見出し画像

記録6

引用
『自分の内部と外部とが不規則にゆるやかに交代し、まわりの無意味な風景が私の目に映るままに、風景は私の中へ闖入し、しかも闖入しない部分が彼方に溌剌と煌めいていた。その煌めいているものは、ある時は工場の旗であったり、塀のつまらない汚点であったり、草間に捨てられた古下駄の片方であったりした。あらゆるものが一瞬一瞬に私の内に生起し、又死に絶えた。』
記録
 内面の描写は言わずもがなで素晴らしいのだが、その移り変わり、その遷移、その境界、の書き方が素晴らしい。まずここまで書けるのはその頭脳も影響しているとは思うが、何よりも見ていることを一切放棄していないことが、ここまでのものを書けるのだろう。見逃しても良いところを捨てることはなく、何かしらの価値を隈なく探す。もし見当たらないようであれば、こちらから付与する。そう、この付与の過程ではその頭脳が活かされるのであろう。ここまで見ることを放棄しない人はもう出てこないだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?