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星の願いが
約束は絶対に守ると決めていたから飲み会を切り上げた。
「僕は今夜、ペルセウス座流星群を見上げるんだ。7歳の息子とね」
酔った友人は囃して嘲って僕をその場の笑い者にしようと必死だったけど、後ろを見る気には全くならなかった。
息子との約束ほど、人生をかける意味のあるものなんかそうそうない。
デッキチェアを並べて見上げた夜空に流星はなかなか降らなくて、待っている間、僕らはカメラのことを話していた気がする。そしてようやく一筋、銀の針のように星が煌めいた。
「願い事いっぱい言うんだ」と言っていた息子。
「今だよ!」振り返ったら、天の川の岸辺を吹く夏の夜風に包まれ、息子は眠っていた。
それから僕は、ようやくカメラに一つ流星をつかまえて、息子をベッドに運んでから、その一枚をデジタル現像してプリントし枕元に置いた。これから先、いつでも何度だって願い事が言えるように。
それから僕らは幾らか歳をとった。
今夜息子は、ペルセウス座流星群を見ている。家の庭でデッキチェアに横たわって、ではなく。真っ暗な山の上に見に行ったらしい。新しいGoogle pixel4というスマートフォンは、あの当時僕が家族を撮るために使っていたDSLR、いわゆるデジタル一眼レフと呼ばれる種類のカメラよりもだいぶ綺麗に夜空を写している。息子は流れ星を見て何を願っているのだろう。願いが叶うことは極めて少ないんだと気がつき、クールで現実的にありのままを見ているだけかもしれない。
だが少なくとも、僕の願いは叶った。
子供らが、ゆっくりでもいいから自分の人生を心のままに歩き出して欲しいと、群から放たれた銀の流星に、あの時のペルセウス座流星群に向かって何度も祈った、あの願いは。
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