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【短編小説】機械人間

技術の進歩は、緩やかとは程遠いものだった。
劇的に、急激に日々進化するそれを、あたかも人は手足の様に扱った。そうすることに、彼らは何の躊躇いもなかった。
それがどんなに便利で、素晴らしいことかを知っていたからだ。
 
やがて人は、気づいた。
手足の「様に」しか扱えないのは、なんとも不便だと。
発想は、常識を凌駕する。皮肉にもその結論にたどり着いた人々は、機械と一体になった。
 
思い通りに動く。かつて手足にしかできなかったことが、次々とできるようになる。 
機械の進化は、止まらなかった。
 
やがて人は、「定め」からも逃げようとした。
病気になれば、腐った内臓を機械と取り替えた。
怪我をすれば、崩れた骨を機械と取り替えた。
歳を重ねれば、惨めな肌を機械と取り替えた。
 
かくして、人の歴史は機械に塗れた。
 
その日。
 
小さな積乱雲が、空を満たした。
なんでもない、取るに足らぬものだった。だが。
 
風雨の中、一筋の光芒が大地と空気を震わせた。
 
普段なら、何でもなかったであろうそれは、
機械まみれの街と人を伝って、刹那のうちに流れた。
焼き切れた回路と、焦げ臭い煙。
悲鳴を上げるまでもなく、意識が遠くなる。
 
人の歴史は、そこまでだった。
 


あとがき 「それでも世界は美しい」

機械に塗れる、という表現をどこで聞いたか、もう忘れてしまった。
けれども、その言葉が表す世界の深さに目がくらんだ、あの不安定な情動は今でも忘れようがない。
ここ数十年の情報機器の進化には驚かされるばかり。
ふと世界を見渡してみれば確かに我々は多種多様な機械に塗れているし、これからもそれは変わらないだろう。

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