愛じゃなくていい、ここに居させて
彼女は、僕と過ごすはずだった3日間を
『最低だ』と言っていた、元カレと過ごした。
彼女にとって、彼は初めての彼氏だった。
背が高く、スタイルも良い。
切長の目に、マッシュヘアでサラサラの髪、骨張った手。笑うと目がクシャッとなる人で、誰にでも優しくできる人。
そうやって、彼の特徴を教えてくれていた彼女。
彼と彼女が出会ったのは、彼女が23歳の時だったから4年前。
そんな彼から、好きだと言われて付き合い始めたのが3年前の夏。
結局、彼女は今夜も、僕の知らない誰かの腕の中で、眠る。
彼女は、同じ会社の人だった。
出会いはよくある会社の飲み会、部署の先輩に誘われて参加した店で彼女とは知り合った。
僕より1つ年上で、気さくで、人当たりがよく、ホントか嘘かわからない話で人を惹きつける。それでいて、誰にでも平等に接する彼女は、輪に馴染めずにいた僕にも同じように話しかけてきた。
だから、僕らが仲良くなるのに、それほど時間はかからなかった。
「れいさんって彼氏とかいないんですか?」
初めて二人でご飯に行った帰り道、半ば酔いのせいにして彼女に質問したことを今でも思い出す。
「いるって言ったらどうするの?笑」
「それは困ります」
「純粋だね」
結局、笑って誤魔化されたけれど、その頃には、僕の彼女への感情は、取り返しのつかないところまで来ていて、それが愛かどうかなんて考えるまでもなく、僕は彼女に夢中だった。
彼女はタバコを吸っていた。
IQOSじゃなくて紙タバコ。
柄にもなく赤マルが好きな彼女は、僕以外の前では決して吸わない。
「身体に悪くても、お金の無駄になろうとも、私は吸い続けるよ」
男として見られていないのが悔しくて、彼女と同じように赤マルを吸い始めた僕のことを、彼女は『可愛いね』と言って笑った。彼氏だとか、友達だとか、この関係に名前なんてなくてもいいから、ただ、彼女の側に居たかった。
彼女とは何度かのご飯を重ね、そのうちの何回かは彼女の家で夜を過ごすような月日の重ね方を繰り返した。それでも、決してこの二人の関係が崩れることはなく、体を重ねるなんてことはもちろん、決まって別々のベッドへと入っていく二人の距離は布団1枚分にしてはやけに遠かった。
店に入り、席につき、注文した料理が届くまでの間
彼女は決まってタバコに火をつける。
馬鹿のことをしてはしゃいでいた彼女が、
タバコに火をつけると静かになる姿が堪らなく好きだった。
僕に見られているのに気づいて彼女が笑う。
「見ないで、恥ずかしくなるから」
「れいさんってタバコ似合いますよね」
そういうと、彼女は咳き込んで笑っていた。
「そんなこと初めて言われたよ笑」
そういってひとしきり笑った後、彼女は本当に黙り込んでしまった。
彼女に教えてもらった吸えるところまでのタバコの線。
まだ吸えるはずのタバコの火を消して、
彼女は、3年付き合っていた彼氏と別れたことを教えてくれた。
彼の浮気が原因だった。
ポツポツと彼とのことを教えてくれる彼女の言葉を
僕はただ頷いて見守るしかできなかった。
「ねえ、このままさ、海まで歩こうよ」
ひとしきり話した後、彼女は僕を夜の散歩へと誘った。
歩きながらも、彼女は『その彼』のことを教えてくれた。
背が高く、スタイルも良い。切長の目に、マッシュヘアでサラサラの髪、骨張った手。笑うと目がクシャッとなる人で、誰にでも優しくできる人。
そんな彼のことを、彼女は『最低だけど、最高な人』と笑った。
その日の夜、すっかり通い慣れてしまった家で、
ずっと好きだった人とキスをした。
夢にまで見たはずのキスは、体の芯から熱くなってくる感じに似ていた。彼女は「好きになるとキスの相性も変わるんだって」と教えてくれた。そんなことはどうだってよかった。
その日から、彼女とはそういう関係が続いた。
終電と共に揺られて家へとやってくる僕のことを、彼女は『魔女の呪文』だと馬鹿にした。それでも、その時の僕にはそれが僕だけの特別なもののように思えて、嬉しかった。
彼女と会えるのは、月水木のどれかで、それ以外の日は決まって『ごめんね、昨日は無理だった』と翌朝LINEが届いてた。2人で眠るには少し狭かったシングルベッドも、彼女と肌を重ねて眠る日はしっかりと熟睡できた。
彼女が、結構遊んでいるのであろうことは知っていたけれど、それでも、月水木だけは僕の腕の中で眠る瞬間が愛おしくて、そんな関係に僕も満足してしまっていた。
いつだったか、彼女から『旅行へ行こうよ』と誘われた。
結局、約束の日に彼女は現れなくて『ごめん』とだけ送られてきたLINEを最後に僕らの関係は終わった。
どれだけ苦しんだところで、何も変わらずに進んでいく日常。
普段通りじゃないことといえば、
彼女は、最低だと言っていた彼とまた連絡を取り始めたこと。
戻ることもできずに、
その彼のセフレとして過ごしていること。
愛じゃなくてもいいから
僕はただ、あなたの側に居たいだけだったのに。
訪れることのなかった3日間が、僕の邪魔をする。
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エピローグ
どれくらいの温度感で事実を残すのか。
僕がnoteを書くときに、いつも考えることです。
『どこに希望を残し、どこに事実を残すのか』
誰かの物語であっても、100%が事実であるわけにはいかない。
そんな中に、バレないようにこっそりと
『僕にとっての希望』を隠す。
誰かの手に届くときには、全てのnoteが
誰かの希望になっていてほしい。
そんな想いから。毎回全てのnoteを書き上げていきます。
今回、実はこちらの曲を希望に込めてnoteを書き進めました。
誰よりも、自分のことをわかってほしいと願った相手に
いつか届いてくれる言葉が見つかる日を、希望に込めて。
案外、自分の邪魔をするのは自分だったりします。
届けたかったはずの本当の言葉も、気持ちも
誰よりもわかっていたはずの自分が邪魔をする。
いつか、
届けたい言葉や、届いてほしい気持ちが
本当に届けられることを希望に込めて
このnoteを残します。
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