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【短編小説】「再死」

現実リアルとは遠くかけ離れた死後の異世界。
余生を奪われ第二の人生をつむがんとする者達の為に、
始業の鐘は、今日も静かに街を包み込む。

教室の中は、いつまでも五月蠅うるさかった。
四月八日、今日この日。晴れて高校一年となった僕は、騒がしいクラスの窓際で桜吹雪の後を目で追っていた。

― 死んでから桜を見たのは、たしかこれが初めてだっただろうか。


生前の記憶はおろか、最近のことすら鮮明に覚えていられなくなった。
というのは、勉学に励むべき学生には面倒な現実だ。
そもそも、 死後の世界で生きている・・・・・・・・・・・という現実すら、十五の少年には到底受け入れ堅い事実なのだが。


外の風は、いつの間にかどこかへ消えてしまっていた。推進力を失った花弁は、所在無さげに地面へ吸い込まれてゆく。ふと気がつくと、隣の席に屯する幾人かのグループの話声に、耳を傾ける自分がいた。
「俺は、妹をかばって死んだんだ。あいつ、ろくに乗れやしないのに一輪車で車道を走るんだもの。まだ小三だぜ? 女って度胸あるよなぁ。」
「その妹は助かったのか?」
自慢気に話す丸刈りの男児に、取り巻きの一人が尋ねる。
「勿論。中学の時サッカー部だったからな。反射神経と足だけは速いんだ。あと一秒速かったら、俺も助かっていたのになぁ。」
「俺は、小さい頃にかかった肺炎をこじらせた。」
「僕は…」
エトセトラ。
どの話も、あまり聞いていて心地のよいものではなかった。正直に言えば、耳を塞ぎたいものばかりだ。
大体、自分の死因を人に話す、なんてそんな奇妙な話があるか。少なくとも、生前の世界では、そんな風に軽々しく言える話ではなかった。

― もう一度、生き返ることはできないのだろうか。


「…なぁ。おーい。聞こえてないのか?」
突然、どこへともなく彷徨っていた意識が引っ張り戻された。
「…何さ。」
「お前、何で死んだんだ? 教えてくれよ。」
「…別に。」
馴れ馴れしい奴だ。
「別に、ってことないだろう。死んだ理由を教えてくれよ。って言ってるんだよ。」
「…知らない。」
「は?」
「知らないものは知らない。というか、覚えていない。確かに僕は死んだ。ここにいるってのはそういうことだ。でも、何で僕は死んだ?分からない。記憶にないんだ。」
たてつづけに、そうまくしたてた。


死因? そんなもの知るかよ。僕が一番知りたいくらいだ。


「…なら、死ねばいいんじゃないのか。」
「…? どういう意味さ? もう僕らは既に死んでいるだろ。何を言って…」
「知らないのか!? この死後の世界で死ねば、もう一度現世に生き返れるんだ。」
「…!? 本当なのか!?」
「嘘じゃない。記憶はほんの僅かしか残らないけど、な。」
「ほんの僅かか…でも、確かに残るんだな?」
「それは自分で選択できる。残しておきたい記憶を強くイメージして死ねば…っておい!」

―窓を突き破った。硝子の破片が肌を切り、打ちつけた肩には鈍い痛みがかけめぐる。
 足場はない。
 迷いもない。
 ただあるのは、重力と強い記憶。

― 探すんだ。もう一度生まれて。
  僕の死んだ理由を。
  生きる意味を。

止んだはずの風が、これまでにない強さで後ろへ、空へ、吹いていく。


せまる地面に身が触れた瞬間

― 僕の意識は、再び世界の狭間に飛んだ。

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