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買収ファンドと雇われ経営者たち

「私は経営者ではない。ファンドマネージャーだ」

伝説のファンドマネージャー、鷲津の名言の一つである。映画「ハゲタカ」のなかで、アカマ自動車社長の古谷へ言い放ったことばだ。買収ファンド(PEファンド)と雇われ経営者について考えてみたい。

ファンド買収後の経営体制

PEファンドによる企業買収の場合、営業・技術系取締役はプロパー(たたき上げ)で残しながら、取締役会長、CEOとCFOは外部から招聘し、取締役会にPEファンドメンバーを送り込み取締役会の過半を保持するケースが多いと思う。

買収前の経営陣がオーナー企業であり、従業員からの求心力が強い場合は買収後も経営に関与してもらうことになるだろう。

買収検討と並行して、PEファンドは人材紹介会社と連携し適任者を探すことになる。

雇われ経営者のインセンティブ

PEファンドが買収から得るリターンは、①エグジットによる売却益、②配当、③経営指導料などの名目で買収先から得るリターンの大きく3種類だ。

このうち、①エグジットによる売却益については、雇われ経営者と買収ファンドのベクトルを合わせる、すなわち買収後の企業価値を高め売却益を最大化するためのインセンティブが設計される。経営陣の雇用契約書の中にインセンティブ設計が織り込まれることになる。具体的には以下のようなものだ。

  • PEファンドがXXX億円以上で売却できたら、X億円お支払います

  • この目標が達成できなかったとしても、固定額で最低XX百万円お支払いします

このインセンティブがあることによって、経営陣は事業成長のために邁進することになるし、本心では誰もやりたくはない人員削減やサプライヤー効率化などが必要な場合には先頭にたって推進することになる。

決して億万長者になれる金額ではないが、ファンドエグジットまでの数年間で得られるリターンとしては十分なように思われる。案件により大幅なレンジがあるが、おおまかなイメージとしては、役員全体でならすと一人平均5000万円くらいを想定しておけばよいと思う。

雇われ経営者の実相

自分の利益とPEファンドの利益が一致するような行動を促すインセンティブは経済合理性がある。企業運営の現場で働いているひとには一銭もはいらないが、経営がよくなるのであれば報酬面などで従業員にもプラスになる話だとおもう。

ただ、雇われ経営者はPEファンド売却後の行動は非常にドライだ。

あるPEファンドより買収先へ派遣された会長は、月数回出社(取締役会、経営会議、出張など)くらいで、PEファンドエグジット時に5000万円ほどを受け取り、PE売却後はすぐに退任していた。

あるCFOは外部から派遣されていたが、これもファンド売却時に4~5000万円ほどの報酬を受け取ったのち、1年ほど勤めたあと他の企業に移っていた。

PEファンドは企業買収後に、経営のプロである雇われ経営者に経営を委託し、ファンドエグジット後は双方姿を消す。両社は経営と監督の緊張関係があるが、最終的な方向性は一緒になるようにインセンティブ設計がされている。

買収ファンドの仕組みなどについては別の機会で語ってみたい。

参考書籍


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