像しました。
まじで怖い。
P145は、誰の感想なのかってのがキモですかね。無人化が進んだ未来に、徹底的な無人化推進の結果、人間までもがいなくなった世界で、「人間がいなくても支障がない」と誰が考えているのか。現代のロボット化、無人店舗等への痛烈な皮肉とも思えなくもない。
P149は、自動運転までは理解できるが、そこから自動車が「自立して生命を得た」ように思えることがまず不思議。生命体となった自動車が、道路という限られた活動範囲から外へでるために「四足歩行」という方法を用い、さらには人間がそうであったように二足歩行へと進化。
さらに時間が経過すれば、人間の発明の中でも大きな転換期となる「車輪の素晴らしさ」を再発見することになるのだが、いやちょっと待て。おまえは車輪を回転させて進んでいた「自動車」だったよな?ってのが、落ちになるのかな。自分という存在を見失った結果への皮肉って感じですか。
何も考えずに読めば、サクサクと読めてしまうので、一日で読破することも可能だとは思うのですが、一つの作品を読み後に内容を租借して、ストーリーを膨らませていくことで、楽しみ方も膨らんでいきますよ。
読書好きには、是非読んでほしい。
このような作品は、読書好きの友人と内容についてあーでもない、こーでもない、と話し合えると本当に楽しいですよね。
誰かそんな友達になってください。
サポートを頂けるような記事ではありませんが、もし、仮に、頂けるのであれば、新しい本を購入し、全力で感想文を書くので、よろしければ…