第13話 自衛隊ー術科学校


「いやーやってらんねぇよな、こんなクソ暑いのにマラソンなんて信じらんねーよ」

みつおと、他3名は、マラソンの途中で抜け出し、木の影でタバコを吸っていた。

「ほんなこつ、なんで馬鹿みたいに走らんといかんのや、かったりー」

みつおの一番の友達は、熊本の奴だった。

高校生の時までヤンキーだったのが、自衛隊に入って規則正しい生活を強いられかなり不満がたまっていた。

他の二人も、宮崎でやんちゃだった奴と徳島でやんちゃだった奴で、みつおは別にヤンキーだったわけではないが、何故か仲間になってつるんでいたのだった。

みつおは航空機整備士になるためだけに自衛隊に入隊したのだが、わがままな奴のおかげで無線設備の職種に配属され、かなりふて腐れていた所に、熊本の奴が声をかけてきたのだった。

「キンジョー、一緒に飲みにいこうや、こんなつまらん所おったら欲求不満やろ、パーっと派手に遊ぼうぜ」

そうやって、最初に飲みに行ってから意気投合したのだった。

教育隊のときと違って、ここでは何もやる気がなくなっていた。
 
いっそのことクビになったらラッキーだとさえ思っていた。

この後、希望の那覇基地に配属してくれるという約束があったので、どうせなら那覇基地に配属になってから辞めようと思っていたので、ここでいい成績などくだらないことのために頑張る気はなかったので、ふざけた奴とふざけている事で気を紛らわせたかったのである。

2人で連んでいた所に、宮崎の奴が面白そうだからという事で加わってきて、その後、宮崎の奴が面白い奴を見つけたといって、徳島の奴を連れてきたのだった。

だから、だいたいサボるときはこの四人で連んでいたのだった。

「もうそろそろ終わりじゃねぇか?」

「そろそろだな、でももうちょっと待て、今出ると先頭当たりだから、最終後尾が行ってからだ」

そのマラソンは、基地内を10周するというものだったが、1周回った所で裏山の林の中で待ち合わせし、みんなが10週回るのを待って、最後の1周を走っていかにも10周走りましたって顔でゴールする作戦だった。

クソ暑い8月にマラソンさせるなんて気が狂っているとしか思えなかった。

これから自衛隊でやっていこうと思っている奴らには、真面目に訓練を受けいい成績で術科学校を卒業することで、その後の昇進にも関わることなので大切なのかもしれないが、みつおは辞めるつもりないので、そんな事に興味がなかったのである。

何事もなく静かに平々凡々と学校が終わるのを我慢してやり遂げればいいのだが、あまりにも理不尽なやり方に不満なみつおは真面目にやる気はサラサラなかった。

そんな時に繋がった仲間で、この半年間を楽しむしかないと思っていたのである。

他の3人は、マジで高校時代に不良だって奴なので、高校時代の武勇伝の話は最高のネタだった。

宮崎の奴と熊本の奴は近かったせいか共通の話題を持っていた。

2人とも車が好きで、昔流行ったシャコタンの車に乗っていたらしい。

車に興味がなかったみつおにとって、初めてことびかりだが、とにかく2人の話し方が面白かったので、バラエティ番組をみているような感覚で2人の話を聞いていたのだった。

しかし、他の3人は辞めたいと思っているわけではなく、ただかったるいだけだったのだが、みつおが

「あんなマラソンなんてやめようぜ」

と提案すると

「なんばいよっと、そげん簡単にやめれんばい」

と反論するのだが

「最初だけ走ったフリして、どこかでサボって最後にまた走ればいい」

「お前頭いいな、乗った」

それでそいつが、宮崎と徳島の奴に話を持ちかけて、4人でサボってたのである。

みんなが苦しそうに走っている姿を木陰でタバコを吸いながら見学するのは最高だった。

「いやー疲れた、まいった死にそう」

「ほんにやってられんばい」

「もうこんなのいいとよ」

「今日はビールが上手いかも」

最後尾でゴールし、いかにも走りましたって顔でそれぞれが口にしていたのだが…

「おーい、そこの4人、ちょっと来い」

班長に呼ばれたのだった。

当然だが、班長にはサボっているのがバレていたのである。

それは当然といえば当然だ。

班長が抜け出したことを見抜けなかったら、実際の戦争で掌握することはできないだろう。

点呼の時だけではなく、常に全体を掌握しているのが班長の務めである。

「お前らはサボりの四天王だな、まったく」

半ば呆れた班長だったが、そんな奴らでもいないと退屈な職種である。

当然怒りはするが、結構気に入られているのは感じていた。

バツとして腕立て伏せ500回が言い渡されて説教は終わった。

もちろん、一気に500回も腕立て伏せができるわけがないので、分割で100回づつ、時間がある時に班長室でやるのがお決まりになっていた。

「やべ〜、俺もう2,000回分貯まったぞ」

「マジで? 俺はまだ700回や」

こなしていかないとドンドン貯まっていくのである。

みつおはこまめにやっていたので、今回の500回だけだった。

「うゎー、せっかく貯金無くなったのにまた貯まってしまったよ」

とみつおが言うと

「なんやキンジョー、真面目にやっとるんやな、俺のも代わりにやってくれよ」

「イヤだよ面倒くせ〜、第一腕立て伏せよりも教官室に言って他の教官にからかわれるのが一番イヤなんだから」

「あっ、分かる、他の教官から馬鹿にされるとムッとするよな、おまんら殺しちゃるけんて思うはほんなごつ」

説教が終わっても、結局一番盛り上がっているサボりの四天王であった。

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