第10話 黄金期


「ピピー」

後半残り10分で同点のゴールが決まった。

「ヨッシャー、このまま逆転だー」

それは三年生が引退してから初の大会だった。

那覇南部の小さな大会だが、この大会を制覇することで活気付き、大きな大会に備える大事な大会だった。

二年生と一年生で新しく編成されたチームでの初の大会だ。

もちろん、みつおはスタメンで右ウイングに入り、フォワードとして試合に臨んでいた。

ベスト四までは軽く進んだが、準決勝で苦戦し、何とか勝ち抜いて決勝戦まできていた。

前半に一点を先取したものの、直ぐに取り返され、更に追加点を取られ逆転を許していた。

「おーい、何やってるかー
点を取った後、取られた後の十分間は気を引き締めんか」

ハーフタイムで監督に怒られ、後半を戦っていたのだが、中々ゴールにはつながらなかった。

しかし、何度目かのカウンターでようやくチャンスをものにし、同点に追いついたのだった。

それまで負け負けムードだったのが一気にひっくり返って、押せ押せムードに変わっていた。

そして…

相手のキックオフでゲームが再開し、味方チームのバックとボールの取り合いをしながら攻めてきた。

みつおもバックのカバーに入ろうと必死で戻ろうとしたのだが、

「おーい金城、お前は動くな!、ハーフラインギリギリで待ってろ!」

監督の大きな声で指示が出た。

そうみつおは、守備には加わらなくていいから、味方がボールを奪うと同時に相手ゴールの右のダッシュするという作戦だったのである。

大会の2週間前に監督に呼ばれて、そういう使命を与えられたのだ。

大会2週間前…

「おーい金城、ちょっといいか?」

みつおが放課後グラウンドに出た時に、監督がやってきたのだった。

いつでも一番乗りみつおの他には誰もいなかった。

「お前は本当に足がはやいなぁ、お前の足があれば、今度の大会は優勝を狙えるぞ」

「あ、はいありがとうございます」

今更そんなことを褒めるために監督は誰もいないグラウンドに出てきたのだろうか?

不思議に思っていると…

「だけど、お前のあのドリブルでは話にならん。何で足を使わないで、あんな下手くそなフェイントを使おうとするの?」

「えっ?」

今まで、足が速いことを誰もから褒められていたみつおは、初めて 下手くそという駄目出しをくらい戸惑っていた。

みつおは足が速かったので、いいパスが出た時には、誰よりも早くボールに追いつくことができた。

ところが、ボールを取ってからが問題だった。

ドリブルで相手を抜こうと思っても、直ぐに奪われてしまうのである。

そこで、相手を抜くためにフェイントを練習していたのだが、いざミニゲームで使おうとすると、誰にでも簡単に取られてしまうのである。

そのことを突っ込まれて、みつおは返す言葉がなかった。

「す、すみません」

(よーし、もっともっと練習しよう)

みつおは謙虚に受け取ったつもりだった。

しかし…

監督から出た言葉は意外なものだった。

「金城、お前を責めてるんじゃないんだよ」

監督は親しげに肩に手を回してきた。

「お前の足はピカイチだ、お前の足の速さがうちのチームの武器なんだよ、
だけど、お前はまだドリブルは上達してない、そこでお前の足を最大限に活用したいんだよ」

監督はみつおを説得するために、優しく悟した。

「お前は守備には加わらなくていいから、どんなにチームが攻められていてもハーフラインギリギリで待機していろ
仲間がボールを奪ったら、オフサイドも気にしなくていいから、ひたすら相手チームの右のコーナーに走れ!」

監督はその後、チームが揃ってからみんなを集めて説明した。

「おい、いいか、自分達のチームが攻められているときに、金城はハーフラインで待機させるから、ボールを奪ったら、迷わずに相手チームの右コーナーにクリアーしろよ
とにかく金城を走らせてチャンスを展開するんだ」

その日から、みつおシフトのカウンター攻撃の練習が始まったのだった。

しかし、今度はボールに追いついても、誰もついてきてないのが問題だった。

ボールをキープしても、味方を待ってる間に、敵に奪われてしまうのである。

すると、

「金城、ボールに追いついたら、味方がいてもいなくても、とにかくゴール前にセンターリングしろ!」

という指示が出た。

それで、ボールが敵に渡っても、怒られるのは、みつおではなくボールに追いつかないセンターフォワードだった。

キープができないみつおを何とかしようとするよりも、みつおの足だけをひたすら有効的に使おうと考えたのである。

そして初の練習試合で…

味方が大きくクリアーすると、明らかにゴールキックになると思い、敵も味方もボールを追いかけていなかった。

しかしみつおはひたすらダッシュした。

「何やってんだアイツ」

誰もがそう思った瞬間…

何と、ボールに追いついたのだった。

「えーーーー」

それには敵も味方もビックリして慌てて追いかけてきた。

しかし、ドリブルの下手くそなみつおである。

飛び出してきたキーパーと1対1になったのだが、アッサリと取られてしまったのだった。

「おーーーーーーー」

という歓声の後に、ブーイングの雨嵐だった。

でも、それからというもの、チームからも信頼され、みつおシフトが確立したのだった。

そのみつおシフトで、那覇南部大会も決勝戦まで勝ち進んできたのだった。

そして、同点に追いついて、押せ押せムードである。

みつおは早くボールが欲しくて、ついついバックまで下がってきていたのだが、監督の声で我慢し、味方がボールを奪うのを祈っていた。

そして…


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