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【短編小説】オールドファッション

どこか遠くに、鳥のさえずりが聞こえる。

これは、すずめだろうか
「二羽、いや三羽いるようだ」
相変わらず朝から高い声でよく鳴くものだ、
と思ってみる。

いや…まて…朝から? …朝?

瞬間、深浅を彷徨っていた意識が戻ってきて、慌てて飛び起きた。

ああ、またやってしまった。

どうやら、昨晩パソコンで仕事をしていて、そのまま寝てしまったらしい。たしか、シャワーすら浴びてなかったはず。
机上に散らばる書類の束をまとめて鞄へ突っ込むと、ベッドの布団に捨て置かれた昨日のワイシャツとネクタイを着た。

午前八時十三分

どうやら、また朝ゴハンは抜きのようである。
荷物をまとめ、乱雑な部屋を後にする直前。
誰かに呼ばれたようで、僕は部屋を振り返った。

―あれから彼女のいない世界でもう一年が過ぎようとしていた。

部屋の奥には、まるであの日のように、開け放たれた窓があった。

あの時と同じように、こうやって窓を開けておけば、また彼女が…
なんて、浅はかにもそう思ってしまう。

―もう決して、彼女には逢えないのだろうに。

でも、それでもいい。

こうやっているだけでも、きっと何かが違うんだろう。

―今夜は、彼女の大好きなオールドファッションをたくさん買って帰ろう。食べきれない位たくさん。どうせ給料日だもの。少し位、いいよな。

そう思いつつ、僕は部屋を出ていった。

―もう誰もいない部屋に、また一つ風が吹いた。

秋の空気を運んできた、細やかなそれが、レースカーテンを一瞬の間にふわっと舞い上げる。

―その窓辺には、朝日を浴びて笑うように輝くあの小さな指輪が、そっと置かれているのだった。

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